マルッと解決! 丸内林檎の色彩(カラフル)事件簿 ~魔焼の腕輪と噴厄の記憶~

たぬきち

第1色 彼を捕まえて?

 ここはレトロな雰囲気を醸し出す商店街、その中に店を構えるひとつの八百屋があった。 その八百屋の二階にひとつの探偵事務所があり、その事務所の中でカタカタとタイピング音が響き渡る。 少し広めの部屋の奥で机に座る一人の女性がPCの画面に静かに目を向けキーボードを素早く叩く。 そんな彼女を空中で寝転がり暇そうにしている男性が見ていた。 ----


「ねえ、マルちゃん、ひま」


 静かな雰囲気には似つかない呑気な声が私に向けられ、男性が欠伸をしながらいう。


「暇なのはいいことです。 ですが、見ての通り私は暇ではありません。 というか、アナタはまず仕事をしてください。 クビにしますよ」


 私は画面から目を離さず冷静に返す。


 私の名前は丸内林檎まるうちりんご、僭越ながらこの事務所の所長を務めさせてもらってます。 そして、空中で寝転がり暇そうにしているこの男は野和健のわたけるくん、この事務所の社員なのだが、所長の私を差し置いてすっかり寛いでいる。


「えーそんなこといってーそんな気ないくせにー、そんなこといったらアランなんて紅茶淹れて事務所の掃除してるだけじゃないかー」

「十分仕事してるじゃないですか、それにトウマ君が事務所の雑用をしてくれるからこそ私が今こうやって事務作業に集中出来てるんですよ」


 私の幼馴染である、荒谷橙真あらたにとうまくんは事務所の掃除や管理などをしてくれている。


「掃除ってそのくらいボクにだってできるよー、だけど、ボクには大事な仕事があるからねー」

「一応聞いておきましょうか」

「マルちゃんを見守るって仕事があるんだ」

「その労力を他に回してください」

「ボクは現場仕事派だからね」

「だったら、外に出てボランティア活動でもしてきてください」

「えーめんどくさいなー」


 ノワルの言葉に私は溜息を吐くと、画面から目を離し、トウマ君の方に目を向けると彼も苦笑いしていた。


 ピンポーン♪


 すると、タイミングでも見計らった様に事務所のインターホンが鳴り、トウマ君が掃除道具を壁に掛けるとドアに向かい開ける。


「はい」


 ドアを開けるとひとりの女性が立っていた。 トウマ君はその女性を事務所の中に促すと客間の席に座らせる。 私も向かいの席に座る。


「こんにちは、本日はどの様なご用件で?」


 私が聞くと、女性は神妙な面持ちでこちらを見ると口を開く。


「私の彼氏を『捕まえて』ください」






 依頼者の名前は火保涙かほるいさん、お仕事は服のデザイナーをしているそうです。 そんな彼女からの依頼は彼氏の『逮捕』だそうです。 


「成程、依頼の内容は理解しました。 ですが、何故彼氏さんの逮捕を私達に?」


 私が素朴な疑問をすると、彼女は少し顔を下に向け、暗い顔になり答える。


「警察も魔導警察もどこも相手にしてくれませんでした。 ですが、ここなら色んな依頼、『魔道具犯罪』に関しての依頼を受け付けていると噂を聞いて」

「!?」


 『魔道具犯罪』というワードに私を含め、隣のトウマ君も目を見開いて驚く。 そんな私達の反応を見た火保さんは話を続ける。


「最近話題のニュース知ってますよね? いろいろな繊維会社が黒焦げにされたり溶かされてるっていうのを」

「ええ、存じております。 凄惨な現場になっていると」


 私は話しながらトウマ君に目で合図をすると、トウマ君は机の引き出しからタブレットを出して渡してくれる。


「その犯人が私の彼氏の『繊乃網喜せんだいあみき』なんです」


 彼女の話を聞きながら、事件について調べ、目を通す。


 事件の内容は、数週間前から多発している繊維会社や服屋などを狙った連続放火事件。 現場の燃え方や被害に合っているモノが酷似しているので、同じ犯人で燃えやすい繊維を狙った犯行だと推測される。 


