第一章 第十七話

 真っ黒な空から重力に従って、真っ白な雪が落ちてきていた。人々は手の平を上に向けて、幻想的な光景に心を躍らされていた。県で一番大きな駅のため、多くの人が行きかっている。


駅の出口付近で美由は一度も空を見ることなく、黒色の傘をさした。そして、その傘の骨組みを肩に乗せて、スキップするように歩き始めた。沙希に選んでもらった白色のニットの上に黒色のジャケットを羽織り、下は栗色のスカートを身に付けている。せっかくならこの格好で会いたい、と美由は思っていた。

美由が履いている黒のブーツがさくさくと白雪を踏み抜いていく。

さくさく。

さくさく。

心地よい音が美由の耳に届いてくる。


肩から下げているバッグからスマホを取り出して、マップのアプリを開いた。青色の丸と三角が組み合わさったアイコンを中心に周辺の地図が表示された。そして、『住所検索』をタップして、フリック操作で『し』と一文字だけ記入すると、『しゅんくん』と保存されている住所が一番上に出てきた。

美由はそれをタップして、経路を表示させ、マップに道案内を開始させた。到着予定時刻は約三分後。

三分後にしゅんに会えるのだ。舞い落ちてきている白い雪なんかに目もくれず、美由はスマホ画面に表示されたマップばかりを見ていた。だから、後ろから近づいてくる足音に気が付かなかった。

「すみません」という男性の声が聞こえ、美由は足を止めた。こんな時にナンパをされるとは、と美由はため息を吐いて、後ろに振り返ると、そこにはスーツ姿の男性が立っていた。


「ここで何をなさっているのですか?」


「何って、知り合いの家に向かっているんですけど」


美由はため息交じりに返事をした。こんなことに時間を使っている暇があるのなら、目的地に向かいたいというのに、という気持ちが抑えきれない。「知り合いに早く会いたいので、もう行っていいですか?」と言い、美由はその場を立ち去ろうとしたが、男性から放たれた名前に足を止めてしまった。


「知り合いというのは、しゅんという人物のことですかね」


「そうです」


美由は反射的に返事をしてしまった。

そんな美由の様子に、男性ははっと驚いた表情を浮かべ、息を小さく吐いた。そして、「そうですか」と呟き、胸ポケットに手を入れ、取り出されたのは金色の勲章が輝いている警察手帳だった。


「警察です。署の方でお話をお聞かせ願いますか」


美由は全身の血液が冷えていく感覚に襲われた。




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