VR・FPSで野生のプロに鍛えられた僕、最強クラスの実力に気づかないまま、姉妹VTuberに招待されて大会に出場することになりました。リアル世界でメスガキと美人お姉さんに翻弄されながら優勝めざします
第16話 僕は気づかないうちに現実世界でアリサに抱きついていた
第16話 僕は気づかないうちに現実世界でアリサに抱きついていた
「ボコる。絶対にボコる」
「なんか疲れちゃった」
アリサが僕の方に倒れて、全体重をかけてきた。
くっそ。どこまで鬼畜なんだ。
せっかく見えるようになった視界の下半分が再び、半透過になってしまった。左右の隅ではうさ耳リボンがチラチラ現れたり消えたりする。
だが、問題ない。
どうせナイフキルを狙ってくるだろうし、敵の上半身だけ見て戦うぞ!
なんか、昔見た忍者アニメで、敵の足だけ見て全身の動きを把握するシーンがあった気がするし、それに比べれば容易い!
ふんぞり返り姿勢で下の方を見下ろすことにより、僕はゲーム世界の前方を確認する。いた。正面!
アリサの体が邪魔で僕は両腕を使えない。だったら、片手で撃てるハンドガンで戦う!
僕は前方に進み、直後、爆音が聞こえて画面が真っ赤に染まり、死んだ。
足下に対人地雷が設置されていたらしい。
くっそ! 意外と策士だな! こっちの目論見を読みやがった!
再びアリサが僕の死体の上にやってきて、おいなりさんしてきた。
「ぐぎぎぎぎっ……!」
「あははっ!」
再出撃したら、僕はさっき自分が死んだ場所に向かった。アリサがおいなりさんを続けていたら、ナイフキルしてやる……!
しかし、そこにアリサはいなかった。というか、どこにもいない。
プシュッ! ビシッ!
小さい発砲音とほぼ同時に命中音。僕はダメージを喰らい、画面の隅が僅かに赤く染まる。
「もしかして、伏せてる?!」
「えへへっ!」
くっそっ! 僕は視界の下半分を奪われているからアリサの位置が分からない。
プシュッ! ビシッ!
再びダメージを喰らい、画面の隅が僅かに赤く染まる。
大抵のFPSでハンドガンは最小威力の武器になっており、ヘッドショットされても死ぬようなダメージは受けない。数十秒が経過すれば、ダメージは自然回復する程度だ。
アリサはサプレッサー(発砲音を小さくする道具)を装着しているから、ダメージは小さくなっており、ますます僕は死なない。
時間が経過し、ゲーム画面が正常に戻っていく。
だが……。
兵士の荒い息が収まり、画面の色が元に戻ると、再び、ビシッという乾いた音とともに、四隅が濁った赤色で染まった。
逃げたい。でも、確実に対人地雷が設置されてる。動けば死ぬ。
「ねえ、殺さないようにいたぶってる?!」
「えーっ。えへへ……。カズともっと長く遊んでいたいだけだよ~」
「くっ……!」
口では可愛いことを言っているけど、明らかに僕をもてあそんでいる。
プシュッ! ビシッ!
「ごめんね。アリサ、下手だからすぐに倒せないのかも」
プシュッ! ビシッ……!
画面が赤く染まる。
はぁはぁ……。
兵士が荒い息を漏らす。
体力が回復し、画面が元の状態に戻る。
プシュッ! ビシッ……!
くっそお……!
だが、僕がただやれているだけだと思うなよ。
発砲音からアリサの位置はある程度分かってきた。這って移動しているみたいだけど、そろそろ特定できるぞ。
「ふふん、ふん、ふふっ、ふ~んっ♪」
極悪人が上機嫌にBoDのテーマ曲を鼻で奏で始めた。
ビシッ……!
命中音は聞こえたけど、発砲音が聞こえない!
してやられた! アリサは鼻歌で発砲音を隠し、自分の位置がバレないようにしている!
出会ってまだ短い時間だけど、分かってきた。
多分、アリサは辞書の『クソガキ』って項目の参考画像に載っている。
くっそ! 我慢の限界だ!
こうなったら!
僕は瞼を閉じる。もう、見ない。部屋の構造を思いだし、アリサの潜んでいる位置を想像する。
そして、上半身を前に突きだし、両腕を体の前に持っていきライフルを構える。
アリサが邪魔だが、強引にライフルを構えて、発砲!
「当たれ! 当たれ!」
ズダダダダダッ!
画面を見ていないから、どうなっているのかは分からない。
ターゲットダウンと聞こえてこないから、倒せていない。
くそっ……!
このまま撃ち続けていたら、反撃で殺される!
弾が切れた!
リロード!
ヤバいヤバい。弾倉を交換している間に撃ち殺される!
BoDで弾倉を交換するときは、ゲーム画面で実際にライフルの弾倉がある位置に手を伸ばして、グリップボタンで弾倉を掴んで下に引っ張って外し、今度は自分の腰にある予備の弾倉を掴んで、再びライフルにセットする必要がある。
つまり、現実と同じ動きをする必要があるのだ。
僕は弾倉を外し、予備の弾倉を取り、再装填。
カチッという効果音が鳴らない。どういうことだ?
この銃も弾倉もやけに柔らかいぞ。
あ。予備の弾倉が腰の左側じゃなくて、もう少し前の方なのか。
僕は腰の前に手を伸ばし――。
「はい、そこまで」
ジェシカさんの声がして、おそらく僕は彼女に手首を掴まれた。
「カズ、ゲームに熱中しすぎて、自分がどういう姿勢で何を触っているのか分かってないでしょ。あとでめちゃくちゃ気まずくなるやつだから、そこまでにしときなー。アリサが完全にフリーズしちゃってる」
「え?」
……ん?
あっ!
そうだった。アリサは僕のまん前、仲良し兄妹の距離感でゲームしてた。
え、あれ、待って。
僕が銃を撃つときの姿勢って、まさか、背後からアリサを抱きしめてた?!
リロードするために、体を触ってた?!
僕はアリサを離すために恐る恐る腕を横に広げ――。
ぷにんっ。
左手の甲が、何か柔らかいものに触れた。
「うわっ!」
「悲鳴あげるなよ。オレだよ。おまえ、ラブコメ主人公の素質あるよ。屋外でVRは周りが見えないんだから、気をつけなー」
「は、はい……」
ど、どういう意味だろう。確認するのが怖い。
僕はそっと両腕を頭に持っていき、VRゴーグルを外した。
僕の股の間にいたアリサがずるずると下に落ちていき、床に落ちちゃう前にジェシカさんが抱き起こした。
アリサはそのままジェシカさんのお腹に顔を押しつけるようにして抱きついた。
気まずい……。
明らかに僕は初対面の姉妹に、変質者的行為をかました。
「えっと、ごめん……。ゲームに夢中になってた……」
「……い、言うこと聞くって約束、忘れてないよね? カズは今日一日、私の言うことを聞くこと……。そ、そうしたら許すから……」
「う、うん」
良かった。アリサの声はそれほど怒ってない。
痴漢になって逮捕される怖れはなさそうだ。
連続キルされたからって、熱くなりすぎたようだ。反省しよう。戦場では冷静さを失ったやつから死んでいくから……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます