第6話 最低な人たち(シファ視点)

あれから私は方々に確認して回った。


姉とジキルとクレアが結託しているのは間違いない。

ラクスさんの推定死亡という事実と、領主代行の姉の権限を使ってラクスさんを本当に死亡扱いにして資産を婚約者だった姉に移していた。

しかも領主代行による死亡認定によって婚約は自動的に消え、その後正式に姉はジキルと婚約していた。


吐き気が消えない。

酷すぎる。



そもそも3年間もダンジョンの下層を探索し続けたラクスさんの資産はかなりのものだったはずだ。

中層に週に1回潜るだけで十分に生活していけるのだ。


それが下層……。

しかもラクスさんは"閃光"による月1回の下層探索に加えて、他の冒険者を鍛えるために彼らを率いても探索していた。

ほぼ毎日のように。


その資産をどこにやったんだろう。


気になった私は領主の娘という立場を利用して調べたが、行先は不明。


資産の相続先が姉だったこと、いくつかのアイテムがクレアに渡ったことはわかるけど、それ以外の情報がない。

それに調べていてさらにおかしな点に気付いてしまった。


姉の資産の記録がないのだ。


姉にはずっと領主の娘として毎年予算がついていたし、領主代行としての仕事の一部には給金が出ていたはず。

それなのになにも記録が残っていない。


さらにラクスさんの資産を相続したはずなのに、それも記録に残っていない。

当然ながらそれらの資産が今どうなっているのかも記録に残っていない。


どういうことなの?


これ以上姉の資産を追いかけられなくなった私は、今度はギルドに預けられていたラクスさんの資産がどうなったのかを調べることにした。


そもそもラクスさんの資産として何があったんだろうと。


幸い私はギルド職員だ。

領主の娘でもある私には通常の職員よりも広い権限があった。

それを利用して過去の資料を収めた書庫を探る。



そこに記録されていたラクスさんの推定死亡時の資産は凄まじかった。

金貨にして1,000枚。死ぬまで遊んで暮らせそうなほどあった。


これでも、この街に来て以降のものだけのはずなのに。


どうしたらそんなに貯まるのかと思って内訳を調べたが、これはそんなに複雑ではなかった。


まず、下層の探索は1回で金貨100枚近い資産を得られるようだった。一部の有用なアイテムは残した上で。


これはほとんど潜れる人がいないことと、そこでドロップするアイテムの価値が高いことが主な理由だ。


下層のドロップ品のほとんどはギルドが買い取り、周囲の貴族たち、場合によっては王族に売却されていた。倍以上の価格で。

まぁ、ギルドが儲ける仕組みの調査ではないのでそれは置いておく。


大事なことは、一回で金貨100枚得たとして、それをなんと5つに割って、1つはパーティー資産に、残りはメンバーで分けていたらしい。

2年半の間の100回にわたる探索で、金貨2,000枚を得た計算になる。



それから中層でも1回で金貨数枚分は得られる。

これが3年間でなんと800回とかいう信じられない回数になっていた。

にもかかわらず、ラクスさんはここから収入を得ていなかった。

全て参加した冒険者の取り分にしていたのだ。


唯一、換金性の低いアイテムだけは貰い受けていたようだが。


つまり、合計収入は多少の誤差はあったとしても金貨2,000枚ね。

日々の生活費として金貨数枚は使ってたみたいだけど、誤差みたいなものね。そもそも豪遊するような人じゃないし、装備品は売却しなかったドロップ品で固めていた。リオフェンダール子爵家は復興を理由にパーティーを催したりもしなかったから、大金を使うことはなかったんだろう。




次は支出側を調べた。


姉が相続した金貨はさっきも話した通り約1,000枚。

では、残った1,000枚はどこに行った?


 

その行方はすぐに分かった。


驚いたことに、ラクスさんは金貨1,000枚を拠出してギルド内に基金を作っていたのだ。目的は冒険者の支援ね。


ダンジョンのモンスターは討伐されないとどんどん貯まっていく。そしてある一定以上貯まってしまうとスタンピードが起きてしまう。

 

だから冒険者にモンスターを間引いてもらわないといけないが、それには命の危険が伴う。もし冒険者に何かあれば本人だけじゃなく、その家族も困ってしまう。その冒険者の収入によって暮らしているようなものは、突然収入を失うのだ。


ラクスさんの基金は、モンスター自体の討伐報酬と、もし冒険者に何かあった場合に遺族に年金を支払うために使われていた。合計で金貨500枚。


私はラクスさんの素晴らしさに感嘆するとともに、こんな人を追い出したのかと青くなる。



姉は知っていたのだろうか?


知っていたでしょうね。

だから予算を減らしたのよ。



本来、モンスターの討伐報酬は街が出すもの。

それがこの3年間一度も使われていなかった。


ラクスさんはその報酬を上乗せするために基金を作ってお金を出していたのに、街の支出が0になってラクスさんの基金からしかお金が出ないようになっていた。これじゃあマイナスじゃない。


書庫にある帳簿だとわかりづらいが、ギルド長の部屋にある書類と合わせてみれば一目瞭然だった。


間違いなく悪辣な不正よ。

なんと言っても街の収支上はモンスターの討伐報酬は出していたのだから。


そのお金がどこかに消えたことになる。


経理を担当していたのは姉だ。



そしてこの基金はラクスさんの推定死亡認定によって解散している。基金に残っていた500枚もの金貨は、忽然と消えていた。


あえて姉が相続しなかったということはギルドに残っている。

ギルド長が盗ったとしか思えない。

きっと口封じ。いや、協力費か。



最低な人たちだ。


ラクスさんの善意を何だと思っているの?



開いた口がふさがらないとは、今の私のような状態のことを言うんだろう。





でも、何か引っかかる。



なんのためにこんなに大金を姉は集めたの?



そしてなぜ最近になってモンスターの討伐報酬を元に戻したの?



ラクスさんが生きていることは当然知らなかったはず。



なのになぜ?



きっとまだ知らないことがある。

まだ調べないと。




そう思っていた私のところにも大きな声が聞こえて来た。



「大変です!スタンピードです!」




それは嫌な記憶を呼び覚ます言葉だった。

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