第28話 二代目高杉君を探せ

月曜日。

私は電車に乗って元パート先最寄駅のカフェに来た。地産地消をモットーにした自然派カフェであり、季節のフルーツで作ったスイーツが名物だ。

「こんにちは。初ちゃん。久しぶり。」

 高橋初たかはしういちゃん、今年で30歳。相変わらず人好きのする眩しい笑顔である。

「久しぶり。唯芽さん!雰囲気変わったね!それにめっちゃ美人になった!」

私はコーヒーを注文して紙袋に入れたドール服、革のドレスセットを初ちゃんに手渡した。

「唯芽さんの服、話題になってるよ。小物までクオリティが高いって。フリマじゃなくてイベントに参加すれば良いのに」

「うーん、でも夫に内緒だから難しいかなぁ。夫、土日は殆ど家にいるんだー。」

「あー、理解ない系かー。それは難しいかもねー」

 理解がない訳ではないんだけれど、隠れて金策してるのがすごい罪悪感ありすぎて言えないだけなのだ。

それからお互いの近況について話したり、初ちゃんに最近の流行りやアクセサリーの素材について教えてもらったりした。

「最初は金策で親子服作ってたんだけどね。初ちゃんの事思い出してドール服を作り始めたの。そしたら楽しくて楽しくて。」

 これは本当である。ドールは買う気が無いが服を作るのめっちゃたのしい。何と言ってもドールはどんなハードルの高い服でも着こなしてしまう。派手な服だってどんどん着せて良い。誰も変に思わない。何も自粛する必要が無い。人間が着るものを作るのとは違うのだ。

共通の趣味ができたら、久しぶりに再開した初ちゃんと楽しいお喋りを楽しめた。相手の言ってる事も理解できるし、さすがに加減はしたが、私がいつもよりテンション高めでも相手が全く引いていないのだ。

それどころか、私が服作りについて話すと初ちゃんも嬉しそうにたくさん話してくれる。私に負けないくらいの熱意で話してくれるのだ。


趣味の話をしても怒られないのは嬉しい。同じくらいのテンションで語れるのは凄く楽しい。

次は実物のドールを見せてもらう約束をして別れた。


 ――――――――

 さて異世界。

雷魔法を習得して、スタンガンもできるし、雷も落とせるようになったので、いよいよ探索をしようと思う。


前に大岩を落とした所まで来たら、大岩を中心に半径3メートルくらい聖域化していた。

持ってきたコンパスを見ると拠点は南。

そのまま北へ歩いていると何に遭遇する事もなく大きめの川に当たった。橋もないしこれ以上は進めない。

普通は川に沿って歩くのだろうけれど、戻れないのが一番怖いので、魔力探知の目印に2メートル四方を柵で囲んで聖域を作った。ここからボア君の大岩は魔力感知できるし、そこまで行けば、更に真っ直ぐ南で拠点に着く。


一度大岩まで戻って、ビビりながら今度は東に歩く。


しばらく行くと気配察知に反応あり。3つもある。

音を立てないように隠れながら移動する。

そこには、めちゃくちゃ綺麗な鶏が居た。

 

赤い顔の上には赤いトサカ。トサカの中心は目が覚める様な黄色で、首は黄色から茶色、赤のグラデーション。胸と尾は光沢のある真っ青、長い尾の付け根には柔らかそうな白い羽がのぞいている。

そしてでかい。背が私より高い。多分2メートルくらいある。

それはきっと魔物だ。でも全く狩る気がしないのだ。

 「ひよこが居る……。」


 生まれたてのまだ頭に殻を纏ったひよこがもぞもぞと、殻から出ようと揺れる。私はそっと背中を向けて歩き出そうとすると、小枝を踏んでしまった。鶏は激しく鳴いた。

 

見つかった!


 子供を抱えて気が立っているのか、それとももともとそういう気性なのか、私に向かって真っ直ぐに走って来る。

 怖い!

かなりの速さで走ってくる鶏の首に向かって咄嗟に手のひらをかざすと魔力を放った。

 それは覚えたての雷魔法ではなくて、最もよく切れると頭に染みついた無魔法の刃だった。

チェーンソー魔法の刃は回転しながら、突進してくる鶏の首を貫通して後ろでひよこを守っていたもう一羽の首も切り飛ばし、天に向かって飛んでいく。

私は頭から鶏の血を浴びた。


私は自分が思いのほか冷静な事を感じた。

すぐさま鶏を収納し、身体強化で大きな巣ごと持ち上げて来た道を帰る。

親が居ないこの子はこのままだと他のモンスターに食べられてしまう。親を殺した責任を私が取らなければ。

もし聖域に入れなくても小屋を立てて聖域の外で飼おう。柵の配置を考えて、一定以上の大きさの獣が入り込まなくすれば良いんだ。


結論から言うと、ひよこはモンスターだけれど聖域には入れた。すぐにケージを作って巣ごと入れ、土魔法で作った器に水を入れて置き、薬草と魔力草も巣にどっさり入れてタオルをかけてあげた。これで明日までは大丈夫だろう。餌は地球から穀物を持ち込もう。


考えがまとまったのでホッとしてその場に座る。

ふと自分を見ると頭から全身血塗れでさながら殺人現場である。どうやら私は思ったよりも冷静では無かったようだ。すぐさま浄化した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る