第14話
美紀の知る大希は、真面目で誠実でいつも優しく、紳士的だった。それでも例外があって、男女の営みの際はまた別の話しだ。優しいばかりではなく、時には激しく美紀を貪る。その絶妙な匙加減で、美紀の欲求は満たされた。
自分だけにしか見せない大希のその表情を見た時に、大希は自分だけのもので、自分は愛されている、と実感するのだ。
しかし先程の表情は、そのどれとも違うものだった。ましてや公衆の面前で、堂々とあんなことをするような、出来るような人では決してないはずなのだ。そんな大希でさえも豹変させてしまうくらい、瑠璃子は魅力的なのだろう。雌として。
変化を嫌う性格である美紀は、刺激的な恋愛よりも、熟年夫婦のような穏やかな恋愛を好んでいた。結婚向きなタイプとは、おそらく美紀のような人間のことをいうのだろう。そして、大希もそれを望んでいると美紀は思っていた。
しかし、結果浮気されてしまったのだから……大希の方は刺激を求めていたのかもしれない。若しくは、やはり魔が差したのか。
不思議なことに、涙は出なかった。
美紀は、浮気された悲しみ以上に、敵わないであろう瑠璃子の魅力への嫉妬と悔しさを感じていた。
瑠璃子が悪い訳ではない。彼女は恐らく本当に何も知らないのだろう。
純粋に、上司である大希に恋心を抱いているのだ。
いつの日かの美紀のように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます