第23話 リアルでパンツが飛んできた?!

 僕達は塗装の剥げたコンテナに身を隠して走る。ゲーム音をオフにしているから、足音がどれくらい響くのか分からない。得られる情報が少ないから、普段より緊張する……。


 敵はすぐに発見できた。

 三段重ねにしてあるコンテナの上で隠れもせずに、4人組が周囲を見渡している。


 僕もアリサもレベル10台だから雑魚だと思って侮っているようだ。プレイヤー一覧で見た時、あいつら全員80越えで、90もいたからな……。

 ガチなら相手はプロ級だから僕達は圧倒的に不利。だが、オンラインサービス開始直後のゲームだから、レベルなんてあてにならない。

 オンライン対戦の成績は、極端な例だと「1発だけ撃って1発命中させてから、2度と遊ばない」ようにすれば、射撃命中精度が100%になるからな。


 アリサも敵に気づいたらしく立ち止まる。

 僕達はコンテナの陰で身を寄せあい、声を小さくする。


「右の3段コンテナの上、4人」


「私から見えるのは、3人だよ」


「オッケー。ちょっと待って」


 僕はサブマシンガンから右手を放し手榴弾を取る。左手でピンを抜き、3、2、1、投げる!


 手榴弾は、プレイヤーの身体能力がガチで反映されるおっそろしい武器だ。あ。やべ。すっぽ抜けた。

 敵がいるコンテナに乗せる感じで投げたつもりが、頭上を越えて……炸裂。

 却って、それが良かった。爆風がヘッドショット判定になったらしく、敵兵が2名死亡。 同時にアリサがアサルトライフルを撃ちひとり仕留めた。


 なお、現実世界でコントローラーをガチでぶん投げる人が続出したため、BoDのローディング画面では毎回『コントローラーのストラップを手首にしっかりと装着してください』というメッセージが出てくるぞ。

 ちなみに僕は手榴弾を転がそうとして床に手をぶつけて怪我して病院に行ったことあるぞ。


 4人目はコンテナから飛び降り、自滅した。僕の攻撃で瀕死になっていたから、着地の衝撃で死亡したのだ。


「今のうちに敵の死体から武器を奪おう」


「クレイモアあった!」


「クレイモア、ナイスー」


「設置するね。今の敵、絶対顔面真っ赤にして、ここに戻ってくるからふっとばそ!」


「間違いない。僕は周囲を警戒するからトラップ設置お願いします」


 アリサは物陰に対人指向性地雷クレイモアを設置していく。

 相手プレイヤーが復活してくるまでの時間は僅かだ。手際が肝心。


「パンティ、くれよッ!」


「ちょっとSinさん、いつまで、そにょネタ引っ張るんですか!」


 僕は動揺したせいで、途中で息を吸って変な声を出してしまった。


 大抵のFPSでは、プレイヤーの操作にあわせて『リロード』や『グレネード』といった台詞が流れる。

 BoDⅢでクレイモアを設置すると『Planting claymore』という声が聞こえてくる。


 僕が以前それを真似して「プランティンッ、クレイムヮ」と英語っぽく発音したら、Sinさんには「パンティ、くれよ」と聞こえたらしい。


 爆笑され「お前『パンティくれ』はライン越え。何に使うんだよ。通報すんぞ」と、暫くからかいのネタになってしまった。


「ねえ、クズ、じゃなくて、カズはアリサのパンティ欲しい?」


「わざとクズって呼んだでしょ!」


「ねえねえ、アリサのパンティ欲しい? やっぱ男の子って、可愛い女の子のパンツが見たいだけじゃなくて欲しいの?」


「可愛いのは事実だけど、自分で言う?!」


 さっきまで泣きそうだったくせに、ちょっと反撃成功したからって元気になったらしい。


「Planting claymore! リピート、アフタ、ミー」


「パンティくれよ!」


「はいっ。あげる」


「えっ?」


 手に何かが触れた。VRじゃない。間違いなく現実で手に何か、柔らかい布的なものが乗せられている。

 うっそだろ。うっそだろ。


 反射的に見下ろすが、そこに見えるのはサブマシンガンを持った兵士の手。

 僕はゴーグルをずらして、手を見る。

 本当に何か白い布が乗ってる!


「うわあっ!」


「カズのエッチ~」


「あっ、ハンカチ!」


 アリサもゴーグルを外し、SNSでたまに見かけるメスガキ漫画みたいな笑みを、にま~っと浮かべている。


「ねえ、パンツだと思った? アリサのパンツが気になるの? アリサのエッチな画像、検索しちゃう? アリサがフィギュアになったら毎日、下から覗いちゃう?」


「汚いから驚いただけ!」


 僕はハンカチを指先でつまんで投げ返す。

 なぜか、投げ返された。


「アリサのパンツ、汚くないもん! お漏らししたらジェシーが洗ってくれるもん!」


「お漏らししてるの?! 14歳だよね?!」


「噓で~~すっ! ば~か! いひひひひっ!」


 そんな、自分にしかダメージが入らない噓をついてどうすんの?!

 アリサは膝を伸ばし僕を蹴ろうとするとが、ソファには十分な距離があるから届かない。


「はい、残念。射程外です~」


「うーっ!」


 アリサが心底悔しそうに脚をバタバタさせてる。

 スカートがヒラヒラしていてそっちに視線が引っ張られそうになったから僕はゴーグルを装着しなおす。


「まだ負けてるんだし、真面目にやろうよ。右回りで敵のリスポンポイントに行くよ」


「了解、エッチマン!」


 ふてくされたような返事だった。

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