第7話 冒険者の覚悟(シファ視点)

「まさかまたスタンピードとは。状況はどうなっている」

元より高齢ではあるが、年齢以上に老け込んだように見える父が嘆く。

スタンピードの知らせを聞いた父が老体に鞭打ってギルドにやって来たのだ。


「はい。既に数十体のモンスターが出てきましたが、いずれも上層のモンスターだったため、現場に居合わせた冒険者がすべて倒しております」

答えるのはギルド長のガンドス。

顔色は当然ながら悪い。


スタンピードはダンジョンからモンスターが出てくる現象で、発端は下層だ。

下層から中層、中層から上層、上層から外へとモンスターが上がってくる。

そのため最初に出てくるのは上層の弱めのモンスターたちだ。


スタンピードが起きているということは間違いなくこの後は中層のモンスターが、そして下層のモンスターが上がってくる。

冒険者は総力戦で戦わざるを得なくなる。

これはまさしく街とダンジョンの生存競争だ。


ギルドの呼びかけによって、冒険者が集まってきている。

なにせスタンピードを放置したら待っているのは街の崩壊だ。


そしてその街にいたにもかかわらずスタンピード対策に出向かなかった冒険者は後ろ指を指されることになる。

冒険者として信用を失う。

あいつは逃げた冒険者だと。


「冒険者の集まり具合いはどうなの?」

領主代行でもある姉も焦っているようだ。


「ほぼ集まってきてるようだな。100人くらいいる。これからオレとクレアが率いて上層でモンスターを迎え撃つ」

「ジキル……」

そしてクズと姉の会話。

クズであるジキルに中層や下層のモンスターを相手取って戦えると思えないんだけど、なぜか彼は自信ありげな顔をしている。

そんなジキルに熱い視線を向ける姉。


そもそもジキルやクレアが下層のモンスターと戦えるなんて話は聞いたことがない。

戦えるならもっと早く探索に行っていればスタンピードなんて起きていないと思うんだけど。



「大丈夫なのか?ラクスなしで」

当然ながらお父様も同じ疑問を持ったようだ。

しかしまるで準備していたように姉とジキルが答える。


「ジキルにはラクスから受け継いだ武器やアイテムを渡してあります」

「見てくださいこの剣を。他にも強力なアイテムを引き継いだ。オレはそれを使ってモンスターなんか蹴散らしてやるぜ」

本当に大丈夫だろうか?

アイテムだけでなんとかなるものなの?


疑問は感じるが、冒険者ではない私が言っても誰も聞かないだろう。


「なら良いが……ラクスがいないままの今、頼れるのはお前たちだ。頼むぞ」

私はあれ?っと思った。もしかしてお父様はラクスさんのことを知らない?



しかしそれを指摘する間もなく、お父様は疲れたのか座り込んでしまったために話は終わってしまった。






「では行くぞ!みんな、聞いてくれ。これはオレたちの町を守るための戦いだ。当然危険を伴う。でも、やり遂げないといけないんだ。みんな力を貸してくれ!」

「「「「「「「おぉおおぉぉおおおおお!!!!!!」」」」」」」


 

ジキルの威勢の良い掛け声とともにダンジョンに入っていく多くの冒険者たち。



彼らは街の被害を抑えるため、ダンジョンの上層でスタンピードを迎え撃つのだ。



ジキルとクレアに対して思うところはあるが、この街の領主の娘として、戦いに赴く冒険者たちの無事を祈る。


危険なスタンピードだ。

全員無事というわけにはいかないだろう。


それでも、どうか一人でも多くの冒険者が帰ってきますように。

犠牲になる人が減りますように。



「彼らの健闘と成功を祈るとして、ワシらは次の対応だな」

「そうね。殲滅に失敗してスタンピードが外に出た時の対策を」

ギルド長と姉は次の打ち合わせに入る。



「エランダ。ギルド長。なんとか外への影響は避ける必要がある」

そこに割って入ってきたのはアレサンドロ・ホーネルド。

ホーネルド公爵の三男で、ギルドの隣にあるカジノの責任者だ。切迫した状況だと言うのに薄ら笑いを張り付けている。


この男からすればスタンピードが外に出る、イコール、自分のカジノが被害を受けると言うことだ。

許容できないのは当然だろうが、それを今領主代行に向かって言うの?


街の全ての危機なのよ?


「アレサンドロ様。当然ながらスタンピードを外に出さないために、今勇気ある冒険者たちがダンジョンに入りました。しかし、彼らが失敗した時に対策を打つのも、リオフェンダール領としては当然のことです」

「もちろん、それを否定してはいない。ただ、もしそうなったときに父の機嫌を損ねない方がいいと言っている」

この男は何を言っているの?

スタンピードが外に出た時、間違いなく破壊されるカジノだが、それが公爵の機嫌を損ねると?

カジノだけを守るなんてバカなことができるわけがない。


「被害を補填しろとでも?」

「話が早くて助かるねぇ。さすがエランダちゃんだ」

「くっ……」

そんなバカな。

スタンピードが外に出てしまったら、待っているのは街の壊滅だ。

それこそ資産なんか残らない。

それなのにカジノの被害を補填しろですって?逆でしょ?寄り親なんだからこっちを支援するものでしょ?


「じゃあね。僕は行くから、預かっている資産は貰っていくよ。この街が無事だったら返してあげよう」

どういうこと?預かっている資産ってなに?

この男は何を言っているの?


「それは……」

「まさか断りはしないよね?そこにいるのは妹さんだっけ?いいのかなぁ」

「くっ……」

「そうそう。黙っていればいいだけの簡単なお仕事でしょ?じゃあ僕は行くよ。せいぜい頑張ってね」

なんと婚約者もいて、妊婦でもある姉を不躾に抱きしめた。

なんて汚い人間なの?

こんなのが公爵の息子?


それでも姉は何も言わない。

男が去った後、私をひと睨みしただけでどこかへ行ってしまった。

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