第8話 新型・お掃除ロボット
「何も変わってない?」
俺は煙の中からでてきた何も変わっていないお掃除ロボットを見て、目をぱちぱちとさせていた。
ちらっとアリスを見ると、アリスも俺と同じような反応をしている。
「アリス。これって、仕様変更が失敗したってこと?」
「い、いえ、そんなことはないと思います。試しに触れてみてはいかがですか?」
「それもそうか。一体、何が変わったんだ?」
俺はアリスに言われて、俺のもとに近づいてきたお掃除ロボットに触れた。
すると、さっき仕様変更したときと同じようなウインドウが立ち上がる。
『音声認識が可能になりました』
『「何が変わったんだ」? に対する回答以下』
『お掃除モードの追加「普通清掃」「自動清掃」「手動清掃」』
『移動に関する追加事項「陸移動」「空移動」(体重300kgまで)』
「おお、なんか色々と変わったみたいだな」
俺は表示されたウィンドウを眺めて感動の声を漏らしたが、すぐに顔をしかめてしまった。
『自動清掃』と『手動清掃』は分からないことはない。でも、『陸移動』、『空移動』(体重300kgまで)ってなんだ?
「旦那様?」
俺がよく分からない仕様変更を前に首を傾げていると、アリスが心配そうに俺の顔を覗いてきた。
「あっ、ごめんごめん。少し考え事をしていた」
まぁ、とりあえず、色々と試してみないと分からないか。
俺はそう考えてから、小さく咳ばらいを一つして続ける。
「それじゃあ、『自動清掃』、『陸移動』モードで」
俺がお掃除ロボットにそう言うと、お掃除ロボットからぴこんっと小さな音が聞こえた。
「「……」」
しかし、どれだけ待ってみてもお掃除ロボットは動こうとしなかった。
「旦那様。これって、使い方あっているんでしょうか?」
「使い方って言ってもなぁ。お掃除ロボットって、掃除する以外に使ったりするか?」
アリスに言われて考えてみるが、お掃除ロボットは自動で掃除をしてくれる以外に使い方がない気がする。
そこでふと、子猫がお掃除ロボットに乗っている動画のことを思い出した。
……もしかして、体重制限が記載されているということは、このお掃除ロボットって乗れるのか?
俺は物は試しと思って、近くにいたお掃除ロボットに片足を乗せてみた。
「え? 旦那様?」
「多分だけど、このお掃除ロボットは乗れる気がするんだ」
体重の表記があったということは、乗ることを前提として作られているはず。
俺は片足分の体重を乗せてもビクともしないお掃除ロボットを見て、思い切って両足を乗せてみた。
すると、通常のお掃除ロボットなら壊るであろう体重を乗せても、まったく壊れる気配がしなかった。
「おお。いや、乗れはするみたいだけど、ただ乗れてもどうしようもないよね。せっかくなら、俺の思った方向に動いてくれたりしたら――え?」
俺が前に進まないかなと考えると、俺が考えたのと同じタイミングでお掃除ロボットが前に進んだ。
偶然かと思ってあらゆる方向で試してみたが、俺が考えた方向に考えた距離だけ進んでくれるみたいだ。それに、どの方向に動く時も驚くくらい俺の思考とラグがない。
「だ、旦那様。大丈夫ですか?」
「ん? ああ、俺が考えた通りに動いてくれてるから大丈夫だよ」
アリスがあわあわとしていたのでそう言うと、アリスは心配そうに眉を下げる。
「考えた通りに?」
「うん。このお掃除ロボットって、俺が思い描いたところに移動するようになってるみたい」
「そ、そんなことができるんですか」
アリスはそう言うと、くりっとした目を開いてお掃除ロボットを見つめる。
もしかしたら、急にお掃除ロボットが色んな動きをしたから、お掃除ロボットが暴走し始めたと思って心配したのかな?
そんな事を考えながらしばらくお掃除ロボットを操作していると、ふと仕様変更をした時に他の移動の方法がったことを思い出した。
『陸移動』モードは自在に陸を移動できるというものだった。ということは、もしかして……
「試してみるか。『空移動』に変更」
俺がそう言うと、ふわっと体が浮くような感覚に陥った。足元を見てみると、俺を乗せているお掃除ロボットが床から30センチくらい浮いていた。
「こ、これはすごいな」
「旦那様、凄いです!」
俺が空を飛んでいるのを見て、アリスは目を輝かせていた。
どうやら、アリスはお掃除ロボットスカートが空を飛んでいるときの風でスカートが多少めくれ上がっているのに気づかないくらい、驚いているようだ。
俺は紳士的にアリスから視線を逸らして、俺を支えながら飛んでいるお掃除ロボットに向ける。
「くすっ」
ん? 一瞬妖艶な笑い声が聞こえた気が……気のせいか。
俺は何か聞こえた気がしたのを無視して、お掃除ロボットの性能について考えてみることにした。
体重移動とかで移動できるお掃除ロボット……でも、これって未来版セグ〇ウェイなのでは?
これだとただの移動手段って感じがして、お掃除感がまるでない。
……この状態で掃除させたらどうなるんだろ?
そう考えて辺りを見渡してみると、電気屋によくあるお掃除ロボットの性能を試すためのごみを模した丸めた紙があった。
「アリス。そこにある丸めた紙をこっちに投げてみてくれないか?」
「これですか?」
アリスは俺の視線の先にあった丸めた紙を拾うと、遠慮気味に俺に向かって投げてくれた。
さて、空中にいる状況でどう処理するのだろう。
俺が腕を組んでお掃除ロボットを見ていると、突然掃除ロボットの両脇から鉄筒のような物が飛び出てきた。
「ん? なんだこれ」
俺が突然出てきた部品に首を傾げていると、鉄筒の先から勢いよく何かが発射された。
ぼしゅっ!
そして、空中にあったはずの丸めた紙を一瞬にして木っ端みじんにしたのだった。
「「え?」」
そんな突然の出来事に俺とアリスは間の抜けた声を出してしまった。
ごみに対する異常な反応速度。それはまごうことなきお掃除ロボットのそれだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます