気付け薬

Hugo Kirara3500

ゾンビドリンク

 いとこのサンディーを亡くしてはや三年以上たってしまった。でも彼女は今目の前にいるよ。幽霊ではないですよ。ちゃんとアクリルケースの中に寝かせているのよ。中学の時の同級生・ハンナが葬儀屋に勤めていて、彼女に頼み込んで濃い薬を使ってもらって。そして時間があるときはいろんなことを話しかけているよ。


 そしてネットで怪しげなサイトを好奇心で見つけてしまって「ゾンビドリンク」なるものを手に入れてしまったのよ。もうすぐ彼女の誕生日だから飲ませてみるか。聞きたいことも色々あったし。というわけで彼女を担ぎ上げてケースから出して持ち込んだロッキングチェアに座らせて。そして口を開けてのどにこれでもかと詰められた綿を取って、いよいよコップに開けたその「ゾンビドリンク」を口の中に注ぎ込んで。


 待つこと数十分。彼女は突然起きだしたんだよ。私はすぐに「サンディー」と叫んで抱きしめたんだよ。そして彼女は、「きみと何も話せなくて辛かったよぉ、ヴィッキー」とあどけない笑顔で返してくれたよ。


 そして彼女と色んな話をした後、二人と誕生日パーティーをしたんだよ。今でもその時のことを思い出すとちょっと心が痛むんだよ。パーティーの終わり際に、彼女は、


「私を起こしてくれてありがとう。いつもはきみの話を聞いてばかりで返事できなかったけど、今日は思っていたこと全部話せてとても幸せ」


と言ってくれて思わず涙が出たよ。


 そしてドリンクの効き目が終わると、またぐったりして動かなくなってしまう。このシーンを見るたびに辛くならないかといえば嘘になるけどね。そして私は彼女がメモに残してあった通りに用意した服装に着替えさせるのよ。今回は爽やかな薄い青のワンピース。いま着ている服を全部脱がせた後、新しいショーツを履かせて、ブラをはめて、腕を上げて袖を通して、背中に手を回して腰のベルトを止めて。これが一仕事だけど、「気持ちいい苦労」ってやつかな。ハンナはこれを毎日のようにやっているのかと思うと本当に頭が上がらないよ。そしてまた彼女を担いでケースの中に寝かせた。そして私は彼女に


「おやすみ、サンディー」


と声をかけてそっとふたを閉じたよ。


 私にとっては、彼女にドリンクを飲ませてムクっと起き上がったときにに嬉しそうな表情で「ヴィッキー」と言ってくれる、それだけでもう涙溢れる思いになってしまうんです。


 安心して、サンディー。私はずっとあんたを見守っているよ。


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