インターネット・スカベンジャー

ちびまるフォイ

膨大なデータの暴走

「なんて量だ……」


インターネットデブリにやってきたが、

そこに積まれた捨てられた画像、動画、壊れたファイルを見て絶句した。


「これを分別して消せっていうのかよ……」


なんでもいいから仕事をと受けては見たものの、

このゴミファイルの山の前には言葉を失う。


デブリの山を登りつつ、画像や動画を仕分けしていく。


うっかり撮ってしまったスクリーンショット。

変なタイミングでシャッターしてしまった写真。

変な顔で撮れてしまった集合写真。


スマホやクラウド上から削除されたものは、

すべてまとめてこのインターネットデブリへと行き着く。


「やれやれ、なんて気の遠くなるような作業……ん?」


ふと顔を上げると、空から大きな筒が現れた。


すると、筒を通って大量の削除ファイルがドサドサと落ちてくる。


「うわわっ! なんて数だ!?」


継ぎ足しされたゴミファイルは、先ほど自分が仕分けたファイル数をゆうに超える。

これじゃいつまで経っても終わらないだろう。

賽の河原で石を積んでいる方がまだ建設的だ。


「うう……なんてしんどい仕事なんだ……」


ぶつぶつ言いながらもやるしかない。

自分を納得させつつデブリを片付けているときだった。


「え!? これ……まさか」


思わず手をとめた。

デブリの山から出てきたのは有名俳優のプライベート写真だった。


おおかたスマホで撮ったものの端末に残すのはリスクなので消したのだろう。

消されたファイルはもれなくデブリに漂着する。


「これ週刊誌が見つけたら大喜びのやつじゃないか……」


次に見つけたのは、電車を撮影した動画ファイルだった。


「うそ!? これあの引退した伝説の列車の動画じゃん!

 もったいない! どうして捨てたんだ!?」


周囲には同じようなファイルがいくつも転がっている。

スマホの容量の関係で昔のものをまとめて整理したのだろう。


好き好んでインターネットデブリとかいう果ての地へ踏み入れる人などいない。


それだけにここには手つかずの"お宝"がいくつも眠っていた。


「すごいぞここは。宝の山じゃないか!」


本来の自分の仕事をすっかり忘れて、

インターネットデブリから使えるものを探すスカベンジャーに切り替えた。


見つけたお宝は売れる場所に売ったり、

インターネットの財産として登録したりして生計を立てた。


もはや本来のインターネットデブリ清掃などという仕事より

スカベンジャーでかせいだほうが明らかに効率的で儲けることができた。


「あっはっは! こんな世界があるなんて! 最高だ!!!」


大量の情報とデータが行き交う現代。

知らず知らずのうち、資産価値もわからないまま捨てられるファイル。

こんなにも美味しい仕事があるなんて思わなかった。


そして今日もインターネットデブリを漁る仕事をはじめた。


「さーーて、今日はどんなお宝が見つかるかなぁ?」


うずたかく積まれたデブリファイルの山をかき分けて進む。

そのとき、ぽんと肩を叩かれた。


「君、〇〇くんだね?」


「はあ。俺になにか?」


「我々はサイバー警察だ」


「え゛。な、なななな、なんでしょう」


「通報があってね。君が人の財産を勝手に横流ししていると」


「ちょ、ちょっとまってください!

 俺が売りさばいたのはここに捨てられたゴミですよ!?」


「捨てられたとしても、それを売って良い理由にならんだろう」


「なりますよ! 俺は単にリサイクルしていただけじゃないですか!」


「とにかく貴様を逮捕する。通報があったからには

 捕まえなくちゃこっちとしても言い訳ができん」


「うわーー! 離せ! せっかくいいお宝が見つかりそうなのにーー!!」


手錠をかけられデブリから引きずり出された。

そのとき。


「待ってください」


デブリの山には似つかわしくない。

きれいなスーツをビシッと着こなした男が現れた。


自分でもテレビで見たことがあった。


「あなたは……一流企業の社長……。どうしてここに」


「まあそれはいいじゃないですか。

 ところで刑事さん、その若者を離してくれませんか」


「いいえそれはできません。こっちも仕事なんでね」


「ではこの小切手をどうぞ」


「さあ解放しました! お好きにどうぞ!!!!!」


「ゴミより腐ってんな」


爆速で外された手錠はそのままゴミとして捨てられた。

警察はあらゆる証拠を消してこの場を去っていった。


「あの社長さん。どうして俺を助けてくれたんですか?」


「君の腕に引かれたんだよ」


「そんなに鍛えてませんよ?」


「君はこの膨大なゴミの山から、資産価値のあるものを見つけ出した。

 その観察眼と審美眼に惹かれたんだ」


「は、はぁ」


「どうかな? 私の頭の中でマインドスカベンジャーとして活動しないか?」


「まいんど……なんですって?」


「マインドスカベンジャーだよ。

 こう年をとるとね、頭の中が余計な情報でいっぱいになるんだ」


「はあ」


「その膨大なゴミ情報の中から、脳内で有益な情報や価値あるものを引っ張り出す。

 いわば脳内の探窟家というわけだ。どうかな?」


「俺なんかでいいんですか」

「君だからこそオファーしたんだよ」


「わかりました! やらせてください!!」


こうしてインターネットデブリのゴミ漁り人から、

社長の脳内のゴミを仕分ける探窟家へとクラスチェンジに成功した。


「それじゃよろしく頼むよ。

 社長ゆえに脳内には膨大な情報やデータが溜まっている。

 そこに埋もれている新たな可能性やアイデアを見つけてくれ」


「まかせてください!!」


社長の頭の中に入った。

そこには事前に聞かされた以上に高度で緻密で膨大な情報が積まれていた。


「これはすごい……なんて量だ……」


圧倒的な物量に気圧されているとき。

山の上から人影が見えた。


「やあ新入り」


人影はひとつじゃなかった。

いくつもの人影が山からぞろぞろと出てきた。


「だ、誰だお前ら!?」


「まあまあ。僕らは同じマインドスカベンジャーだよ」


「はあ!? 社長から俺ひとりとしか聞いてないぞ!?」


「そりゃそうだよ。記憶の痕跡を消しているから」


「なっ……なんでそんなことを!?」


「まあ聞けって」


先輩スカベンジャーというか不法滞在者はゆうゆうと歩み寄る。


「ここは天国だ。その気になればこの体の主導権だって握られる」


「お前ら脳内で仕事してないのか……?」


「なんでそんなことしなくちゃいけないんだ?

 脳内をのっとって、社長として好き勝手できるのに?」


「えっ……」


「普段はこうして主導権をみんなでリレーしてるんだ。

 お前もスカベンジャーなんか辞めて、一緒に脳内でニート社長生活しようぜ」


「……」


「最初は抵抗あるかもしれない。でも最初だけだ。

 気にすることない。ちゃんとお前が入ったっていう記憶も消しておくから」


「本当に……?」


「もちろん。みんな仲良くシェアハウスがここのモットーさ」


「本当に、社長の体を操れるんだな……?」


「そうさ。だからみんなで社長として暴れられる日を決めて、

 かわりばんこで発散してるんだ」


「そうか」


その言葉を聞いてやることが定まった。




「じゃあ、お前ら全員消せば、この体は俺のものなんだな」




一方、社長は急に頭痛を訴え始めて病院へ運ばれた。


「しゃ、社長!? 大丈夫ですか!?」


「あ……頭がなんかめっちゃ騒がしい……!!」



もちろん脳内で起きている大抗争など知る由もない。

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