第4話 最低な姉(シファ(=元婚約者の妹)視点)

「お姉ちゃん、どういうこと?」

「どうしたの、シファ?」

私はラクスさんを追放したお姉ちゃんが許せなかった。


ラクスさんが去った後、私は冒険者ギルドに行って確認した。

ラクスさんに対して、お姉ちゃんやジキルがやったことを。


推定死亡に対してパーティの権利を次のリーダーに移すのは仕方ない。

もし実際に行方不明のままだったら生き残ったパーティーの活動を妨げてしまうから仕方なくできた制度だ。

 

聞いただけで怒りが湧いて来るけど、既にジキルをリーダーとして活動しているから、その名義を正式に移すだけ。


でも、自動的に婚約破棄になんかならないし、市民権を奪うなんて言語道断だし、そもそもラクスさんの個人資産をどこにやったのよ?

しかもジキルの子を妊娠ですって?


嫌悪感と吐き気しか感じない。


「ラクスさんのことよ! どうして追放したの? それにジキルとの子供なんて!?」


ジキルは"閃光"が昔、討伐した盗賊団で雑用をさせられていた男だったと聞いたことがある。

盗賊団は人攫いをやっていたらしく、壊滅させた後、引き取り手がある者たちは全員引き渡したらしい。

それでもジキルだけは親類もおらず、本人が着いて行きたがり、またシーフだから役に立つかと思ってパーティーに引き入れたって言ってた。

それなのに裏切った。


「あなたにはわからないわ。大人にはいろいろあるのよ」

「子供扱いしないで!」

そんな私の質問を流そうとするお姉ちゃんが大嫌い。

昔からそう。

私の方がラクスさんのこと好きだったのに、それを知りながら奪っていった。


街の将来を守るため、なんていう建前の元に。

それなら私でもいいじゃない。そう思っても、私はスタンピードで怪我をした女の子として扱われ、まるでお人形のように屋敷にかくまわれてしまった。


ラクスさんもこの街で得た名声と役割に前向きに向き合っていたから私は諦めた。

せめて近くで見ていられたらいいと思って、冒険者を支援できるようになるためにギルドで働くようになった。


それなのに、お姉ちゃんはそんなラクスさんを裏切った。そもそも今子供ができているなんて、ラクスさんとの婚約中にやったってことでしょ?

最低の浮気じゃない!



「もういいでしょ? 終わったことを蒸し返さないで。出て行ったんでしょ? 終わりよ、それで」

余りにも身勝手な言い分に呆然としてしまう。

一方的にラクスさんを傷つけて。


なにかラクスさんに恨みでもあるの?


3年間も私たちを守ってくれたラクスさんに?


私は思わずラクスさんがくれたお守りを握りしめた。



「それ、ラクスが持っていたお守りね?」

「……」

私は無言で姉を睨みつける。


「なにか言いなさいよ。そうなんでしょ?だったらよこしなさい。彼の資産は全て私に移すことに決まっているのよ」

 

パシ――――ン!!!!


 


私は思いっきり姉をひっぱたいた。


「なによ。気がすむなら叩けばいいわ。どうせ回復するしね。クレアお願い」

「は~い」

姉は何の感情も籠っていない表情でそう告げる。


 

そこに立っているのはもう私の知っているお姉ちゃんじゃなかった。



「クレアさんは見ていたんじゃないの? ラクスさんが落ちていくところを」

話しにならない姉との会話を諦めた私は、姉に従っている"閃光"メンバーの魔法使いであるクレアに尋ねる。


「私の立ち位置は知っているでしょ? 魔法使いなの。後方から着いて歩いていたけど、薄暗いダンジョンの中で前で何かあっても細かいところは見えないわ」

だが、クレアは私の問いに答える気はないようだ。


つまらなそうにネックレスを弄りながら適当な言葉を発するだけ。




そのネックレス……ラクスさんのものだったわよね……。

私を助けてくれた時に身につけていた。

確か"魔力回復効果"がついた魔法アイテムだったはず。


複数の魔法アイテムを身につけると効果が得られない場合があるからって、ギルドの保管庫に預けていたはずだ。

もっと効果が高いアイテムをゲットしたからいらなくなったんだけど欲しいかって聞かれて、断ったんだから。

本当は凄く欲しかったけど、冒険者でもない私にはどう考えても分不相応だったから断ったのよ。



信じられない。


この女は……姉もか。

ジキルも……。

みんなグルなのだ。


降って湧いた状況を利用して、ラクスさんの全てを奪い去ったんだ。


ラクスさんは外国出身で各地を旅してまわっていた冒険者だ。

たしか隣国に親戚がいるって言ってたわ。


本当なら、資産は全てその親戚のもののはず。いや、死んでなかったんだから全てラクスさんのもの。

それを法律を利用して……領主代行の権限まで使って奪い取った。






許せない……。




もう誰も信じられなくなった私は、静かに部屋に戻った。


どうせ姉もクレアも私のことなんて興味を持っていなくて、出て行く私のことを見ようともしなかったわ。

お守りを握りしめながら涙を流す私のことなんか……。

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