第8話 幻獣狩り

 さて、そんなわけで

 俺達は幻影学園を取り囲む

 森の中へとやってきた。


 樹海……と呼ぶのが

 ふさわしいな、うん。


 いったいここは

 日本のどこなんだか。


 俺達は横並びになり

 理事長の合図を待った。


 その間に黒孔雀を

 袋から出し腰のベルトに

 差しておいた。


 それを見て夏芽の奴が

 訝しげに目を細める。


「あんた、封魔刀なんて使ってるの?」

「ああ、悪いかよ」


「ふんっ、未熟な証ね

 なんでこんなのが特等なんだか」


「術式と幻力の量しか見てないだろ

 協会のお偉いさんなんて」


「それはたしかにそう」

「おまえは何等なんだ?」

「一等よ!」


「おお~~」


 十分すごいじゃん。

 でかい口を叩くだけはあるみたいだな。


 しかし幼い頃から

 等級を決めるってシステムは

 ちょっと歪んでる気がするな


 スペックより実際の

 実力を考慮して決めたほうが

 良いと思うんだが……。


『それじゃあ始めるよ~~』


 というわけで俺たちの肩に

 留まっていたカラスが

 理事長のあの鈴の音のような

 声で喋った。


 音に合わせて俺達は

 駆け出す準備をする。


 俺は黒孔雀を構えているが

 夏芽のやつは素手だ。


 武器はいらないのだろうか。


「おまえ、武器は?」


「武器? 貴方ごときに

 そんなものはいらないわよ!」


 ばさっ、と髪を掻き上げて

 高飛車に返答する夏芽。


 俺を舐めてる……のか?

 一応こっちは特等なんだが。


「あったほうがいいだろ」


 ……と一応忠告しておく。

 だが夏芽はせせら笑った。


「ふんっ未熟者の発想ね」


「まぁ、それなら

 遠慮はしないけど……」


 お互いに走り出す姿勢を取る。

 ぐぐっ、と足に力を入れる夏芽。

 俺も黒孔雀の柄を持ち、踏み出す準備をした。


『それでは

 よーいドン!!』


 カァ、とカラスが鳴いたところで

 いきおいよく俺達は飛び出した。


 なるほど、一等と

 言われているだけはある。


 俺の動きについてきている。


 ……っていうか

 くっついてくる気か?


 まぁ、このルールだと

 相手の妨害したほうが

 いいだろうけど……。


「ふぅん、なかなか速いじゃない!」


「幻力の量だけなら

 自信があるんでな」


「……っと、最初の幻獣よ!

 私が倒すんだから!!」


 という夏芽の前には

 うさぎに角が生えたような幻獣。


 こんなところに白うさぎが

 いるはずがないから


 あれは幻獣ってことだな。


 バッ、と駆け出す夏芽。

 瞬発力だけなら俺より速い!


 しかし俺には飛び道具が

 あるんだよな……


 黒孔雀に影を滲ませる。

 黒い煙のように湧き上がるそれを

 俺は斬撃に乗せ、撃ち放った。


 名前でもつけとくか。

 名前はそうだな……。


「飛天!!」


 影の斬撃が

 夏芽よりも早く

 角うさぎを両断した。


 ……両断というか

 そのまま影に押しつぶしちゃった。


 ちょっと威力強すぎるな。


 数m先まで

 地面が割れてるし。


「な、なにすんのよ!?」


「当てないように撃ったよ」


「私の獲物がぁ!!」


「それは競争なんだから

 仕方ないだろ……」


 本気で悔しそうに

 地団駄を踏む夏芽。

 

 しかしそうしている合間に

 俺は二匹目の角うさぎを見つけた。


「おっ、発見」


 そのまま角うさぎに向かって

 走り出す。


「ちょ、ちょっと

 待ちなさいよ!!」


 夏芽はあくまで

 俺についてくる気のようだ。


 だが今ので速度対決は勝った。

 このままついてくるなら圧勝だが……?


