第13話

「酷い! だってプロポーズされたばっかじゃん!」


 電話の向こうで近藤こんどう理香子りかこが激怒している。

 理香子は美紀の幼馴染みで親友だ。大希からのプロポーズを一番に報告したのが理香子だった。


「大希君だけは絶対にないと思ってたのに。めちゃくちゃショックだよ。やっぱ男ってそういう生き物なのかもね。あれだよ美紀……魔が差したってやつ」


 理香子もそう言った。

 魔が差した。


 ――やっぱりそれか。


 相手が瑠璃子なら納得もいく。しかし、あのバラエティー番組の彼女のようにはなれない。美紀の気持ちはもう既に固まっていた。

 理香子には相談する為ではなく、別れの報告をするつもりで電話したのだが、「とにかく、大希君とちゃんと話しなよ」と言われてしまい、とりあえず今日のところは電話を切った。


 リビングのチェストに飾ってある大希との写真をぼんやりと眺め、つい数十分前の事を思い返していた。

 とりわけ穏やかで優しい性格の美紀は、激しい怒りや憎しみの感情を持ち合わせていない。しかし、だからといって、理不尽なことを言われて黙っているような性分でもない。曲がったことは何よりも嫌いだった。

 そんな美紀の実直な性格が好きだと、大希は言った。


 美紀の脳裏に焼きついて離れないのは、先程の大希の表情だった。美紀が今まで見たことのない、欲望剥き出しな厭らしい雄の顔だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る