最期のおよそ14日間を生きる

夢幻

第1話 余命

———もし普通に生まれて、普通に生きていたら?


私は生まれつき病気持ちで、体が弱い。

学校なんて実際行ったこともなく、大体がオンライン授業だ。

実際今は入院していて、友達は同じ病室の子だけ。

暇があればいつも同じ病室の子———小夜と話すくらいだった。

私たちの病室は私と小夜だけで、私が病院に再入院した時、とてつもない速さで仲良くなった。

でも、その生活はすぐに終わった。

いつも一緒に話していた小夜が、退院したのだ。

退院したのは良いことだと思う。けど、私は辛かった。

小夜が、退院して消えてしまうのではないか、と。

お節介なのは分かっている。

あり得ないことなのは分かっている。

……けど。

小夜と喋ることだけが救いだったから、あのほのぼのとした楽しい生活から、この寂しい空間でひとりぼっちな生活に戻るまで時間がかかった。悲しかった。

正直退院してほしくなかった。

もっと小夜の病気が長引けばいいのに、と思ったくらいの私の気持ちは炎のように熱い。

「染空さ〜ん」

病室の扉から、看護師さんの声が聞こえてきた。

染空とは、私の名前だ。

正直、ものすごく気に入っている。

この気に入った名前で、正式に学校に行きたかった。

『学校』という言葉を聞くたびに切ないような、虚しいような気持ちが込み上げてくる。

「はい、何でしょうか?」

私は看護師さんに答える。

私はまさか、と思った。

もしかして、退院の知らせ?

一気に期待する気持ちが心にパッと現れた。

そんな私の気持ちとは裏腹に、看護師さんは残念そうな声のトーンで言いにくそうな顔をする。そして、声を詰まらせながら言った。

「あの、言いにくいんだけど…。染空さんの病気が、悪化しているの。」

私の弾んだ気持ちは、どこかに吸い取られたかのように萎んでいく。

「それで、もう2週間も生きられないかもしれないの。」

「———え?」

私は看護師さんの言ったことが理解できなかった。

そして、看護師さんに確かめるようにして聞いてみた。けれど。

「え、ど、どう言うことですか?」

「そのままなの。もう2週間も生きられないって、染空さん担当の医師、桜木さんが言っていたんだよ。だから知らせに来たの。」

「…………」

「あ、ごめんね!悲しい話だもんね。………また話すね。」

そう言って、看護師さんは病室から出ていった。

すると、私の目から涙が垂れていった。

私は、2週間も生きられない。

2週間以内に、病気で死ぬ。

そう思うと、自然と涙が溢れ出てくる。

2週間ということは、14日も生きられないということ。

今日は12月6日。12月21日は私の誕生日。

ちょうど私の誕生日を迎えられない。

でも、1日だけ延びたら?

誕生日が命日になる。

でも、誕生日を迎えられないのは抵抗がある。

けれど、迎えられたとしても数日で死ぬ。

色々が複雑で、何が本心なのか分からなくなった。

けれど、確かなことがある。

それは、2週間前後に私は死ぬと言うことだ。

「………っ!」

もう一度涙が込み上げてきた。

私は涙をグッと我慢する。

もう、2週間しかないのだ。

生きている時間が。

家族と居れる、時間が。

行ったこともない学校。

いつかは行ってみたかった。

今から死ぬような、強く激しいショックを受けて、私は悲しみと悔しみでたまらなかった。普通に生きていたら、今頃みんなと遊んでいただろう。

学校にも通い、友情、団結というものを学び。

溢れ出す思いが、走馬灯のように流れていく。

私には、あと14日しかない。

この貴重な時間を無駄にしてはいけない。

私は近い頃にこの世界から、この記憶から、離れるのだ。

私は、病気に殺されるのだ。

悲し涙と悔し涙で視界がぼやける。

元々ただの真っ白な病室も、より白く見える。

まるで、私の心の中みたい。

私はこの現状に、怯えることしかできなかった。

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最期のおよそ14日間を生きる 夢幻 @yyamaguchi

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