#6「屋敷生活のルーティン」B

「武響、由人様ですね?」


 真剣な表情印象でロングパーマのオレンジカラーのタキシードの男が話しかけてきた。


「あなたは?」


「私はこの屋敷の執事長をしております。大類 環助おおるいかんすけと申します。挨拶をする時間が取れずにいて申し訳ありませんでした。」


「いえ、そんな...」


「お〜!お前が由人か〜!」


 すると環助さんの隣にいるタキシードを着た坊主頭の男が話し始める。


「俺は執事の地盤 雷男じばんらいおだ!よろしくな!」


「よ、よろしく...」


「こら!雷男!由人様に向かってなんだその口の聞き方は!」


「良いじゃないっスか〜!環助さ〜ん!俺とそう歳も変わらねぇんだからさぁ〜!それに急に来た奴に様付けするなんておかしいっスよ〜!」


「まぁ、そうだよね。むしろ何で様付けで呼ばれてるのか、こっちが不思議なくらいだもん。」


「まぁ悪い奴じゃねぇみてえだから、変なことはしねぇよ」


 悪い奴だったら何かするのだろうか?


「あら〜皆さんお揃いでどうしたのかしら〜。」


 今度は長身でロングヘアーな穏やかな雰囲気持つメイドがやって来た。


「あ、風鈴さん。」


 その人は先日の変装実験をしている時に遭遇した砂浜育鈴さんだ。防子が言われるまで気付かなかったけど、メイド服を着ると印象変わるなぁ〜。


「もしかして、あなたが由人君?あっ、それとも由人様ですか?」


「あっはい。あっ、君で良いですよ。様付けされる程の人間ではないので...」


「で、でも〜未央理様の親族が連れて来たお偉いさんですし...」


 そんな立場なのか僕...そう言われたかしこまっちゃう...のかな?


「いえ!本当に様とか付けないで大丈夫ですので!好きに呼んでください!何だったら呼び捨てでいいので!」


「じゃあ、由人ちゃんって呼ぼうかしら。よろしくね。由人ちゃん。」


(ちゃん呼びになった…)


「育鈴さん!今日もお美しいですね〜!」


「あら。そんな事言ってくれるなんて、毎度お上手ね。雷男君」


「いえいえ。俺は本心でそう思ってるっスよ!」


 し、執事がメイドをナンパしている?こんな事ってあるのか?いや僕が知らないだけで、そんな事もあってもおかしくないかもしれない...


「もし良かったら、仕事終わりに...」


「雷男!メイドにナンパをするなといつも言っているだろう!」


「じょ、冗談っスよ〜」


「全く、仕事は出来るというのにそのナンパ癖がなければ優秀な執事だというのに...すいません育鈴さん。毎度雷男が口説きいってしまって...」


「いえいえ〜お気になさらず〜私も言われて悪い気はしませんので〜」


「ほら!悪くないって言ってるじゃないっスか!」


 反省をしていない様子を見せた雷男さんを見た環助さんは黙りなさい!と一喝した。

 まぁ自業自得だよね。話が終わり、育鈴さんと環助さんはその場を後にして去っていった。


「じゃあ部屋に戻ろうか。由ちゃん。」


「そうしようぜ!由人!」


「いや、何で雷男さんまでいるの?」


「なぁに、お前さんの事を知りたくてな。くっ付かせてもらうぜ。そして俺のことは呼び捨てでいいぜ。」


 まぁこれから一緒に暮らしていく訳だし、少しでも親交は深めた方がいいか。

 僕たちは部屋に戻ることにした。部屋に帰る道中、金髪のメイドを目撃した。するとメイドはこちらに気付いて声を掛けてきた。


「あっ!防子!今まで何してたの〜。」


「や、柔子ちゃん...」


「うん?由人さんじゃん!?何でここに?」


「実は、数日前からここで暮らしてます...」


「そっか〜アタシ全然気づかなかった〜。」


「これからよろしく。」


「よろしく〜。ところで防子〜この前はお爺さんと一緒に町に行った時、私が声掛けた時、早々と行っちゃったよね。逃げるように行かなくても良くない?」


「そ、それは柔子ちゃんの休日を邪魔したら悪いかなって...」


「何で由人さんと一緒にいるの?」


「い、言ってなかったけ?私、由ちゃんの専属メイドになったんだよ。」


「ふぅん...防子さ、最近、私に対しての反応が素っ気ないように感じるんだけど?何で?ねぇ何で?」


「え、えっと...」


 柔子ちゃん...なんか防子の事をやたら束縛してない?

 昔は普通に仲が良い子だと思ったんだけど...これじゃあ一方的な押し付けじゃないか。見た目も普通だったのに、変わる人は変わるのか...


「おい!柔子!防子ちゃんが困っているだろ!」


「うっさいわね!ハゲ執事!何であんたまで一緒にいるのよ!」


「一緒にいて何が悪いんだよ!この雌豚メイド!」


「誰が雌豚よ!」

「そっちが先に俺の事ハゲって言ったんだろ!」


「やめて!二人共!雷男君。私は大丈夫だから。柔子ちゃんも喧嘩しないで、ね?」


「...ふん!防子のおかげで命拾いしたわね。」


「命拾いしたのはそっちだろ?」


 その言葉を聞いて柔子ちゃんが怒りを露わになりそうになったその時、柔子ちゃんの後ろに桃江さんが現れて、柔子ちゃんを連れて行ってしまった。どうやら仕事をサボっていたらしい。


「防子。この屋敷はその、個性的な人がいるんだな。」


「そうだね。一部だけど...」


「それにしてもいいな〜」


「な、何が?」


「防子ちゃんの由人に対する、由ちゃん呼び。特別感あってさ〜。」


「と、特別なんて、そんな事//」


「よし、決めた!俺は由人の専属執事になるぜ!」


「な、何で!?」


「そりゃあ、面白そうだからさ。と言う訳で防子ちゃん。これから俺の事は雷ちゃんと呼んでくれ!」


「ら、雷ちゃん?」


「おぉ〜!いいね!いいねぇ〜!」


 ...本当は防子の近くにいたいだけじゃないのか?でもこの人ナンパしてるから、女性だったら誰でもいいのか?



 あっという間に一日が過ぎていく。

 前の暮らしでは一日の進みは遅く感じたが、ここでは早く感じる。思えば人と長時間こんなに話す事って前はほとんどなかった気がする。 多少は疲れるけど、ここで暮らしていくのは、退屈はしない...かもしれないな。

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