第2章 出会い―リーシャ編―

5


ねこりは落ち着かない様子で辺りをキョロキョロしていた。

フェンリルを連れている女性やエルフ、獣人、妖精など色々な種族の客が訪れている。しかし客は全員女性。店員も全員女性だ。女性に人気のお店なのかな、と思うがそれにしても何かがおかしい。


店内を漂う、甘い匂い。

――はちみつの匂いだけじゃない。眠くなってくるような、周りにいる女性がみんな魅力的に見えてくるような、そんな匂い。


はちみつパンケーキを一口食べてみる。

んー! 美味しい!

これ、癖になっちゃうよ。また来たくなっちゃう。


このパンケーキに魔力が込められていることに、ねこりが気づく日は早々来ないだろう。


――ふと、さっき接客をしてくれたフェアリーの女性店員さんがねこりの横を横切ろうとしていた。


「あ――」

「少々お待ち下さい、すぐ行きますね」


声かけに失敗した。フェアリーの女性は別の客の方へ行ってしまった。


でもそのフェアリーの女性は気が利くのか、すぐにねこりの方に戻ってきてくれた。


て、いま気づいたけど、店員さん全員フェアリーじゃん。『妖精経営』って看板に書いてあったもんね。


「すみません、お待たせ致しました。はい、何でしょうか」

「私、葉桜ねこりといいます。よろしくです」

「…………」


え、ス、スベった? 恥ずかしい……。ねこりはワンピースのすそをぎゅっと掴む。


「あはは。面白い方ですね。私はリーシャです。この店の店長を務めさせて頂いています」

「て、店長!?」

「そんな風に見えないですか」

「見えます見えます見えます」

「同じ言葉を繰り返すと嘘っぽく聞こえるものなんですよ?」


この子、良い。

直感でそう感じた。


「私、この世界に来たばっかりなんです。王都というか街って何処にあるか、ご存知ですか?」


すると、リーシャは地図を持ってきてくれて、丁寧に説明もしてくれた。


「――この地図通りに行けばいいんですね」

「はい」

「ありがとうございます」


「失礼ですが、リーシャさんっておいくつですか? 私、ねこりは16歳ですっ!」

「10歳」

「は?」

「10歳なんですが……」

「え――」


10歳……。妖精の年齢と人間の年齢って基準が違うのかな……?


でも日本で、10歳で労働してたら、労働基準法で訴えられるからね!?


はぁ、10歳で店長とか凄すぎ。お姉ちゃん、尊敬しちゃう。


「私のことは『ねこりお姉ちゃん』って呼んでいいですからね?」

「…………」


また、スベったぁ……! 気まずい。


逃げるようにねこりはレジに逃げる。


「ごちそうさまでした、美味しかったです」

「それは良かったです」


会計を済ませるとねこりはある事に気づく。


そういえばさっきから、リーシャ以外の客や店員が曇っていて、よく見えない。顔も認識出来ないし、かろうじて色が分かる程度だ。


「リーシャさん、何かやりました?」

「かけちゃいました(魔法を)」

「?」


最後の方はゴニョゴニョしていて、上手く聞き取れなかった。


「妖精の悪戯です」


ふーん、そっか。


今だけはリーシャしか見えないのも、リーシャに対してうっとりしちゃうのも、リーシャといるとドキドキしてしまうのも、妖精の悪戯なんだ。


魔力の効果とか魔法とかスキル的なものなのかな……?


でも、なんでリーシャはねこりにそんな悪戯するんだろう……何の為に?





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