嘘つき
俺はカルミアを離さなかった。
「……チャンスを逃すのね。もったいない」
「お前を殺せば、レンジが殺されるだろう。だから今は殺せない」
「うふふ。そうね。それが言い訳じゃないことを祈ってるわ。……えいっ!」
カルミアは突然笑顔で俺に抱き着いてきた。
「お、おい! 何を!」
バランスを崩し、二人で花畑の上に倒れ込む。
咄嗟に俺が下敷きになった。
「くっ……!」
背中から地面に衝突して、軽く頭を打った。
「おいカルミア! 何を考えている! 解毒剤は持っているのか!?」
俺に覆い被さるような格好になったカルミアは、当然のように
「そんなもの、持ってないわよ」
と言った。
それからカルミアは俺の隣に体操座りして、近くに咲いていた例の紫色の毒花を摘み、その香りを嗅いだ。
俺はその行動を見て絶望した。
こんな形で復讐を終えるのか。
俺はこんなところで死ぬのか。
「ねぇ、すごくいい香りがするのよ」
そう言ってカルミアは紫の花を俺の鼻に近づけた。
俺は平然としているカルミアの顔を見て、絶望を通り越して、冷静になっていた。
「甘い匂いがするな。……なぁ。組織のボスがこんなところで死んでいいのか?」
「私は死なないわよ? もちろんあなたもね」
「は? 本当は解毒剤を持っているのか?」
「いいえ。そんなものは必要ないわ。だって……この花畑に毒性の強い花なんて咲いていないもの。あなたを試しただけよ」
「……性悪女が」
「自覚はあるわ」
カルミアはクスクスと楽しそうに笑った。
そして俺の隣に寝そべると、
「今日はいい天気ね」
と呟いた。
俺は馬鹿馬鹿しくなり、
「そうだな」
と投げやりに答えた。
しばらく二人で静かに空を流れる雲を眺めていた。
五分ほど経った頃、カルミアが訊いてきた。
「ホオズキって憶えてる?」
「ああ。お前の嘘の復讐相手だ。写真を持たされていたせいで、俺はホオズキ暗殺の疑いもかけられた。娘の暗殺を企てた俺に対して激しく憤ったホオズキの父親がかなりの権力者だったことが、俺の死刑を決定づけた」
「実はね。ホオズキっていうのはうちの従業員なの」
「……クソッたれが。何もかも仕組んでやがったのか」
「ホオズキの一族は裏社会の人間。ホオズキたちはうちのサポートって感じの立場で、色んな役を演じてくれる。仕事を円滑に進めるために協力してくれてるの」
「それを今更俺に言ってどうする。煽ってるのか?」
「それも理由の一つよ。私にもっと強い殺意を向けて欲しくて」
「そんなことをせずとも、俺はお前にちゃんと殺意を向けているが。で、他の理由はなんだ?」
「……いえ、なんだか私って嘘つきだなって、ふと思ったのよ」
「大量殺人犯が嘘つきであることを気にするのか」
「あなたには、復讐を手伝ってほしいとお願いしたわね。私ってとても酷い嘘つきだわ」
「お前はペテン師で詐欺師でホラ吹きだからな」
「そうね。ほんと、ホラを吹いてばっかり。……ホラ吹く復讐者。ホラ復讐者」
「……さっきも注意したが、くだらないことを言うな。俺がスベったみたいになるだろ」
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