#13「赤子攫い」B

 雷男は由人に通信を入れた。


「由人!さっきカテラスが出現してさ...」


 雷男はカテラスの特徴等の説明をした。


「そうだったのか。ごめん。向かおうとしてたんだけど、反応が消えちゃったから」


「奴にアリツサーチの発信機を貼り付けて、今追跡している。分かったらまた連絡する。」


「分かった。」


 通信を切った雷男は一人では不安に思い、助っ人を呼ぶ事にした。そしてしばらく待つと助っ人が到着した。


「こっちだ。拳也君」


「雷男さん。カテラスは?」


「今追跡の途中だ。」


「でも何で僕を?」


「格闘術の君の実力が見てみたいと思ってさ。それにほかは仕事もあるだろうしさ。」


「僕も母の手伝いとかしてますけどね...それにしてもここって別当町じゃないですか。」


「ありゃ、いつの間にかそんな所まで来ていたか。追跡に夢中で気づかなかったな。よし追跡を続行だ。行くぞ拳也君!」


「はい!」



 通信を終えた由人の部屋に、防子と愛剥路が入ってくる。


「雷ちゃんどうしたって?」


「カテラスを追跡している」


 由人は二人に今回のカテラスの特徴を説明した。説明を聞いた二人はカテラスに対して激昂した。


「赤ちゃんの命を吸収して、それを平気でするなんて!」


「その上赤ちゃんを攫って、人々を幼児退行させるなんて!命を軽く見過ぎです!」


 二人が怒るのも無理はないだろう。

 命を、しかもまだ生まれて間もない赤ん坊を死に至らせるのだから、まともな人なら誰が聞いても怒りを露わにするのは当然である。

 二人もカテラスを討伐に向かおうとしたが、拳也から雷男と合流して共に追跡すると通信が入った事とあまり大人数で行って、アリツフォンが破壊されてしまったら、その超戦士の共有能力は使用できなくなってしまう事を説明して、二人は向かうのを辞めた。


「拳也君が言うには別当町まで行っているらしい。」


「そういえば、私と由ちゃんは昔はそこに住んでたよね。」


「そうだね。親戚の家があって、防子の家が隣にあって、よく行き来してたの思い出すな〜。今は親戚と連絡を取ってないからどうなってるんだが。」


「私はもう関わりたくないよ。」


「そういえば、防子ちゃんのお母さんはおかしくなっちゃったんだよね...」


「もう顔も見たくないぐらいだよ。でもそのおかげでこのお屋敷で働く事が出来て、由ちゃんと再会出来た事も考えると、複雑だなぁ...」


「本当に、あの優しかったおばさんがどうして...」


 辛い思い出話をしている最中に雷男から通信が入る。


「ついに見つけたぞ!敵の居場所を!」


「そうか!」


「そっちに映像を送るぜ!」


 アリツフォンに映し出された映像は赤い霧妻屋根をした一戸建ての民家だった。それを見た由人と防子は見覚えがあった。


「この家って...」


「わ、私の家だ...」


「「防子ちゃん(さん)の家!?」」


「今から私もそっちに向かうから!」


 防子は屋敷から飛び出し、アリツバイクですぐさま向かった。


 雷男は防子の家と思われる扉を開けようとするが、鍵が掛かって開けられない。


「僕が開けます!」


 拳也はアリツレッグを発動してドアを蹴飛ばし、中に吹っ飛ばされた。

 二人は中に入るとカーテンを閉め切って暗闇に覆われていた。雷男はアリツライトを取り出した。いわゆる懐中電灯を点灯して進み始める。

 中は物が散乱しており、不気味な雰囲気がより一層増していく。

 すると奥に扉を発見するが、開かなかったので拳也は今度はアリツハンドを発動し、ドアノブを掴んで、内側に力づくで開いた。

 中に入るとすぐそばに部屋の電灯スイッチを見つけ、明かりを点けるとそこには攫われた赤ん坊達の姿があった。


「こんなに赤ちゃんが...」


「出てこいカテラス!お前を倒して赤ん坊を返してもらう!」


 そこで部屋に入って来た人物は、一人の女性だった。


「あの、もしかして赤ちゃんを取り戻しに来たんですか?」


「俺達が取り戻すから、家から離れろ!」


「...せっかく攫った赤子を取り返されたら困るわよ。」


 女性はパシファイヤーカテラスに姿を変えた。


「人間がカテラスに姿を変えた!?」


「カテラスは元は人間なのは知ってるけど、姿を自由に変えられるカテラスは初めて見ます!」


 二人はアリツフォンを取り出し、アリツチップを挿し込む。


[Martial Arts In]

[Mechanical In]


電子音声の後に待機音が鳴る。


「「武着装!」」


掛け声を言って、二人はCERTIFICATIONの文字をタップした。


[CERTIFICATION. In Charge of Martial Arts.]

