#3「豪邸と再会」B
僕は目を丸くした。
その専属メイドとなる人物、ブラウンのボブカットでふくよかな顔立ちが印象的なその姿は親戚の家の隣の家の子、いわば幼馴染の女の子である
「あら?お知り合い?」
「は、はい...。幼馴染で、昔はよく一緒にいました。」
「そうだったの。では防子さん。由人様を部屋まで案内してちょうだい。」
「かしこまりました。ではこちらです。」
僕は部屋を後にし、防子に自分の住む部屋にへと案内された。まさかこんな所で再会するなんて...
「ここが今日から由人様の住むお部屋になります。」
案内された部屋は、僕が住んでいたアパートの一室よりも数倍は広かった。
机やベッドに冷蔵庫まであり、まるで高級ホテルの一室のようだ。...泊まった事ないけど。
「食事は使用人がお持ちします。掃除等もご要望であれば使用人に声をかけてくだされば承ります。」
「...防子。別に俺と話す時はそんなに畏まらなくていいよ?昔通りにしてくれればいいから。」
「...うん。そうだね。やっぱり由ちゃんにこんな態度取るのは変だよね。」
僕は部屋のベッドに、防子と一緒に座り込んだ。
「まさか由ちゃんとこんな所で再会するなんてね。さっきはビックリしたよ...。」
「俺もこんな豪邸に来るなんてビックリだよ。今、二十歳だっけ?」
「由ちゃんとは三歳差だから、そうだね。」
「俺が来る事聞いてなかったの?」
「すごい人が来る〜とは聞いてたけど、まさか由ちゃんとは思わなくて。」
すごい人って聞かされてたのか...。あの人にとってそんなに僕って、大きい存在になったのか?
「それにビックリしたのは、もう一つあるよ。なんで防子が屋敷でメイドになってるの?」
「私のお父さんが高校に入学する前に亡くなったの覚えてる?」
「お、覚えてるよ。」
そうだ。防子のお父さんは事故で亡くなったんだ。僕は防子のご両親にもお世話になっていたことを思い出した。僕にとっては第二の両親と言っても過言ではないぐらいだった。僕もお葬式の時は出席したっけ。
「それでお母さんがショックを受けちゃって、それで怪しい新興宗教に入信しちゃって、その宗教にお金を注ぎ込んでいたの...。」
「全然気づかなかった...。」
「気づかれないようにしてたんだもん。当然だよ。」
でも、思い返すと、防子はある時から急にバイトに明け暮れていた。なぜこんなにバイトしているのか、一度聞いてみたが、欲しい物があるとしか言わなかった。僕もその時は家を出る下準備等で忙しくて、あまり聞けなかった。
「それで、私が十九になったら、ついに家のお金が無くなっちゃって、その宗教の教祖から娘を捧げるように言われて、お母さんが無理矢理連れて行こうとして逃げてきたの。」
「そ、そんな...あの叔母さんが...」
僕にとって第二のお母さんと言える、防子のお母さんが大事な娘を売ろうとしていたなんて...こんな事聞きたくなかった。
「それで、私は逃げたの。必死に必死に逃げて、気づいたらこの屋敷の門の前で倒れてて...それで倒れてる私を桃江さんが気づいて、私を屋敷に入れてくれて、それでここのメイドとして働く事になったの。」
「それで叔母さんはどうなったの?」
「未央理様が手を回してくれて、もう私とは絶縁するように言ったんだって。ここまで育ててくれたけど、あんな事されたらもう一緒にはいられないし...。」
「何故だ...何故相談してくれなかったんだ!僕だって、事態を知っていれば防子の助けになれたのに!」
「だって...両親を亡くした由ちゃんには、こんなの知られたくなかったから...由ちゃんを可愛がってくれたお母さんのこんな姿を見せたくなかったから...。」
防子は泣いていた。
僕が叔母さんの醜い様を見たら、幻滅すると思って、僕に見せないために一人で辛い事に耐えていたなんて...そんな防子の様子を見て、僕は防子の事を強く抱きしめた。
「えっ!?どうしたの由ちゃん//」
「ごめん...防子...今まで全く気づかなくて...」
「そ、それは」
「思えば、昔から防子は僕の事を思ってくれていたよね。困っていたら助けてくれて、いつも僕のそばにいてくれて。」
「...私の大切な人だもん。」
「それなのに、僕は防子に何もしてあげられていない。本当に情けない男だよ。」
「私は、由ちゃんがそばにいてくれるだけで嬉しかったよ?」
「じゃあ、これからはずっとそばにいるよ。今度は僕が防子の事を守るよ。何があっても...。」
「そんな事言ってくれる何て...嬉しい//これからがずっと一緒にいられるんだね。」
防子は僕の事を抱き返した。そして抱きしめ合いながら、泣き合った。それが一時間も続いた。
「そろそろ戻らないと...」
「そうか。分かった。」
「これからもよろしくね!由ちゃん!」
「...うん」
満面の笑みで答えて、防子は部屋を出て行った。これからは防子を含めた、人々のためにより一層頑張らないといけないと思った。
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