第3話 ギフト『家電量販店』
「ん? ここは……」
俺が目を開けると、そこには雲一つない青空が広がっていた。
ここはどこだ?
前世の記憶を取り戻したときと似ているが、あの時と違って今は天井や壁が存在しない。
俺は体を起こして辺りを見渡して、意識を失う直前の記憶を思い出した。
「確かギフトが『家電量販店』だからっていう理由で、『死地』に追放されたんだっけか。いてて、まだ首が痛いぞ」
俺はウィンスに殴られたところを撫でながら、何もない地平線をぼうっと見つめる。
「『死地』って呼ばれるだけのことはあるよなぁ」
俺の視線の先には草木が一切生えておらず、建造物も何もなかった。
気温が高すぎて草木が育たないというわけではなく、単純に地面に栄養と水がないから草木が干からびた土地。
人どころか魔物さえも好んで近づかないと言われている死んだ土地、通称『死地』。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
普通は貴族としての建前がどうとかあるだろ! 追放物でいきなり殺しにかかるなんて、アニメとかラノベのテンプレを知らんのか!
俺は心の中で一人ツッコんでから、大きくため息を漏らす。
「とりあえず、これからどうやって生きていくか決めないとな」
確か、人間って水がないと3日くらいで死んじゃうんだったよな?
そうなると、大至急必要やるべきことは水源の確保か。
「といっても、近くに水があればここは『死地』なんて呼ばれないよな」
雨が降れば多少はどこかに水が溜まるかもしれないが、一週間雨が降らないなんてことも普通に考えられる。
さすがに、雨ごいをして三日間待つのは運に任せ過ぎだろう。
「とりあえず、ギフトの『家電量販店』がどんなものか試してみるか」
もしかしたら、現状を奪回できる一手が『家電量販店』にあるかもしれない。
というか、服以外に何も持っていないわけだし、『家電量販店』に賭けるしかない。
俺は右手を何もない場所に向けて、ぐっと腕に力を入れる。
初めて使うギフトだというのに、なんとなくこうすれば発動することができるのだということが分かった。
「いでよ! 『家電量販店』! うおっ!」
俺がそう言うと、突然カッと目の前が光り、ぼふっという煙と共に強い風を感じた。
それから少しして煙が晴れてから目を開けると、そこには驚きの光景が広がっていた。
「おお、本当に『家電量販店』がある」
そこにはよく知っている七階建ての『家電量販店』が建っていた。
自然と引かれるように俺がドアの前に立つと、ドアは自動で音を立てて開く。そして、ドアの先には最新家電たちが並べられていた。
「おおお、マジで異世界なのに家電があるぞ。一階はスマホ売り場がメインか?」
俺は最新機種が並べられている売り場を通りながら、異世界なのに電化製品があるという状況に戸惑いと感動を覚えていた。
いや、まぁ家電があるからどうしたと言われれば、その通りなんだけどな。
ていうか、どういう原理で蛍光灯の電気が付いているんだ?
俺はやけに明るい店内を歩きながら、ふと気になって天井を見上げる。
電気がない世界だというのに、天井には普通の家電量販店と変わらない数の蛍光灯がつけられていた。
電力をどうやって賄っているんだよ、異世界だぞここは。
「ん? フロアマップ? え、地下に食品あるの?」
俺が一階のフロアを歩いて色々と見ていると、ふいにフロアマップを発見した。
どうやら、そのフロアマップによると、地下には食品や日用品と医薬品などがあるみたいだ。
俺は唾を飲んで微かに乾いている喉を潤わせてから、速足でエスカレーターを下っていった。
そして、エスカレーターが下っていった先に広がる景色を前にして、俺は『おおっ』と感動の声を漏らした。
レトルト用品や飲料水にお酒、機能性食品や衣料品に日用品に医薬品。それらがずらっと並んでおり、選びたい放題といった感じになっていた。
俺はずらっと並んでいる商品の名から、陳列されているミネラルウォーターに手を伸ばした。
……会計しないと万引きになるなんてことはないよな? なんか値段表示とかないし、そもそも『家電量販店』って俺のギフトだし。
試しにミネラルウォーターを取って飲んでみたが、特に防犯ブザーなどが鳴ることはなかった。
まぁ、味は普通のミネラルウォーターって感じだな。
もしかして、ここにある商品全部無料で食べ飲み放題?
「これって……一生ここで暮らせるんじゃね?」
水の確保ができればと思って『家電量販店』を使ってみたが、これは想像以上の収穫だな。
さすがに生野菜とか生魚とかはないかもしれないが、それでも生きていくには十分すぎる物たちが揃っている。
ウィ、ウィーン。
俺がそう考えて口元を緩めていると、どこかから機械音が聞こえてきた。
ミネラルウォーターを飲みながら音のする方を振り向くと、徐々にその音がこちらに近づいてきていた。
「な、なんだこの音は……」
ウィーン、ウィーン、ウィーン。
徐々に近づいてくる未知の音を前に、俺はミネラルウォーターを口から離す。
俺が息を飲んで小さく構えていると、その機械音の正体が俺のもとに近づいてきた。
白を基調とした細身のフォルムをしたそれは、胸元に液晶をつけており、真っ黒な目で俺をジィっと見ている。
ザ・ロボットというような形をしているそれは、機械音を立てながらせわしなく動いていた。
「ペッハー君?」
機械音を出しながら俺のもとに近づいてきていたのは、みんなご存じ人型ロボットのペッハー君だった。
「ウェルカムデス。ダンナサマ!」
ペッハー君はボーカロイドのような声でそう言うと、両手を上げて俺を迎えてくれたのだった。
ん? 今俺のことを旦那様と言ったか?
これが俺とアリス(ペッハー君)との最初の出会いだった。
そして、この時の俺は知るはずがなかった。というか、誰も想像することなどできるはずがないだろう。
このペッハー君が、俺の人生におけるメインヒロインになるなんて。
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