第4話
朝9時、魔堂零士(元魔王)は慌ただしいオフィスで電話を片手にしていた。机の上には資料が散乱し、モニターには大量のメールが未読のまま積み上がっている。
「はい、こちら魔堂です。…ええ、納期は確認済みです。問題ありません。」
電話越しに怒鳴り声が聞こえるが、零士は冷静に応じる。隣の席では、若手社員の中村佳樹が心配そうに彼を見ていた。
「魔堂さん、先方の件、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねぇけど、大丈夫って言っとかねぇと話が進まねぇだろ。」
零士は電話を切り、深くため息をついた。その様子を見て、中村は恐る恐る話しかけた。
「あの…もしよければ、僕も何か手伝いますよ。」
「お前、そんな気遣いできるタイプだったか?」
「いえ、最近魔堂さんのやり方を見て、少し学んだ気がして…。」
零士は苦笑しながら、中村の肩を軽く叩いた。
「じゃあ、これ頼むわ。」
彼が渡したのは膨大な量の請求書だった。
「ちょっと待ってください! これ、僕ひとりで…?」
「文句言わずにやれ。お前も社会の歯車ってやつを学ぶんだ。」
その日の夕方、魔堂零士と山田歩(元勇者)は、ホームセンターの広々とした売り場にいた。
「おい、なんで俺がこんなとこに連れてこられなきゃならねぇんだ。」
零士はカートを押しながら、不満げに歩を睨んだ。歩は真剣な表情で工具コーナーを見回している。
「この世界の道具を知ることは、秩序を保つ上で重要だ。」
「いや、ここは冒険の準備をする異世界の商店じゃねぇんだぞ。」
歩は無言で工具を手に取り、その重さを確かめている。それを見た零士はため息をついた。
「それで、一体何を作る気だよ。」
「規律を強化するための道具だ。」
「具体的に何だよ。」
歩は答えず、次々と工具や資材をカートに積み込んでいく。その様子を見ていた店員が、心配そうに近づいてきた。
「あの、お客様…。何かお手伝いできることは?」
歩が真剣な顔で答える。
「この工具が、この世界の秩序を守るために最適かどうかを知りたい。」
店員は一瞬固まり、困惑した表情を浮かべた。
「えっと…具体的にどのような用途でお使いですか?」
「世界の平和を守るためだ。」
「……え?」
店員が返答に詰まる中、零士が割って入った。
「気にすんな。こいつ、ちょっと設定が特殊なだけだから。」
「設定…?」
零士は笑いながら店員をなだめ、歩を促してその場を離れた。
「お前、マジでこの世界の人間に誤解されるぞ。」
「誤解されるような行動はしていない。すべては理に適っている。」
「その理がズレてんだよ!」
零士が頭を抱える一方で、歩は真剣そのものだった。
ホームセンターを出た二人は、手にした大量の荷物を抱えながら歩いていた。
「お前、これ全部どうすんだよ。」
「明日から学校に持ち込む予定だ。」
「学校って…お前、これDIYクラブでも作る気か?」
「規律を維持するための活動だ。」
零士は再びため息をつきながら、歩の真剣な表情を見た。
「まぁ、好きにしろよ。お前が暴走しないならな。」
歩は黙って頷き、視線を前に向けた。その横顔には、かつての勇者としての信念が垣間見えた。
夜の静けさが街を包む中、二人はそれぞれの思いを胸に抱えていた。
「この世界もまた、一つの戦場だな。」
歩が呟くと、零士は笑みを浮かべて答えた。
「その戦場で、お前がどう戦うか見物だな。」
こうして、二人の奇妙な日常はさらに深みを増していくのだった。
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