第6話 テレポート

テレポート


”好きな場所に瞬時に行ける”


ただそれだけの説明文。他の能力はもう少し事細かにかいているのに、これはとても短い文章でまとめられている。


いや、読み辛い文字の為、逆に簡潔にされている事で分かりやすいのは分かりやすいのだが・・・。


なんて説明文に心では悪態をついている素振りだが、実際は能力が分かった事で先ほどよりも一層心は高鳴っていた。


その心を落ち着かせる為に、あえて冷静にと短い説明分に悪態をついただけの事。


しばらく震える指と高鳴る気持ちを抑え、今日の勉強は終わりとばかりに地面へと転がる。


いつもならこの硬く冷たい土にうんざりとするのだが、今日はそんな事は気にもならない。


でも・・・好きな場所に瞬時に行ける・・・これって脱走できるってことなのでは・・・


そんな事が頭をよぎり、僕は能力の事はまだ黙ってい様と決めたのだった。




そして翌日、翌々日と既に自分の指輪を知っているにも関わらず本を読む毎日は続いた。


単純に指輪の羅列されたページよりも、能力値が書かれているページの方がはるかに面白かったのだ。


暇つぶしにも、知識を取り入れ、帝国の文字の勉強にもなった。






そして捕虜になって6日目。


カルラ村からは遠く離れたのか大地には緑が見え始めていた。まだ土と草が半々といったような荒野だが、遠くの先には緑が広がっている。


こんな遠くまで来た事が無かった為に、自然に木々が広がっている光景に感動を覚える。


「おい、坊主。本はどこまで進んだ」


「あっ・・・ここまでです」


「おせーな・・・。今日、他の村を襲うつもりだからよ、お前それまでには見つけておけよ。でないと殺されるぞ」


本を持ち、キョロキョロと自然の風景を見ていた時に新兵のハンツさんだ。


本が分厚いからといって、名前のページは本の1/3ほど。帝国の文字だからといっても流石にこれ以上は引き延ばすのは無理だと、自分でも薄々と感じていた。


「はい、自分でも今日ぐらいに終わると思ってます。あっここの文字を読んでもらってもいいですか」


「チッ、お前の事まぁまぁ気に入ってんだから、しっかりとやれよ。・・・それは追尾矢だな、それは読めねーか・・・効率わりーな、本は。あー・・・もしかしたら今日の村に鑑定士がいるかもな」


「あっ・・・それだと楽ですね」


「あぁ、だが期待するなよ。そこまで大きな村じゃねーみてーだからな、ほらよ」


そういって、ハンツさんはパンを一かけら渡して隊列の方へと戻り、50代のマントをつけた隊長へと報告に戻って行った。


今日村を襲う・・・鑑定士という人がいると自動的に能力を知られてしまう・・・そしたら脱走するチャンスは無くなるのでは・・・


そう思ったら今日が脱走するラストチャンス・・・


準備も何もない、ただ機会を伺っていた一週間だ。テレポートの能力も実際試したことはない、そもそも一人になる事が出来ない捕虜の身分の為に下手な事は出来なかった。


額に冷や汗が流れる。


一回限りのラストチャンス・・・だが、村を襲うとなると兵士達はそっちに気が向くはずだ・・・必ずどこかで・・・

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