第32話 テントの設営


 樹海でのサバイバル……

 というと恐ろしいものに聞こえるかもしれないが

 なぜかキャンプ場などが整備してある。


 先駆者が整えたんだろうな。

 ありがたく使わせてもらうとするか。

 

 そういえば冬見が

 あのデカい荷物を持ってきてないな。

 いったいどうしたんだろうか。


「冬見、荷物はどうしたんだ?」

「ん、ああ。小泉先輩に渡してるよ

 せっかく同行してるんだから……」


 そりゃあそうだ。

 小泉先輩は【収納】の術式を

 持っている。


 今回のように荷物が

 かさむことがあれば非常に

 便利だろう。


「あ、そ、そういえば

 あれからちょっと術式と

 向き合ってみたんだけど……」


「どうなったんだ?」

「み、見てて」


 そう言うと冬見は

 折り紙を折り始めた。


 折り紙の蝶々。

 けっこう手先が器用だ。


 するとその蝶々が

 羽ばたき始めた。


「へぇ、折り紙に愛着が湧いたのか」

「う、うん。自分で作ったものなら

 割といけるみたい……えへへ。

 これならかさばらないし……!」


 たしかに戦闘面は

 いささか不安だが量を作れるし

 索敵に向いていると思う。


 たしか冬見は動かしたものを

 使い魔として視界を共有できるはずだ。

 折り紙に視界があるのかは知らないが。


「よし、いっぱい作って

 周辺にばらまいてくれ」


「う、うん!」


 蝶々をいっぱい作り始めた冬見。

 小泉先輩と夏芽はテントを張っているし――。

 飯塚先輩はなんか木陰に座って本を読んでいる。

 あの人、本当に働かねぇなぁ……。


「飯塚先輩、ちょっと何サボってるんですか」


「テントを張るなど二人で十分だろ……

 食料も小泉が大量に持ってきているし

 俺はやることないんだよ」


「じゃあ俺と鍛錬でもしましょうよ」

「やだね、面倒くさい」


 ごろりと横になり、

 無視の姿勢を決め込む飯塚先輩。

 何を言ってもダメそうだ……。


「珀斗殿! 飯塚など

 かまってないでこっちを

 手伝ってくだされ~~!」


「え、あ、はい」


 そんなわけでテントの設置を

 手伝うことに。


 20分もしない間に

 立派なテントが設営できた。


 今日から一週間

 ここが拠点になるわけだ。


「でもお風呂とかどうするんだろ?」

「トイレや風呂の場合は一旦帰ってもいいらしいですぞ?」

「なんかガチ感がないわね……」

「まぁ私たちには必要ありませぬが」


 ぽやぽやと話す夏芽と小泉先輩。

 そりゃあ学校の林間学校で

 ガチのサバイバルやらされても困るだろ。


 冬見も蝶々を作り終わったようで

 周辺には折り紙の蝶々が飛ぶ

 幻想的な風景が仕上がっていた。


 まぁこれで一週間――余裕だな!


「あ、そういえば

 テントの奥にも部屋があるから

 見てきてくだされ」


「ほうほう?」


 見ると、テントがなんと

 拡大されており、地下空間があった。

 普通にシャワールームやトイレもある。


 小泉先輩が【収納】を利用して

 空間を弄ったようだ。


 【転移】の下位互換かと思ったけど

 けっこう使い道があるんだな……。


「男子の部屋はこっち

 女子の部屋はこっちですぞ」


「ありがとうございます」


 そうなると俺、飯塚先輩と

 同じ部屋で寝ることになるのか。

 まぁ別にかまいやしないが……。


「あとは幻獣があまり近づかないよう

 隔離結界を張っておきますかな」


「隔離結界……

 索敵結界の上位の術よね」


「索敵結界は自由自在に

 動かして幻力を感知できるメリットがありまする

 一方隔離結界は一度張ったら動かせませぬな。

 使用用途によるかと」


「なるほど~~~」


 結界にも色々種類があるみたいだ。

 上級生になったら教えてもらえるのかな。


 小泉先輩が印を結ぶと、なんだか

 周囲が膜を張ったような空気感に包まれた。


 これで幻獣が近づいてこない……のか?

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