第2話 英才教育受けてます


 五歳になりました。

 見目は母親に似て女の子っぽい感じ。

 だが男である。


 なお三歳の妹の方は

 めちゃくちゃ可愛い。


 なぜだかどちらとも

 黒髪と白髪が混ざったような

 奇妙な髪色になっているけれど

 幻術師の家系にはよくあることらしい。


 で、驚いたこと。

 名家ってすごいね。

 物心ついたときから英才教育するんだ。


 まぁ、生まれた時から

 ついてるんだけど。物心。


 前世の記憶があるから

 高等部までの読み書き計算なんかは余裕。


 別に異世界とかじゃなく

 普通に地続きの現代っぽいので

 アドバンテージがある。


 でも幻術に関しては完全に

 未知のステージだ。


 とはいえ今のところ、

 周防家の英才教育もあり

 上手くいっていた。


「よし、珀斗さまは

 もう幻力げんりき

 自在に操れるようになりましたね」


「自在かはわかんないけど」

「そこまで遊べるのなら自在です……」


 鍛錬場。まぁ、体育館みたいなところだ。

 俺の家は山奥にあって相当に広く、

 鍛錬場なんかもある。


 そこで俺は今、

 正座をしながら幻力の特訓をしていた。


 幻力とは幻術に

 必要なエネルギーのことだ。


 特殊な血統と強靭な精神があって、

 初めて多くの量を捻出できる。


 俺は周防家の人間だからか、

 今全身にまとっている幻力は

 相当の量があった。


 暇なので、うねうねと

 形を変えて遊んでいる。


 幻力で絵を書いたところで、

 俺の家庭教師──八雲零は溜息をついた。

 

 片目隠れの黒髪で、

 藍色の着物を着ている少女……

 と言うにはやや大人びた女性。


 とはいえ背は低く、

 150cm程度なのだが。


「珀斗さまはやはり天才ですね……」


 彼女はどうやら

 俺を天才だと思っているらしい。


 俺としては基準がわからないから

 なんとも言えないけど。


「ご両親に似たのでしょうね」

「父さん母さんも強いの?」


「ええ、お父さま──

 周防理央すおうりおさまは特等。


 お母さま──

 周防杏里すおうあんりさまは

 一等幻術師でした」


「その一等とか二等とか

 よくわかんないんだけど」


 俺がそう言うと、

 八雲はホワイトボートを持ってきて

 そこに絵図を描き始めた。

 地味に上手いなこいつ……。


「特等を最上として

 一等、二等、三等とあるのですよ。

 特等は国に七人しかいません。


 彼らは単独で都市一つ落とせると

 言われています」


「一等とか二等とかは?」


「三等ですらまぁ

 一般人は束になっても敵いませんが

 強いて言うなら……。


 三等はピストル。

 二等はガトリング。

 一等はバズーカー。


 特等はミサイルだと思ってください」


 三等でも人体の殺傷は容易。


 二等ともなれば

 集団の一方的な殺戮が可能。


 一等は建物をバカスカ壊せる。


 特等は都市を消滅せしめる

 危険度ってことか。


 俺は胡座をかいてう~~んと唸る。


「じゃあ、俺は何等なんだ?」


「それは七歳の頃行われる試験で判明します。

 幻力は七歳でもう

 伸びなくなりますからね。


 生まれつきの量がもっとも大事ですが、

 少しでも多くするために

 こうして幻力を増やす

 特訓をしているのですよ」


 幻力を増やすためには幻力を

 とにかく放出するのが大事らしい。


 よって、俺は昼夜関係なく

 幻力を出しっぱなしだ。


 慣れすぎて眠っている間でも

 幻力を出せるようになった。


「まぁ、この幻力量なら最低でも

 一等だと思いますが……」


「わぁい、八雲は何等なの?」


「…………二等です」

「それでもすごいじゃん。

 ガトリングだよ?」


「珀斗さまってまだまだ幼いのに

 けっこう知識が豊富ですよね。


 私、自分で言ってて

 やべっ通じないかなと思ってたんですけど

 ガトリング」


 通じないと思うなら兵器で例えるなよ。


 まぁ、わかるよ。

 つい自分の語彙で話しちゃうよね。


 さて、どう言い訳しようかな……。


「動画サイトとかで調べたんだよ。

 俺、乗り物とか武器とか好きだからさ。

 かっこいいじゃん」


「ああ、流石デジタルネイティブ世代……」


 実は流石に子供用のものだと思うが、

 俺には電子パッドが与えられている。


 それでインターネットを

 垣間見ることが出来るのだ。


 おかげで前世、

 俺が捜査していた連続人体発火事件も

 どうなったかわかった。


 結論から言うと……

 


 当時かなり大きな事件だったはずのに

 インターネットでは

 綺麗さっぱり消えていたのだ。

 SNSや動画サイトを調べても──だ。


 流石におかしい。

 だが、理由はすぐさま推察できた。


 幻術師だ。

 彼らは基本技能として人を洗脳し、

 記憶の操作も思いのまま。


 更に幻力によって

 不可思議な異能を操ることが出来る。


 それに抵抗できるのは

 ──幻術師しかいない。


 要するに、前世の俺を殺した

 犯人は完全に遊んでいたのだ。


 俺に感じる脅威とかまったくのゼロ。

 燃やす必要すら本来はなかった。


 ただ単に、お遊びで燃やしたわけだ。

 まったくふざけている。


 その事実に気づいた時は

 流石に腸が煮えくり返った。


 そんな連中──違法幻術師が

 この世界には溢れかえっているのだ。


 それらを狩るのが、

 我が周防家を始めとする

 ”幻術協会”だそうで。


 つまり今世の俺は生まれながらにして

 ヒーローになるべき役目を

 背負っているってこと。


 そんなのって──最高じゃん!!


「しかし八雲、


 俺もう幻力の放出も、

 幻力を纏う訓練も、

 幻力のコントロールも、


 ほぼ完璧だと思うんだけど、

 次のステップにいかない?」


「いえ、七歳までは幻力を

 出しっぱなしにしてないと

 いけませんからね……


 幻術の鍛錬に

 回るわけにもいきませんし……

 あ、そうだ!」


「なんか思いついたの?」


「私と鬼ごっこしませんか?」


 ぐっ、ぐっ、とストレッチを始める八雲。


 着物で鬼ごっこなんて

 出来るのかと思ったが、

 しっかりスリットが入っているようだ。


 なにげに特注品なのだろうか……。


「なんで鬼ごっこなんて……」


「普通に肉体が鍛えられますし

 幻力による肉体の強化も学べます。

 鬼ごっこ得意なんですよ、私」


「へぇ~~~……」


「あ! 興味ありませんね!

 じゃあいいです!

 私の幻術を見せてあげますよ!!」


「おっ、それは興味あるね」


 立ち上がり、俺もストレッチを始める。

 まだ幻術が使えなくても、

 どんな幻術があるかは見ておきたい。


 ゆくゆくは幻術師たちと

 戦うことになるのだし。


 もちろん普通の戦いなら五歳児が

 教える立場の幻術師に適うわけがない。


 でもこれはお遊び。鬼ごっこだ。

 それなら全然勝機はあるし、

 だいいち負けたって訓練になる。


 なにごともトライ&エラーだ。

 死なない限り負けじゃない。


 一度死んだ俺からすれば、ね。

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