「この事件の犯人がナゼ彼氏さんだと断言できるんですか?」

「それは……」


 私の質問に彼女は静かに答える。


 彼女の話によると、彼氏の繊乃せんだいさんは火保さんと同じく衣類関係の仕事をしていたのだが、数か月前、上司のミスを押し付けられその責任として仕事をクビになってしまったらしいです。 その後、彼は荒れに荒れ、衰弱していき、そんな彼を不憫に思った彼女は彼を連れてデートをしており、そこに突然、黒スーツの人物に話しかけられ、その人物は持っていたキャリーケースから『一つのリングと複数のUSBメモリ』買う様に促してきたそうです。 勿論、火保さんはそんな怪しいモノ買う訳ないと断ったが、繊乃さんは彼女の言葉に耳を貸さずそれを購入してしまったみたいです。 それこそが、『魔道具』でそのチカラで自分を陥れた人物達の会社などを焼いていき、彼女はそんな彼を何度も止めたが聞く耳を持たず、数週間前に繊乃さんは彼女の前から姿を消し、事件が収まることがなかったのでここに依頼にきたそうです。


「成程、依頼の理由は理解できました」

「なら、受けて頂けますか」


 彼女は前のめりになりいう。 そんな彼女に私はひとつ質問をする。


「因みにですが、ナニか他に『隠してる』ことはありますか?」

「え?」


 私の言葉に彼女は固まり、『右手の手首に置いていた左手を握る様な仕草をし、一瞬、右上に目線を逸らした』が、直ぐに私に目線を戻す。


「それはどういうことでしょうか?」


 訝し気にいう彼女に私は冷静に答える。


「別に疑ってるとかではなく、いえ、そう捉えて頂いても構いません。 あくまで私の言葉の意味はシンプルに『依頼内容の確認』です」

「依頼内容の確認?」


 少し首を傾げる彼女に私は続ける。


「はい、嘘や隠し事があるのなら、それはそれで別に構いません。 言いたくないこともありますからね。 ですが、依頼主が探偵に依頼するには探偵を『信頼する』事だと私は思っています。 逆も然りです。 探偵は依頼主からの『依頼、情報を信頼して捜査する』ということです」


 私の言葉に少し考える素振りをすると、直ぐに口を開く。


「隠し事はありません、私は『彼を止めて欲しい』という一心で探偵さんを『信頼して依頼をしにきました』」


 彼女は真っ直ぐにこちらに目線を向ける。


「分かりました。 では、依頼を受けましょう、私も依頼主を『信頼して』」


 私は笑顔を向け答える。 その後、数分程情報提供をして頂き、彼女は事務所を後にした。


「………………」


 私はタブレットをスライドさせながら、事件の資料に再度目を通す。 そんな私にノワルが空中で欠伸をしながら聞く。


「で、どうするのマルちゃん?」

「え? どうするって?」


 ノワルの言葉にトウマ君は首を傾げる。 


「あのおねえさん、多分、『嘘ついてる』よ」

「そうですね」

「え!?」


 画面をスライドさせながらノワルの言葉に冷静に返すと、隣でトウマ君の驚いた声が聞こえる。


「まあ、『嘘』というより、彼女はナニか『隠して』ますね」

「そうなの!? 『隠し事してるって気づいてる』のに、なんで依頼を受けたの!?」


 画面から目を離さずにいう私にトウマ君は理解できないといった感じだ。


「依頼人が『依頼をしにきた』 それだけです。 それ以上でもそれ以下でもありません」


 とてもシンプルな言葉にトウマ君は静かに驚く。


「まあ、あくまで私は依頼を受けるだけです。 彼女がナニを隠していようが、私には関係ありません」

「ひゅー! つーめたーい!」

「ちょ、ノワル」


 トウマ君はノワルの発言を注意するが、私は気にせず、画面を見ながら答える。


「ええ、そうですね。 別に探偵は正義の味方ではありません。 なので、依頼された、『彼氏を捕まえる』『だけ』です」


 タブレットを確認し終え、それを机に置くと立ち上がる。


「では、早速ですが、ノワル」

「ほいきたドンドン!」


 私が声を掛けると、ノワルは待ってましたとばかりに空中で立ち上がる。


「空中から事件現場の周辺捜査をお願いします。 それと写真館に行って現像とついでにフィルムの在庫も確保してきてください」

「おーけい」


 指示を出しながら、ロッカーのドアを開け、その中にあるカメラをノワルに投げ渡す。


「トウマ君は周辺の聞き込みと彼氏の情報収集をお願いします」

「うん、わかったよ」

「私は数か所連絡を入れてから行動します」

 

 二人は頷くと、事務所を出て行った。


 私はそれを確認すると、受話器を取り、ダイアルを回す。 


 プーーーー プーーーー  ガチャ 【ーーーーーッ】

 

 暫く待つと受話器の向こうから声が聞こえる。


「お世話になっております。 丸内探偵事務所です。 早速で申し訳ありませんがお願いが」


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