[CERTIFICATION. In Charge of Mechanical.]


再び電子音声が聞こえた瞬間、二人の周りに光が纏ってアリツシャーマ、アリツメカニッカーに武着装した。


 全員家の外に場所を変えて、二人はアリツソード、パシファイヤーカテラスは巨大なラトルを取り出して構えた。

 すると、バイクに乗って向かっていた防子が現場に到着した。

 やっぱり私の家だと防子が思っていると、パシファイヤーカテラスは防子に呼びかけて、再び人間の姿を現す。


「お、お母さん...」


「さ、防子ちゃんの」


「お母さん...このカテラスが...」


 カテラスの正体は防子の母親の壁玉 壁美へきだまへきみであった。


「なんで赤ちゃんを攫ってるの...」


「それは力を付けて、あなたを連れ戻す為よ。教祖様があなたを連れてくれば、救いを与えてくださるのよ!」


「まだあんな宗教を信仰してたの...そんな事のために赤ちゃんを...!」


 防子は赤ちゃんが攫われている部屋に入り、アリツパシファイヤーを取り出して赤ん坊の口に投げて禍々しいおしゃぶりを吹っ飛ばして咥えさせた。


「これでもう安心だね」


 大人達にもすでにアリツパシファイヤー咥えさせて、元に戻していた。

 防子は武着装して、アリツシーリアに姿を変えて壁美ことパシファイヤーカテラスの前に姿を現した。

 防子が中に入っている間にメカニッカー達は応戦したが、赤ん坊を一人抱え込んでおり、その赤ん坊を盾代わりにしていたために迂闊に手が出せず、ラトルで二人を叩き地面に転がり込んでいた。


「赤ちゃんを盾にするなんて、そんなひどい事をするのはもう親なんかじゃない!」


 シーリアは突撃して、赤ちゃんを取り返して、アリツパシファイヤーを咥えさせた。


「親を突き飛ばすなんて...」


「もう親じゃないって言ってるでしょ!」


 シーリアはアリツフォンを取り出し、アリツハジキを発動した。するとシーリアはアリツソードを構えながらじっとした姿勢になる。


「これでも喰らいなさい!」


 ラトルを振り落とすと、シーリアは身を引きラトルを弾き上げる。パシファイヤーカテラスはその場で硬直してしまう。


「か、体が!?」


 シーリアはこの隙に相手の持っているラトルを逆袈裟斬りでラトルを吹っ飛ばし、その直後に袈裟斬りにした。

 パシファイヤーカテラスは地面に倒れ込み、シーリアは剣先をカテラスに向ける。


「わ、私の負けよ!だから命だけは助けてちょうだい!」


「...これで終わりよ」


 シーリアはアリツソードにアリツブレイクチップを挿し込んだ。


[Break Standby]


[Defence Break]


「ハイヤァァ!」


「ぐ、防子...母親を容赦無く...斬るなんて」


 ディフェンスブレイクを発動し、倒れ込んだパシファイヤーカテラスに頭上から振り上げ、真向斬りにした。

 パシファイヤーカテラスは壁美の姿に戻った。

 防子の事を睨みつけながら壁美は倒れた。

 同時にその近くに全身が茶色で両手に刃がついており、禍々しい見た目した怪人の姿をシャーマだけが目撃した。が、その怪人はすぐに姿を消してしまった。


「なんだ今のは...?」


 警察と救急車に通報し、壁美は病院に運ばれ、後日入院したらしい。防子はこれをきっかけに壁美とは絶縁する事にした。

 赤ん坊は親達の元に返された。

 しかし、カテラスに自由に姿を変えられる人間に茶色い怪人と謎が増えたのだった。

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