第2話 サプリリングとメントメモリ

 少しレトロな雰囲気の醸し出す商店街、その中にひとつの喫茶店がある。 そこのドアを開け、心地よいベルの音が鳴り、店内に響くとそれを聞きつけた一人の女性が私を出迎える。 その女性は紫色の長髪で鋭い眼つきをした美しい人だ。 私は彼女に笑顔を向ける。 しかし、彼女は私だと認識すると、大きな溜息を吐いた。


「今日は『どっち』?」


 女性は怪訝な顔で私に聞き、私は実際は被っていませんが、帽子の鍔を掴む様な仕草をする。 それを確認した女性はお店の端の席に行くように目で合図をする。 その合図に従い、席に座るとすぐにお冷を持ってきてくれた。


「今日も悪いですね。 スミレ」


 この女性は村咲菫むらさきすみれ、家族でこの喫茶店を経営する一人娘で私の幼馴染の1人です。


「そう思うならくるんじゃないわよ」


 私の言葉にスミレは溜息を吐き返す。


「そうしたいのですが、トウマくんにも調査に出てもらってるので、お茶を出せる人がいなくて」

「お茶ぐらい自分で出しなさいよ」

「自分で淹れるより、ここの方が美味しいじゃないですか」


 お店としては喜ばしい言葉なので、スミレは少し複雑そうな顔をする。


 すると、入り口のベルが再度鳴り、店内に腰に刀を掛けた黒髪の男性が入ってきた。 どう見ても不審者に見えるかも知れませんが、あの掛けている刀は彼が仕事で使う武器(魔道具)なので問題ありません。 それと、私の待っていた人物です。 


 彼を出迎えるついでに私に注文を聞いてきたスミレに注文を伝えると男性の方に向かう。


「いつものでいいですか?」

「ああ、構わん」


 そんな会話の後にスミレは彼に私の場所を目で伝え、軽く会釈すると厨房に入っていった。 そして、男性は私の座る席の向かいに腰かける。



 この人は黒崎誠くろさきまことさん、警察の魔法取締り科の刑事さんでお互いに事件などの情報を交換し合う、云わば、仕事のパートナーみたいなものです。


「こんにちは、黒崎さん」

「ああ」


 私が挨拶をすると、彼は一言返し、早速、手に持っていた封筒を渡してきた。 私はそれを静かに受け取ると中に入っていた数枚の写真と書類に目を通す。


 写真と書類には、数種類の『腕輪とメモリ』が写っていた。 腕輪はアクセサリーの様なリング状のものとバングルなど様々な種類があり。 メモリの方は、USBメモリやチップなどがあった。


「それが『サプリリング』と『メントメモリ』だ」


 真剣に書類を確認している私に黒崎さんが言い、書類から目を離すと淡々と説明していく。


「名称はあくまで【仮】だが、『被験者』達が『購入』する際に言われた名称らしい」

「『被験者』ですか?」


 変わった言い回しに聞き返すと、黒崎さんは頷き答える。


「ああ、こいつらは被害者でもあり犯罪者でもある、だから、敢えて、その魔道具の実験に使われたという程で話している」

「成程、これを悪事に使いはしたが、それを売りさばく悪の権化がいると」


 私は火保さんの話と当てはめながら写真をもう一度確認する。 確か彼女は『一つのリングと複数のUSBメモリ』を彼氏が購入したと語っていました。 なので、この『二つのアイテム』で間違いないだろう。


「それにしても思っていた以上に情報が集まっているんですね」

「なんだ? 突然『腕輪とUSBメモリの魔道具の情報を寄越せ』と連絡してきた癖に当てにしてなかったのか?」

「いえ、別にそういう訳では、思っていたより『事件数が多いい』のに驚いているんですよ」


 言葉を訂正しながら種類を確認すると、ここ数か月でかなりの件数『この二つのアイテム絡み』だった。 私の言葉の意味を理解してくれたのか、黒崎さんはここ数か月の事件について説明をしてくれた。


 黒崎さんの話によると、はじめは警察達がとある強盗事件の犯人を捕らえ様としたところその犯人が手に着けていた腕輪にメモリを差し込み、その瞬間から凄まじいスピードとパワーで周りの警察達を薙ぎ払っていき、そのまま逃亡されるかと思いきや突然苦しみだして倒れ、そこをなんとか確保できたらしいです。 その事件は無事解決したが、その後、似たような暴行事件が多発して、何とか抑えて確保することができたものもいれば、逃亡したものもいるらしいです。 そして、確保した人達からできるだけ情報を引き出したのが今の状況らしいです。


「このリングを着けて、腕輪にメモリを差して直接魔力をカラダに流し込むことで普段は使えない魔法やいつも以上の身体強化ができるんだ」

「私達の常識での範囲の何倍程ですか?」

「まだサンプルは少ないが、捕えた奴のカラダの魔力量から考えると少なく見積もって『十数倍』ってところだな」

「!?」


 思っていたよりも大きな数字に私は戦慄する。 良くて二倍か三倍程だと思っていたので驚きを隠せない何故なら……。


「いきなりそんなキャパシティを広げてしまったら、『カラダが壊れますよ』」

「そうだな。 だが、使った本人達はそのチカラをまた使いたくて『禁断症状』が酷いらしい」

「所謂、『麻薬』の様なものと」

「ああ、その認識で間違いない」


 『麻薬』、正直そんな言葉は使いたくなかったが、情報を仕入れる程、それ以外の言葉が思い付かない。 サプリなんて生易しいものではない。    

 

「それが近頃裏で流行ってるってことですね」

「俺達からしたら流行ってたまるかだがな」

「ごもっともです」


 黒崎さんは大きな溜息を吐き、会話の途中できていたコーヒーを口にする。 私もアップルティーを味わう。


「それに奥さんが知ったら相当ショックでしょうね。 やはり黙っている感じですか?」


 彼の奥さんは魔道具の開発などをしている発明家で私の数個上の年齢の友人です。 その彼女は魔道具を人々の生活に役立てるをモットーにして、自分の仕事に誇りを持っているので魔道具が犯罪に使われてるなんて知ったら相当ショックを受けるだろう。


「いや、アイツにはしっかり伝えてあるぞ」

「え?」


 黒崎さんの意外な言葉に私は目を見開いて驚く。


「大丈夫だったんですか?」

「勿論はじめは、めちゃくちゃ怒ってたが、自分も手を貸すから俺も何とかしろってキレてきやがった」 

「まあ、彼女らしいですね」

「ああ、アイツの手もあってだが、この道具を使った奴ら数人を確保したのち、この情報を手に入れることができた」

「つまりは感謝していると?」

「…………」


 私の言葉に黒崎さんはコーヒーを口にしながら何も言わない。


「彼女には感謝の言葉は伝えましたか?」

「…………」

「そんなんじゃいつか愛想つかされちゃいますよ」


 そんな彼の反応に私は何故か無意識に溜息が出た。


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マルッと解決! 丸内林檎の色彩(カラフル)事件簿 ~魔焼の腕輪と噴厄の記憶~ たぬきち @tanukitikaramemo

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