クリスマスイブの奇跡。〜幸せの2分35秒〜

第1話：自分の誕生日のお祝いにラブドールを買っちゃった。

人は亡くなったら魂は体を抜けてどこへ行くのか？

あの世？・・・あの世なんてそんなところがあるかどうかなんて誰も知らない。

もしあの世があったとしても全部の魂があの世に行くとは限らない。

目には見えないが、まだこの世を彷徨ってる魂だってあるかもしれない。

「春日野 葉見（かすがの はみる）」は不慮の交通事故で亡くなった。

生前、葉見には心に思う人がいた。

その彼は彼女が務める会社の同じテナントビルに勤めている他の会社の男性。

名前は「成田 圭史（なりた けいし）」25歳。

圭史は広告会社勤務で主にチラシやポップの統括デザイナーをしていた。

なかなかセンスがよく広告組合の会員たちからもその腕は評価されていた。

だから本人はフリーデザイナーになることも考えていた。

葉見は圭史をビルの中にあるカフェでよく見かけた。

一度も話したことはなかったが葉見は圭史に密かに思いを寄せていた。

圭史は葉見のドンピシャのタイプだったからだ。

でも自分の気持ちを圭史に告げることなく彼女はこの世を去った。

その成田 圭史くん。

彼女いない歴３年・・・別れた彼女と一緒に借りたマンションで今はひとり

寂しく暮らしている。

元カノと別れた理由はよくあるお互いの性格の不一致・・もしくは下半身の不一致？

たぶん下半身の不一致、圭史は普通にエッチがしたかったが、彼女が潔癖性で

圭史は彼女に触れることにあまりいい顔をしなかった。

まあそれだけじゃなかったんだろうけど・・・愛だけじゃ成り立たないのが

男と女の関係。

「今日は？・・・12月23日か・・・明日はイヴだし、俺の誕生日か」

「そうだ・・・注文してたあれ今日、届くんだった」

圭史は自分の誕生日のお祝いにと思い切ってラブドールを買った。

なんでか？・・・それはもちろん単純にセックスがしたかったから。

だからって風俗に行く勇気はない、それに行けば惚れっぽい圭史は風俗嬢

に優しくしてもらったら、その子を好きになってしまいそうだった。

イブなのにさせてくれる人がいないなら、せめてラブドールでもと思った。

注文したラブドールは80万円もした。

自分への褒美にしては少し高いと思ったが、まあ多少の蓄えもあったし・・・。

孤独でいることが彼にそうさせたのかもしれない。

人間の彼女を持ってもお互い感情がある者同士なにかとトラブルになるのは

もうごめんだと思った圭史は動かないしゃべらない人形をパートナーに選んだ。

で、仕事から帰って夕方7時ごろ配達してくださいって指定しておいたラブドール

が業者さんから届いた。

簡単な梱包を解いて自分が選んだのラブドールをソファに座らせて圭史は

ずっと眺めていた。

「うん、いいね・・・今日からよろしくね、俺のラブちゃん」

「そうだ、会社の帰りにサンタコス買って来たから、あとで着せてあげるからね」

人形に話しかける男・・・見ようによってはキモい変態。

だけどそれはワンちゃんやネコちゃんに話しかけるのと同じ感覚だった。

圭史は自分の欲求を満たしたくてラブドールを買ったのは事実だけど、そりゃ

セックスもしたかったのが一番だけど・・・でも擬似的でいいから家に帰ると

彼女に待っていて欲しいと単純に思ったからだ。

そして次の日・・・どこの家庭もカップルもクリスマスイヴ当日。

不慮の事故に遭遇して魂だけになった葉見（はみる）。

ほんとは、あるのかないのかも分からないあの世とやらに行くはずだった彼女の魂。

でもまだ圭史に未練があった葉見は現世に魂を留めたまま彷徨っていた。

あの世とやらに行く前に、せめて圭史に会ってから行きたいって思った。

つづく。