第2話 クラスのマドンナ

 急いで教室まで走ったことで、何とか授業開始に間に合うことはできた。息を切らしながら自分の席へ着くと、前の席の男子生徒に話しかけられる。


「あっちゃんめっちゃギリギリじゃねーかよ~。探してたんだぞ~。毎回昼休みになったらどっか行くしさ~どこ行ってたんだよ~。てかコーヒークサッ」


この馴れ馴れしさが服を着たような男は、笠原 悠 (かさはらゆう)


 入学初日からこのテンションで話しかけてきたので、驚きである。


 多分こいつは、相手が大統領であろうとこのテンションなんだろう。


「別に、ちょっと用があっただけだよ。あとコーヒーはさっきこぼした。てかもう、授業始まるから準備しろよ。」


「ひーどー。それ遅刻しかけてたあっちゃんが言う?」


痛いところを突かれた。


「僕はだいたい教科ごとにまとめてるからすぐ取り出せるんだよ。てかオマエなんてまださっきの授業のノート広げ...なんだそれ。」


なんだか表のようなものが書かれたそれは、少なくとも授業の板書ではなかった。よく見ると名前が書いてある。


「あっちゃんもこれ...気になる?」


「どうでもいい」


「気になるっていうまで前向かない」


「ハア...気になるよ」


「よくぞ聞いてくれた。これは...一年女子人気ランキングだッ」


ほんとうにどうでもいいものだった。なんで全女子の敵に回すことをわざわするのだろうか。少なくともこいつは、バカ男子ランキングでは堂々の第1位だろう。


「聞いた僕が馬鹿だったよ。もうそんなのしまって授業の準備しろよ。」


「いやいや、あっちゃんも男なんだから、気になるっしょ?安心して!TOP3しか名前書いてないから!女子にばれてもあんまり怒られないって」


どこが安心なのかさっぱり分からなかったが、このままこいつを無視しても黙らなそうだったので、ランキングが書かれたノートに目を通すことにした。


「2位3位...誰だこれ」


「2組の晴花(はるか)さんと3組の雨音(あまね)さんだぞ!?知らないのかよ!?」


「知らないのかよ!?じゃねえーよ。そもそもクラス違うんだから、僕が知らないのも無理ないだろ。」


「確かにクラスは違うけどさ...あっちゃんそれは流石に世間を知らなすぎだぜ」

 

こいつにとって世間は何なのか。もう突っ込むのも面倒だったので、スルーした。


「てか、あっちゃんでも、やっぱり一位の花ヶ前さんは知ってるのか。」


「当たり前だろ。同じクラスだぞ」


花ヶ前蓮花(はながさき れんか)


腰まで伸びた美しい黒髪が特徴的で、文武両道、眉目秀麗、実家はいいところのお嬢様らしい。結構無口で、笑わない印象だが、それもある意味、クールキャラとして様になっている。聞くところによれば、性格もよいらしい。毎日10人以上の告白を断っている、お金持ちすぎて既に許婚がいる、昔彼女が配った友チョコは現在20万で取引されているなど、他人とそこまでかかわりのない僕でさえ、彼女の伝説を耳にする始末だ。


「花ヶ前さんと付き合えたら最高だろうな~。『ゆうくんの好きにしていいよ♡』とかいわれたらどうしよう。俺どうにかなっちゃうよ。」


「そんな宝くじに当たるより起きないことのより、目の前のこと心配しろお前は、次の歴史の森田先生、授業前に教材揃ってなかったら相当怒るぞ。お前も知ってるだろ。」


「やべっ。ありがとあっちゃん!」


そういうと笠原は、ようやく前を向いて、準備を始めた。


「花ヶ先蓮花か…」


僕は今後一生関わることのないであろう彼女の方をみた。昼食の後だというのに、あまり顔色がよさそうではなかった。なにか悪いものでも食べたのだろうか。

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