第二章 第十話

 数週間後。動画投稿サイトのエキサのチャンネルを開いていた。俺はごろりと部屋のベッドの上に転がり、天井に向けてスマホを持ち上げていた。

今日はエキサのチャンネルで父さんのラーメン屋の紹介動画が投稿される日だ。父さんや颯太からどんな感じだったのかを聞こうと思ったが、「投稿されるのを楽しみにしておけ」とだけ言われた。二人の表情から上手くいったことだけはわかった。だから、俺はエキサが動画を投稿する午後八時を待っていた。

俺はスマホ画面の上のほうを見た。

現在の時刻は午後七時四十分。

あと二十分で父さんのラーメン屋がネットの海に流される。


俺はそれを否定した。やめておけと言った。だって誰が見るかわからないし、批判や誹謗中傷を書かれてしまうかもしれない。

だけど、俺はそんなことを本当に思っていたのだろうか。


画面の向こう側に憧れを思っていて、父さんや颯太がそっち側に行ってしまうことに苛立ちを覚えてしまったのかもしれない。

そうだ。

そうだったのだ。


もう一度、俺はスマホ画面の上のほうを見た。午後八時二分。おかしな考え事をしていたら、いつの間にか八時を越えてしまっていたらしい。

俺はスマホ画面を上から下にスクロールして、指を離すと、ぐるりと円が回った。そして、二分前に投稿された最新動画が表示された。

動画のタイトルは『メンバーのおすすめのラーメン屋を紹介しよう』であり、颯太から事前に聞いていた企画内容と全く同じだった。

俺は迷うことなく、その動画をタップして、動画を再生させた。

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