第47話 窮鼠
腰に手を当て、得意気に周囲を
次の瞬間、彼の上半身を中心に大爆発が起き、周囲の大気を激しく振動させた。
「動ける者は攻撃を続けて! 奴も無敵という訳じゃない! 再生速度以上の打撃を与えるんだ!」
息を切らせながら叫んだのは、ウルリヒだった。まとっているローブのあちこちが破れているところを見ると、彼自身も少なからず負傷しているようだ。
ウルリヒの声で我に返った連合軍の者たちが、攻撃を再開する。
負傷した身体を押して戦うアデーレの剣が舞い、ジークの斬撃が敵を切り刻み、バルトルトの剛剣が叩き切る。
また友軍を後押しするように、ミロシュが様々な支援魔法の呪文を詠唱し続けていた。
支援魔法で威力を増した斬撃や攻撃魔法の数々がネモに無数の傷を刻んでいく。
だが、与えた筈の傷が際限なく瞬時に修復される様は、悪夢と思いたくなる光景だ。
治癒系呪文の心得のある者たちは負傷者の手当てに回っている様子であるものの、数が多過ぎて手が足りていないのが見て取れる。
――このままでは、いずれ人間側が力尽きる……だが、無限に存在すると言われる「魔素」を取り込んで無限に再生する相手に対して、これ以上何ができるのか……
自分も攻撃呪文を詠唱しようとしたリューリだったが、ふと彼女は、頭の中に一筋の光が差す感覚を覚えた。
「フレデリク、少し聞いてくれ」
リューリは、傍らで友軍を援護するべく様々な呪文を詠唱していたフレデリクに声をかけた。
「思いついたことがある。手を出してくれ」
彼女の言葉に少し首を傾げつつ、フレデリクは自分の手を差し出した。
「『奴』に聞かれたくない。念の為だ」
言って、リューリは指先でフレデリクの
「あなたは以前、範囲魔法を限定した相手にのみ効果を現すように使っていたが、その方法を、さっき伝えた呪文で使いたい」
かつてフレデリクと戦った際、彼が、本来は広範囲に影響を及ぼす「音を消す呪文」を単体の相手にのみ効果を現すように使用していたのを、リューリは覚えていたのだ。
「なるほど。ちょっとした応用だけど、それなら、私が出力の調整を行うよ」
「それは助かる。だが、これも分の悪い賭けだ。付き合わせて、すまない」
「私たちが賭けていない時などないさ。できることは、何でも試してみなければね」
リューリの言葉に、フレデリクが力強く頷いた。
呪文の効果を確実なものにする為、飛行呪文で滞空していたリューリとフレデリクは、少しずつネモとの距離を詰めた。
「最後に殺す」と言ったのを律儀に守っているのか、或いは単に忘れているのか、ネモが二人を気にする様子はない。
その時、唐突にネモの周囲から「魔素」の奔流が巻き起こるのをリューリは感じた。
見る間に、彼の広げた両手から現れた無数の光球が、友軍の頭上へと無慈悲に降り注ぐ。
灼熱を帯びた光球に
「そろそろ、心が折れてきましたか?」
「君たちの、がっかりした顔、絶望した顔を見るのは、本当に楽しいですよ。特に、一旦は見えた希望が再び打ち砕かれた時の『人間』は、これ以上ない顔をしますからねぇ」
そこにあるのは殺意などではなく、情緒の育っていない
不意に彼は王都の方へ向き直ると、右手で王宮を指差した。
リューリが声を出す間もなく、ネモの周りに湧き起こった怒涛の如き「魔素」は、目も
殺戮の光は王都全体を覆う魔法防御壁に
しかし。
「魔法防御壁、完全に破壊されました! 再度の展開まで、十五分はかかります!」
「この状態で同程度の攻撃を受ければ、王都は消滅します……!」
通信用魔導具から、魔法兵団員の悲鳴のような声が上がる。
「おや、君たち、自分が攻撃された時よりも悲壮な顔をしていますね」
ネモは、ぐるりと辺りを見回すように首を動かしながら、不快な思念を脳内に捻じ込んでくる。
表情など無い筈の「
「今、私が裸同然の王都に全力で攻撃したら、君たちが、どんな顔をするのか見てみたくなってきましたよ」
――こいつは、未だ全力を出している様子がない。その気になれば我々など王都ごと消し飛ばすことも可能だろうに、そうしないのは、弱者をいたぶるほうが楽しいと思っているからだ……!
びくりと憤りに身を震わせたリューリは、小声でフレデリクに呼びかけた。
「やるぞ!」
怒りの表情を浮かべつつ無言で頷いたフレデリクと共に、リューリは、背中を向けているネモを見据え、呪文の詠唱を始めた。
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