Ⅱ-弐
机があり、子どもでも入れないほど小さな窓があり(まさか逃亡の恐れがないように?)、壁時計があり、狭いベッドがある。一見してうす暗い殺風景な部屋、まるで独房のよう…パソコンはないけど、大きな図書室で共用のパソコンがあるから。それよりちょっと休憩しよう、移動しすぎて疲れたでしょう、ここでゆっくり休みなさい、夕食は一八時から、場所は下の大食堂よ。それから、最初のカウンセリングがありますよ、と寮母は言う。
あなたは少し眠った。目を開けると壁が夕焼け色に染まっている。時計を見ると夕食はもう始まっている。食堂へ行ったら少し年上の少女たちが先に食べていた。みんなはあなたを横目で見て、新人が来た、と思っているけど黙々と食べている。
今日の夕食の献立は、タラの切り身、卵焼き、ポテトサラダ、昆布の佃煮、茄子と胡瓜の糠漬け、りんごふたかけ、大根と人参と高野豆腐の味噌汁、ご飯。嘘でしょ、これっておばあちゃんの食事じゃないの? 毎日の献立通り栄養士がきちんと作っているけど、質素なものばっかでつまんない。肉食べたい、肉。鳥の丸焼きでもトンテキでも何でも。せめてデザートにプリンでもあったらいいのに。
夕食中の少女たちは、あなたの顔を見ないで言った。あんた何やったの? あたし万引き。わたし売春、といっても運営のほうね。わたし恐喝。あたしクスリ。…わたし、いじめでクラスメイトを自殺に追い込んだの…ふふ。あんた小さいね、年いくつ? もしかしてぇ、テレビでやってたやつじゃなぁい? 嘘ぉ。くすくす、ひそひそ、ふふふふふ。年上の少女たちは小さくせせら笑った。あなたは箸を持たずに言った。殺人、人を殺したの、同級生だった。みんな手が止まった。気まずい夕食だった。
寮長と寮母が遅れて席に着いて食べ始めた。もう食べ終わった少女たちは食器を下げてさっと洗い、ごちそうさまでした、とふたりに言う。今日のご飯、美味しかった? と寮母は少女たちに訊き、はい、とても美味しかったです、ごちそうさまでした、と作り笑顔の少女たちは次々に席を立っていく。さあさあ、たくさん食べていいのよ、遠慮しないでお代わりしてね、とあなたに微笑んで言う。あなたは黙々と食べはじめる。お代わりって、このおかずで?
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