VR・FPSで野生のプロに鍛えられた僕、最強クラスの実力に気づかないまま、姉妹VTuberに招待されて大会に出場することになりました。リアル世界でメスガキと美人お姉さんに翻弄されながら優勝めざします
第18話 控え室に入り、席に座る。ただそれだけのに、僕はやらかす
第18話 控え室に入り、席に座る。ただそれだけのに、僕はやらかす
「じゃ、こっから本番。話はすべてオレにあわせろ」
ジェシカさんはサングラスを外して胸元に引っかけると、スマホでどこかに連絡をする。
「もしもし。緒方です。入り口の前にいます。……はい。では、お願いします」
ジェシカさんが通話を終えてスマホをしまうと、間を置かずにドアが開いた。
スーツ姿の若い女性がでてきた。STAFFと書かれたカードを首からさげている。
女性は一瞬だけ僕に視線を向けると、手を口元に持ってきてジェシカさんに小声で話しかける。
「お疲れ様です。時間には間にあってますけど、最後ですよ。みなさん揃ってます」
返事をするジェシカさんも小声だ。
「主役は遅れてくるってね。あ、噓。すみません」
「それで、そちらが?」
「はい。弟です」
女性は上品に微笑むと、ペコリと頭を下げた。
「ふたりのマネージャーの佐々木と申します」
佐々木さんは、名刺を差しだしてきた。
「え? あの、えっと。ど、どうも、初めまして。藍河です」
ビジネスマナーなんて知らない僕はおっかなびっくり、名刺を受けとった。
マネージャーさんは胸元のスタッフ証を手にし、再び周囲をたしかめてから、ジェシカさん、アリサ、僕、に視線を一巡させる。
「これで控え室やスタッフルームに入れるようになりますけど、みなさんがこれを首から提げていたら身バレするかもしれないので、今日はカードなしです。何かあったら私に電話してください」
あ。それで、僕は名刺を渡されたのか。
「それでは、本日はよろしくお願いします」
マネージャーさんはペコリと小さくお辞儀をすると、ドアに向き直り、壁にあるセンサーにスタッフ証をかざした。
マネージャーさんは内開きのドアを開けて入室し、内側からドアを支えてくれた。
ジェシカさんが中に入っていく。
僕も入るんだよね?
アリサと無言で視線を交わし『先にどうぞ』『カズ、行って』『いやいや、どうぞどうぞ』『レディファースト!』『でしょ? だからアリサが先に』と、首をぶんぶん振りあった。
マネージャーさんが「どうぞ」と促してくるから、いつまでも待たせるわけにもいかない。
「ほら、アリサ。僕は荷物があるし」
「うー。分かった」
アリサが入っていくから、僕は最後にキャリーバッグをひきながら入室。
ああ、ドキドキする。
遅刻して教室に入ったときのように室内の視線を集めてしまうのかと思うと、気後れしてしまう。
けど、すぐ気が楽になった。
誰も僕を見ていない。
視線を集めているのは先頭のジェシカさんだ。
超絶美人の外国人女性だから人目を引いて当然だ。ファッションショーの控え室と勘違いしたモデルかと誤解されたに違いない。
さらに、不思議の国のアリスの絵本から飛びだしてきたみたいな少女まで入ってきたら、視線を集めるのは当然。
ドアが開いたときに聞こえていた雑談がいつの間にか止まってるし、明らかに姉妹が注目を浴びている。
最後にこそこそと入ってきた、スポーツ漫画の観客席にコピペ量産されたような僕をわざわざ見る人なんていないだろう。
室内では、4つのロングテーブルが口の字に並んでいる。
空いていた入り口側のテーブルに右からジェシカさんとアリサが並んで座った。
(あっ……)
僕も席に着いたところで、失態に気づいた。
普段、人の隣に座らないようにしているから、アリサとの間にひとつ席を空けて左端に座ってしまった。
(しまったぁ……。ジェシカさん、アリサ、無人、僕という配置になってしまった……。一緒にゲームするくらい仲の良い家族設定なのにスペースを空けるなんて、明らかに不自然……)
アリサが『何こいつ、なんで隣じゃないの?』と言いたげに首をかしげ、僕をじっと見つめてくる。
(ヤバい。ジェシカさんまで気づいた。僕がふたりを避けているとか、変な誤解をされたらどうしよう!)
いまさら席を移動するのも謎行動だし、どうしよう。
席、座った瞬間、終わったわ。ぴっぴっ、ぴぴぷー、ぴぴぷー、ぴぴぷー。
と、僕が中途半端に腰を浮かせておどおどしていたら、ジェシカさんが失笑。
「わりい、わりい。荷物、預けたままだったな。ほら、アリサ、1個ずれて」
あれ。気にした様子もなく、ふたりが席を1個ずつズレて僕の方に移動してきた。
荷物……?
そうか。僕はジェシカさんの大きなキャリーバッグを左側に置いている。
大きな荷物があるからテーブル端の席を選んだと解釈してくれたようだ。
焦ったぁ。
危うく、変に気まずくなるところだったよ。
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