第2話 街からの逃走

とぼとぼと街の門を目指して歩いていく俺は昔のことを思い出していた。



***


この街にはダンジョンがある。

いや、ダンジョンがあるからこの街ができた。


ダンジョンの中にはたくさんのモンスターがいる。

倒すとドロップアイテムという報酬が貰える一方で、モンスターを倒す冒険者は常に命がけだ。


ドロップアイテムを流通させ、冒険者を支援するには一定の人が必要だ。

そして人が増えれば様々な産業が沸き起こる。

自然とダンジョンの周りには街ができやすくなるんだ。


それにダンジョンからモンスターが出てくることがある。

数体なら周囲の冒険者が倒して終わりだ。

だが、何百体、何千体と出てきたら厳しい状況に陥る。

街ごと破壊されるような例もある。

いわゆるスタンピードだ。


かつては発生理由がわからず、対策に四苦八苦していた時代がある。

今でもたまに発生する。

でも、本来は定期的に冒険者がダンジョン探索して中のモンスターを駆除していれば起こらないということは、今や常識なんだ。

だから街は一定数の冒険者を確保するし、優秀な冒険者は囲われる。


俺たち"閃光"は3年前に発生したスタンピードの際にちょうどこの街に護衛任務で来ていた。

酷いスタンピードで、多くの民が死んだし、領主様の奥さんや後継者だった長男も亡くなったらしい。


そのスタンピードのボスとなっていたオークキングを倒したのが俺だ。



それ以降、領主に請われてこの街に留まり、定期的にダンジョンに挑んでモンスターの間引きをしてきた。

領主の娘であり、妻と息子を失って気落ちして寝たきりのようになってしまった領主の代行をしているエランダと婚約もした。

自分がいずれ領主になると考えてギルドの運営などにも口を出したし、衛兵の訓練なども行った。

エランダが内政も外交も担えたため、俺の役割は主にダンジョンの方を向いていたんだ。


そして半年ちょっと前。

俺たちはいつものようにダンジョンに入り、上層、中層、下層と探索していった。

そこであのクズ……盗賊シーフのジキルが罠を踏み抜きやがったんだ。


崩れていく地面。

周囲から飛んで来る槍や魔法。


一瞬で陣形は崩れた。


後方を進んでいたクレアが罠の範囲に入っていないことを確認した俺は落ちかけているジキルと魔法で入れ替わって穴に落ちた。

落ちていくときに俺と入れ替わったジキルを騎士として盾と魔法でミシェールが庇っているのも見た。

間違いなくな。



それなのに、この仕打ち……。

酷すぎないか?



***



「待て!」


ぼーっと歩いていた俺に声をかけてきたのは衛兵たちだ。

以前鍛えてやったやつも混じっているな。


先頭に立っているのはライラか。

積極的に俺の訓練に参加していて、筋は良かったのを覚えている。

しかし一方で訓練後に身を寄せて来たり、頻繁に食事に誘ってくるのには辟易とした。

その様子を見るとエランダの機嫌が悪くなるから。


「なんだよ」

「"閃光"のリーダーであるジキル様に暴力を振るった容疑で貴様を拘束する」

「へぇ。クズの肩を持つのか?」

 

意識してなかったからさっき誰がいたかなんて覚えてないが、言い方からするとさっきはギルドにいなかったんだろうな。

 

「クズは貴様だ。罠にかかって窮地に陥ったパーティーを無事に生還させ、立て直したジキル様に殴りかかるとは。見損なったぞ!」


そして、この分では会話は成立しないだろうな。

俺に対してやったのと同じように、クソ野郎にも迫ったんだろう。

もう愛人か何かなのかもしれないな。

どうでもいいけど。


「お前たちに俺が捕まえられると?」


しかしたかだか10人くらいで挑んでくるとは、正気なんだろうか?

以前の訓練でももっと大勢を相手にしてたんだぞ?


「地に落ちた貴様など、我々で十分だ。この半年間、ジキル様とクレアさんの指導の下で訓練に励んできたのだからな! 大人しく縄につけ!!」


ライラの言葉が終わると衛兵たちが剣を抜いて斬りかかってくる。


めんどくさ……。


正直な感想はこれだ。


ここでどれだけ俺の潔白を話したってどうせ無駄だ。

でも、捕まると言う選択肢もない。


そもそも出て行けって言われたよな?


衛兵たちの剣なんか、深層のモンスターの吐息を避けるよりも簡単にいなせる。

そもそもこいつらは前回のスタンピードで何の役にも立たなかったやつらだ。


あまりの役の立たなさから気落ちした領主様にすら心配されて、訓練してほしいと頼まれたくらいだ。

オークキングどころか、オークにすら負けるレベル。


それがどれだけ訓練したとしても、実際にダンジョンに入ることもなく、実戦経験はほぼない。


できる限り手加減をし、慎重に魔力を使わないようにしながら、全員の剣を手刀で地面に叩き付けた。


「くっ……貴様」


あっ、ついライラだけ剣じゃなくて腕に手刀を叩きこんでしまった。


おかしな方に曲がった腕を庇いながらライラが睨みつけてくる。



「無理なのがわかったか? じゃあな」


そもそも興味はないので彼らをその場に残して俺は再び街の門に向かって歩き出した。


暴行罪とか言われても面倒だから、一応ライラの腕には回復魔法をかけといたけどな。



それにしても嫌な奴しかいないなこの街は。

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