 二発目の飛天を撃とうとしていると

 角うさぎが石ころによって爆散した。


 夏芽が投げたのだ。

 その赤髪を靡かせてにやりと笑う夏芽。


 幻力は飛び道具だと

 著しく減退するから──

 今のは強化なしのはずだ。


 いや投げる力は

 幻力で強化できるだろうけど。


「なにすんだよ!!」


「当ててないわよ」


「ていうかついてくんなよ!」


「これ、一緒についていって

 妨害したほうがいいに

 決まってんじゃない」


 それはそうなんだが……

 思ったより苛烈な戦いに

 なりそうだ。


 そうやって俺達は

 点をとったりとられたり

 しながら幻獣狩りを進めていった。


 どうやら夏芽は

 これといった固有術式が

 無いようである。


 ……いや、身体強化の倍率が

 著しく高い。


 いくらなんでも俺より

 高いのは異常だ。


 おそらくあの身体強化が

 夏芽の術式なのだろう。


 そんな風に考えながら

 幻獣を狩っていると──。


 角うさぎとは違う

 大熊に亀を混ぜたような

 奇妙な化け物が現れた。


 あれも幻獣なのか!?


『おっと、あれは野良の

 幻獣だ。気をつけるんだよ』


「言われなくても!!」


 夏芽が亀熊に飛び込んでいく。

 そのまま勢いよく

 パンチを喰らわせるが──。


 亀熊が両手についている甲羅で防御した。

 バキィイイイン、という音とともに

 甲羅が割れる──ものの

 亀熊の致命傷には至らない。


「なっ……!?」


 次の瞬間には

 亀熊が夏芽に向かって

 左の爪を振り下ろした。


 しかし俺もただ

 見ているだけではない。


 間に割って入り

 左の腕を切り落としたのだ。


 おかげで亀熊の左腕は

 はるか遠方へとすっ飛んでいった。


 そのまま返す刀で

 亀熊を逆袈裟斬りに。


 ”影”を大量に滲ませたからか

 簡単に一刀両断することが出来た。


 いや、黒孔雀の元々の

 切れ味のおかげかもしれない。


 よし、おれで討伐数は

 俺の勝ち越しだな!!


 ズゥウウウン、と

 残った亀熊の屍体が倒れる。


 夏芽は腰を抜かしていた。

 思わぬ反撃にあい、驚いたのだろう。

 無理もない。まだ七歳だ。


 仕方なく俺は手を貸してやることにした。


「ほら、立てるか?」


「あ、え、えっと……

 ……ぁりがとう……」


 顔を赤くして、しどろもどろとしている。

 いったいどうしたのだろうか。


 ショックが大きくて立てないのか?

 仕方ないな……。


『さて、そろそろ日が暮れる

 ここらで仕舞いにしようか。

 ちょうど決着もついただろ?』


「了解だ。理事長。

 このまま帰還するぜ。

 ほら……」


 夏芽の腰を掴み

 そのまま立ち上がらせる。


 おぶるのはどうかと思ったので

 抱えあげることにした。


「きゃあ……!」


 小さな悲鳴をあげる夏芽。


 お姫様抱っこだからな。

 ちょっと嫌なのかもしれない。


 だからってこのまま

 放置しておくわけにもいかないしな。


「悪いな、我慢しろ」


「う、うん、べ、別に……

 いや……っ……ってわけじゃ……」


 俯いて耳まで

 真っ赤にする夏芽。


 流石にお姫様抱っこは

 恥ずかしいのか。


「そ、そういえば……

 私、下僕に……に

 なるんだよね……!


 ……べ、別に

 なってやっても

 いいけど……!?」


「あんなの冗談だよ

 代わりにそうだな

 友達ってのはどうだ?」


「な、なぁ!?」


 口をパクパクさせる夏芽

 下僕より友達のほうが

 嫌だったのか……!?


「こ、この……!


 ばかぁああああっ!!」


 夏芽は叫んだが

 結局、顔を真っ赤にして

 俯いたまま


 自分の部屋まで

 運ばれてくれた。


 流石に置いていかれるのは

 まずいと思ったのかな?


 しかし……

 楽しかったけど

 他の生徒と会えなかったな。


 まぁ明日

 教室にでも行ってみれば

 会えるかなぁ。

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