第37話 ようやく帰宅


 ひとまず帰宅した俺。

 転移した先の修練場には

 いつもどおり八雲が待っていた。


「おかえりなさい、珀斗様!」

「ああ、ただいま」


 ……と言っていつもどおりのハグ。

 こればかりはどうにもやめてほしいな……。


「父さんたちはいる?

 ちょっとお話したいんだけど」


「お父様はまたご任務に

 いかれましたね。

 お母様は居間におられます」


「じゃあ母さんだけで

 いいか……」


 俺の発言に

 少し心配になったのか

 八雲が俺の顔を覗き込んできた。


「どうなされたのですか?」


「ああ、いや大したことじゃないよ

 海に友だちと行こうと思って。

 先輩方も引率してくれるらしいし」


「お友だちとお出かけですか!

 いいことです」


「うん」


 八雲はてっきり反対すると

 思っていたけれど、

 もうそんなこともないんだな。


 ちょっと意外だ。

 俺も大人として

 認められてきたのかな。


 ともあれ母さんにも

 帰ってきた報告をすることに

 居間に行くとなにやら編み物をしていた。


 どうせ暇なんだからアンテナとか

 うちもつければいいのに……。


 変なところで昔気質だから困る。

 

「なるほど、先輩方が

 いらっしゃるのならば

 大丈夫そうね」


「うちもいく~~!!」


 ……と言ってくるのは

 妹の瑠奈。しかし瑠奈はまだ

 幻力の出力修行をしているところだ。


 安定して出力できるように

 なってきたようだが……。


「こらこら瑠奈

 兄に迷惑をかけては

 いけませんよ」


「でも行きたい~~」


「俺は別にかまわないけど

 幻力を出しっぱなしにするのは

 一般人に良くないんじゃないか?」


「ええ、そのとおり。

 出力訓練が終わるまでは

 家から出すわけには行きません」


「ええ~~」


 ぶーたれる瑠奈。

 しかし幻力が民間人の

 害になるのならば仕方がない。


 実際どういう影響が

 あるんだろうか……。


「ちなみに一般人には

 どんな効果があるんですか?」


「操れない無軌道な幻力を受けると

 幻覚や感覚失調を起こします。

 耐性のない人間にはとても危険よ」


 じゃあ難しいな……。

 海でそんな事になったら

 大事故に繋がりかねない。


「仕方ない。

 出力訓練が終わるまでは

 我慢してくれ、瑠奈」


「うう~~~」

「ああ、そうだ」


 パン、と母さんが手を叩く。

 なにやら思いついたようだ。


「黎亜さんも連れて行ったらどう?」


「ええ? 学校の付き合いに

 連れて行ったらあいつ困らないかな」


「そんなことないわよ

 むしろ喜ぶと思うわ」


 ニコニコと微笑む母さん。

 ろくでもないことを考えてそうだ。

 しかし、断るのも難しい提案だな。

 う~~~ん。


「わかった、あいつが

 ついていきたいって言ったらで」


「そうね。じゃあさっそく

 黎亜ちゃんに連絡しときましょ」


 と言って、母さんが

 手紙をしたため始めた。

 だから電話とか使えよ……。


 と思うが、黎亜の家が

 使っている保証はない。


 仕方ないな……。


 翌日にはついていくという

 黎亜の返信が来たと

 母さんから伝えられた。


 あとは行く日程を

 決めるだけだな。


 と言ってもそれは

 俺の一存じゃあ決められない。


 先輩たちからの

 連絡を待つことになった。


 

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