第25話 僕達は悪質プレイヤーをやっつけた!

「こいつら負けそうだから、バグ技を使い出しただろ!」


 ゲームはコンピュータプログラムである以上、必ず不具合を内包している。特定の操作により、兵士がワープしたり無敵になったり弾薬が無限になったりするバグは、FPSではよくある。

 特に発売直後の新作だと、バグだらけの場合が多い。


 だから、バグの存在自体は、しょうがない。


 だけど、今の状況は――。


「カズ、なんとかして」


「なんとかしてって言われても、バグを使われたら勝てないよ。こっちも同じバグでやり返すしかないけど」


「バグ、駄目ッ」


「だよね……。まあ、やり方も分からないし……」


 相手が卑怯なことをしているからといって、自分たちも同じことをしていい理由にはならない。

 正々堂々と卑怯な手段を駆使すれば打開策はあるんだけど、どうしよう。


「バグ、駄目ッ!」


 アリサがリアルで肩を揺さぶってきた。わざわざゲームを中断してまで……。

 僕の沈黙を、バグ技の使用を検討しているように受け止めてしまったのかもしれない。


 泣いたり叫んだりするほどゲームに熱中している子のために、勝ちたいよなあ。


 しょうがない。


「アリサ、ゲーム内のルールを護るなら、正々堂々と卑怯なことしてもいいよね」


「ん?」


「オンライン最後の日、運営からメッセージがきてたでしょ。ジェシカさんから聞いてない? 僕はベテランスキル『徹底抗戦』ってのが使えるっぽい」


 説明テキストを読む限り『徹底抗戦』は味方の死亡回数に応じて様々な特殊攻撃が可能になる能力だ。

 僕達は累計で40回死亡しているし、15回連続デスもしているため、強力な特殊攻撃がよりどりみどり。


「デス数に応じて兵器が使えるっぽい。とりあえずアパッチ使ってみる」


 特殊メニュー画面を開き、決定ボタンをポチる。

 ゲーム画面が暗転し、上空の攻撃ヘリから見下ろした灰色の映像に切り替わる。

 狭い対人マップには対空火器なんて設置されていないから、敵チームに反撃手段はない。


「まあ、ご愁傷様。対戦相手をレイプするためにスキル使用可能ルールにしたやつが悪い」


 モノトーンの拡大画面では、壁を透過して人影が5つ白く浮き上がっている。


 ひとつはアリサ。

 残り4つは敵だ。

 手足の輪郭は曖昧だが銃器は鮮明に写っている。


「アリサ。巻きこまれるから敵に近づかないでね」


「OK」


「ターゲット、インサイト!」


 僕が射撃ボタンを押すと、数秒後、廃工場で爆発が起こる。

 淡々とボタンを押していくと、次々とキルログに敵兵士死亡の情報が表示され、僕に得点が入っていく。


 ざまあ!

 僕がLv10台で、相手がLv80超えばかりだから、通常の数倍の得点が入る。


 やっべ。

 一気にLv30に上昇したかと思ったら、40になり、その後も上がり続けてる。

 敵のランクが高いから、得点がめっちゃ美味しい!

 スコープとかスキンとか勲章とかめっちゃアンロックしまくって、通知メッセージが止まらない。

 ゲーム音がオンだったら、爆発音より、アンロックのチャリンチャリン音の方が大きいくらいウハウハだろうな!


 どこに隠れても無駄、無駄。

 コンテナの陰でも爆風ダメージ、いっちゃうよ。


「コ~ブラ~。ふふふ、ふふん♪」


 アリサが歌いだした。武装ヘリが出てきたら古参プレイヤーが歌う、謎の歌だ。

 だから、僕は定番の台詞を返す。


「コブラじゃなくてアパッチだよ」


「コブラじゃねーか!」


「アパッチだって! ほら。敵はマップ中央に逃げていくからトドメ刺して。けっこう削れてるでしょ?」


「カズばっかりキルして、ずーるーい!」


「勲章、美味すぎ~っ」


「Fuck! あいつら逃げた」


 ゲーム画面に次々と『相手プレイヤーが退室しました』というメッセージが出てくる。

 格下にキルされるのが悔しかったのだろう。

 徹頭徹尾マナーの悪いプレイヤーだな!


「あ。最近遊んだプレイヤー一覧、見て。敵のレベル、90行ってたのに、全員が70以下に下がってる。マジでざまあ!」


「ホントだ! やったねカズ! 私は24まで上がったよ。いひひひっ!」


「24おめ。僕、55!」


「ずーるー、いっ!」


 あー。

 スカッとした。

 敵はまさか、低レベルのふたり組にボコられるとは思いもしなかっただろうなあ。

 低レベルといっても、僕達は、旧作では常に世界50位以内の実力者だから!(オンラインプレイヤーが50人くらいしか残っていなかったけどな!)


「けっこう時間が経ったし、部屋に戻ろっか。トイレ休憩が長すぎて、ジェシカさんが心配してるかも」


「大丈夫だよ。早すぎると逆に、手を洗ったか心配されるよ」


 僕がゴーグルを外すと、同じようにしていたアリサと目があった。


「フルボッコされてたんだから、さっさとゲーム中断しちゃえば良かったのに」


「だって、途中で止めるのはマナー違反だもん。それに、インチキしているヤツを実力でねじ伏せると、スカッとするし! いひひひひっ!」


 アリサの小悪魔じみた笑顔が可愛くて、僕もつられて頬が緩む。

 敵チームだったときはウザかったのに、協力したら可愛く思えるから不思議だ。

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