モブだった俺、最強の幻術師に転生する

芳賀村こうじ

出生編

第1話 どうやら転生したらしい


 ずっとヒーローに憧れていた。

 理由はそう、物心ついたときには

 見ていたアニメや特撮か。


 弱きを助け、悪鬼を挫く。

 最高にかっこいい──。


 クリスマスプレゼントは

 いつも変身グッズ。


 お小遣いが貰えるような

 年齢になってからも、

 金を貯めて買っていた。


 学校でもいじめや揉め事があったら

 率先して助けた。

 普通ならいじめ返されそうなもんだが。


 だが足が早かった俺は

 いわゆるスクールカースト上位だった。

 加えて人をいじめるような連中は

 結局恨まれる。


 上位の俺が咎めれば

 やめざるを得なかったのである。


 そんな成功体験から、

 俺は警察官を志すように。


 頭もそこそこ良かった俺は

 いい大学に入れた。


 そのままトントンと刑事になり、

 事件を捜査する立場になった。


 まぁ、そこまでは

 順風満帆な人生を送っていたのだが

 俺は結局、この世界において

 ”モブ”みたいなもので。


 本物の悪人には敵わなかった。


 連続人体発火事件というものを

 追っていた時のことである。


 事件が起きる時、

 決まってパーカーの男が姿を表すという。


 監視カメラにもその映像は映っている。


 さながら男が被害者を

 燃やしているような印象を受けた。


 俺達はパトロール中に偶然、

 それによく似た男を見つけ──


 誘い込まれるように路地裏へと

 入っていった。


「う、うわああああああああああ!?」


 相棒が現出した炎によって、

 眼の前で焼かれる。


 相棒の、人の、肉が、

 骨が焼ける臭いは本物。


 バチバチと燃え盛る音も。


 ”それ”は間違いなく

 異能としか呼べなかった。


「ギャハハハ!

 おまえらみたいなエリートさまを

 焼き払うのが通なんだよな~♪」


 眼の前にいるのは

 パーカーのフードを被った、

 黒尽くめの男。


 その顔は伺えないが身長は160cmほど。

 痩せ気味。老人みたいな

 しわがれた声を持つ男だった。


「何者だ……おまえ、

 なんでこんなことをする!?」


 腰のホルダーから

 拳銃を引き抜き、構える。


 しかし男に止まる気配はなく、

 両の手から炎を揺らめかせた。


 仕方なく発砲。だが銃撃は当たらない。

 まるで男が陽炎のように揺らめいたのだ。


「どこ狙ってんの?

 やっぱり一般人は余裕っしょ」


「なんだ……!? どうなってんだ!?

 幻術か!?」


「御名答! 俺らは幻術師さ!

 炎は本物だけどねー」


 幻術。異能バトル漫画が好きならば、

 一度は聞いたことがある。


 相手の五感を騙し、

 あたかも幻覚が

 そこにあるように見せる術。


 しかし……

 相棒が焼けた臭いも、

 黒焦げになった死体も

 本物と言わざるを得ない

 リアリティがあった。


 幻術師、いったいなんなんだ!?

 くそっ!


 こいつが適当言っているだけで

 あってくれ!


「さて、それじゃああ死んでもらおうかな」

「くっ……!」


 こんな時、ヒーローならば

 打開策を思いついたのだろう。


 あるいは能力に覚醒し、

 瞬く間にこの三下を屠るに違いない。


 しかし俺は──

 この世界において

 ”モブ”でしかなかったのだ。


 次の瞬間には俺も相棒と同じように、

 全身が燃え始めた。


 体に感じる燃え盛る激痛。

 だが燃え尽きるまでには

 まだ時間がある──!

 

 俺はそのまま犯人に向かい、

 胸ぐらをつかんだ。


 そのまま押し倒し、

 燃え盛る体を押し当てる。


 仮に男が炎を制御しているならば、

 それで消す可能性があったからだ。


 しかし炎は男には一切燃え移らなかった。

 それどころかヘラヘラと

 笑っているの見えた。


 俺が押し倒したことで、

 フードが脱げたのだ。


 痩せ気味の、骸骨のような顔。


 生気がないその顔は、

 死んでも忘れない程度には特徴的だった。


「その面、覚えたからな──!」


「覚えてどうすんだよ、

 あんたはここで死ぬんだ!」


 男の言う通り、

 俺の命はそのまま燃え尽きてしまった。


 全身が焼ける苦痛も薄れていき、

 意識が遠のいていく。


 ああ、次生まれ変わったら

 もっと強くなりたい。


 こんな小悪党に負けないぐらい強く。


 それはもう、俺が憧れたテレビの中の

 ヒーローみたいに。



     ■ ■ ■ ■ ■



「おぎゃああ!! おぎゃああ!!」


 俺だ。俺が泣いていた。

 それは生理反応のようなもので、

 自分では止められない。


 とにかく泣かなければ

 気が済まなかったのだ。


「あなた、生まれましたよ」


 誰かの優しい声。

 女性だろうか? 


 まだまだ若々しく思える。

 目を開けようとしたが、

 全然何も見えない。


 くそっ、いったいどうなってる!?


「おお、でかした! 杏里!」


 今度は男の声。

 なんというか渋みのある、

 イケメンみたいな声だ。

 その声の持ち主だろうか。


 柔らかい腕から

 ゴツゴツした腕に渡されたのを感じた。


 俺はそれを不快に感じ、

 また大きく泣き出してしまう。


「おぎゃあ!! おぎゃあ!!」


「だめだ、杏里!

 私だと泣いてしまうぞ!」


「あらあら、仕方ありませんね」


 再び優しい腕に抱かれて、

 ようやく俺は落ち着いた。


 なにか柔らかいものが

 俺の口に押し当てられる。甘い匂いだ。


 俺は突起のようなものから

 勢いよくそれを啜った。


「ふふふ、食いしん坊ですね。この子は」

「ああ、立派に育つぞ」


 …………もしかしてだが。

 俺って今、赤子なんじゃないのか?

 しかも、生まれたての。


 つまり今啜っているのは……。

 ええい、考えるな!


 とにかく飲まなければ死んでしまう!!


「名前はどうします?」


「そうだな……

 珀斗はくとなんてどうだ?」


「珀斗……。

 周防珀斗すおうはくと

 いい名前ですね」


 周防珀斗すおうはくと

 それが俺の新たな名前らしかった。


 ああ、うん。

 こんだけ御膳立てされれば、

 鈍い俺でもわかる。


 なまじ二十数年間、

 オタクをやっていない。


 もしかして俺、転生した──!?


「立派な幻術師になれるといいですね」

「なれるさ。私達の子供なんだから」


 どうやら俺はあの男が言っていた──

 幻術師とやらの家系に

 生まれてしまったようだ。


 だから幻術師ってなんなんだ?

 話を聞こうにも、赤子の俺は喋れない。


 今はただ突起を

 貪ることしか出来ないのだ。

 とにかく乳を吸い、でかくなる。


 そして幻術師とやらについて掴む。

 あの男、面はまだ覚えているからな!!


 絶対に強い大人になって、

 前世の復讐を果たしてやる。


 そして──今世こそ俺は

 本物のヒーローになるんだ!

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