第15話 異世界を原付で走る


 ラインさんと合流した俺たちは、草木が生えていない砂地を特定小型原付で走っていた。


「旦那様! この乗り物凄いです!」


「まったくです! これならすぐにでも着きそうですよ!」


 俺たちはラインさんに先導してもらいながら、ラインさんの仲間たちがいる場所に向かっていた。


 異世界の『死地』と呼ばれる何もない場所で、ただひたすらに特定小型原付で走るという状況を前に、俺はこの世界に対して少しの申し訳なさを覚えた。


なんか異世界で特定小型原付を乗るって、異世界のイメージが丸つぶれな気がする。


 別に誰に謝るわけでもないが、なんとなく良くないことをしているような気がした。


 それから休憩を挟みながらしばらく特定小型原付に乗っていると、ラインさんがあっと声を上げた。


「あそこです! あの旗が立っている場所です!」


 ラインさんが指をさした方を見てみると、タイヤが破損している馬車のてっぺんに目立つ旗が立てられていた。


 確か、あれは救難用の旗だったかな?


 俺はそんなことを考えながら、ラインさんと共に救助を待つラインさんの仲間たちの元へと向かった。


 すると、俺たちの接近に気づいたような人たちが、必死に俺たちに向かって手を振っていた。


 何やら声を張っているみたいだし、俺たちに助けを求めているのだろう。


「俺だ! ラインだ! 発明家様をお連れしたから、安心してくれ!! 食料も分けてもらえるみたいだ!」


「い、いや、俺発明家じゃないんですけど」


 すると、ラインさんが特定小型原付に乗りながら大きく手を振っていた。


 俺が慌ててラインさんの言葉を否定するが、ラインさんの帰還を祝う仲間たちの声でかき消されてしまう。


 強く否定をしていた方がいい気がするが、今はそんなことよりもラインさんの仲間たちに食糧を配る方が先かな。


 そんなことを考えていると、すぐにラインさんの仲間たちの元にたどり着いた。


「ライン! よくやった! 食料はどこにあるんだ?」


「さすが、私たちのリーダー! 発明家様って、いったいどの人?」


「あれ? 子供とお嬢ちゃんしかいないじゃないか? ていうか、なんだその乗り物は?」


 すると、俺たちのことを見てラインさんの仲間たちが各々そんなことを言いだした。


 まぁ、そんな反応にもなるよね。


 ラインさんの仲間たちを見てみると、彼らも十分な食事をしていないのか、ラインのように頬がこけていた。


 人数的には三十人くらいだろうか? これだけの領民が逃げようと思うほど、アストロメア家の重税はひどいものらしい。


 いや、本当は表面化していないだけで、多くの領民が逃げ出しているのかもしれない。その中で、領地を抜け出すことができたのがこれだけっていうこともあるか。


 俺が申し訳なさから顔を伏せると、ラインが俺の前に立って自慢げに腕を組んだ。


「このお方は倒れている俺に食糧を恵んでくれたお方だ! この乗り物を作ったのも、ここにいるメビウス様だからな!」


 ラインがそう言うと、ラインの仲間たちが俺たちに向ける目が大きく変わった気がした。


 俺はこの機会を逃すまいと顔を上げラインの仲間たちを見る。


アストロメア家がしたことで苦しむ人たちがいるのなら、それを俺が助けてやればいい。


それが、アストロメア家に生まれた俺にできるせめてもの罪滅ぼしな気がした。


俺は咳ばらいをしてから、まっすぐにラインの仲間たちを見て続ける。


「ご紹介に預かりましたメビウスです。そんな大層な人間ではないですけど、ラインさんに頼まれてやってきました」


 それから、俺はランドセルを下ろしてランドセルの中に詰めてきた食糧を取り出す。


「とりあえず、たくさん食品を持ってきたのでこれで栄養を取ってください。絶品という訳ではないですけど、十分美味しいものなので。アリス、手伝ってくれる?」


「もちろんです、旦那様」


 俺はそう言いながら、ランドセルの中にしまっていた食器類や電子レンジなどを取り出して、アリスと共にラインの仲間たちに配る準備をする。


 このランドセル、実は入り口が広がるから家電類も入る優れものなのだ。


 すると、少し遠巻きで見ていたラインさんの仲間たちは、俺たちが準備をしている様子を見てざわつき出した。


「え? こ、こんなにもの食糧を私たちに」


「知らない私たちのためにですか?」


「あ、あなたは私たちの救世主だ!」


 そして、そんな俺たちを見てラインさんの仲間たちは各々そんなことを言いだした。さらに、それを煽るように大きな声でラインさんが続ける。


「そうだ! この方は慈悲深く、我らと同じ悲しみを持ったお方だ! いいか、このお方はな――」


 そして、ラインさんが俺の境遇を話し終えた頃、ラインさんの仲間たちは、わっと俺たちを囲んで温かく俺たちを迎えてくれた。


 そんなことがあって、俺たちとラインさんの仲間たちとの距離はぐっと近づいたのだった。

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