無名の鉄屑人形
憑弥山イタク
無名の鉄屑人形
鉄板の端材。
折れた釘を数本。
錆びたワイヤー。
廃棄されることが確定された鉄屑達が集い、人の形を模していた。よくある藁人形に等しい大きさだが、藁ではない為に重い。言わば、鉄屑人形。
束ねた鉄屑を、ワイヤーで縛りつけたその人形は、誰が作ったのかが分からない。そもそも、本当に人が作ったのかさえ分からない。奇跡に等しい偶然が引き起こした、非人工的な代物かもしれない。
それはともかく、この鉄屑人形が発見されたのが、酷く不気味な状況であった。
路上で発見された男性の変死体。その腹部、皮膚よりも内側に、鉄屑人形が存在していた。手術痕は無し。さながら結石が如く、"体内で勝手に作り出されたのではないか"と、オカルトじみた発想に至る者も居た。
そして腹部から摘出された鉄人形は、警察署内にて保管されていたが、いつの間にか消失。誰かが持ち出した形跡も記録も無く、消失としか表現できなかった。
消失から2日後。鉄屑人形は発見された。が、またしても、新たに確認された男性の変死体の腹部から摘出された。酷似した別個体ではなく、明らかに同一の人形であり、また、今回も同様に変死体から手術痕は確認されなかった。
即座に、警察内部で鉄屑人形が話題となった。ホラー映画等に登場するような所謂"呪いの人形"とは異なり、この鉄屑人形には名前が与えられなかった。ただ皆が皆、鉄屑人形と呼んだ。
鉄屑人形は、その後も消失と発見を繰り返し、気付けば合計5人分の遺体を量産していた。しかも、全員が男性の変死体である。
変死体は全て、鉄屑人形の呪いで死んだ。
鉄屑人形による呪いを装った連続殺人である。
2つの憶測が飛び交うが、大抵の人間が前者を信じた。何せ手術痕も残さずに、
人形の呪いという説を信じるに値する要因の一つとして、"被害者は全員男性"である。それも、被害者全員に共通点がある。
被害者は、過去に加害者であった。
嘗て発生した婦女暴行事件。犯人は未成年の男性8名。被害者は20代女性であり、妊婦。当時、高校教師だった被害者女性は、育児休暇中、6人の生徒から暴行を受けた。女性は全治2ヶ月の重体であり、身ごもっていた子供も流産。犯行の理由は、「俺達以外の子供を孕んだことが許せなかった」という最低な理由だった。
被害者女性はその後、教職を辞した。生徒を信じる立場に立つことが嫌になり、また、対人の業種への転職も拒絶。結果、主婦として自宅に篭もり、夫としか極力顔を合わせないようになった。
これまで鉄屑人形の被害にあったおとkたちは、全員が件の婦女暴行事件の犯人である。まだ1人だけ当時の犯人はのこているが、死ぬのは時間の問題だろう。
あの女の呪いだ。あの鉄屑人形は流産したkどもなんだ。誰も鉄屑人形に名前をつけないのは、こどもが名付けられる前に死んだかr。鉄屑人形があいつらの腹の中にいたのは、俺達に妊娠する痛みを味合わせるためだ。
嫌だいやだいやdいあだいやだ!!!!!
来るな来るな来るな来るな!!
俺は孕みたくない!
しにあkない!
いたいいたいいたいいたいたいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい────────────────
◇◇◇
以上が、無名の鉄屑人形事件に於ける最後の被害者が、自宅PCに残した文章である。この男性の死亡確認以降、件の鉄屑人形は消失を止め、同一の被害者は発見されなかった。
無名の鉄屑人形 憑弥山イタク @Itaku_Tsukimiyama
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