悲報)勇者さん、ケチな王様のせいで50円で遣り繰りしなければならなくなった模様
出来立てホヤホヤの鯛焼き
第1話 王様からの餞別(所持金50)
「――よくぞ来たな、キンケツよ!
今日、貴様を召集したのは他でもない。貴様を勇者に任命する為である。勇者キンケツ、世界の為に全身全霊を以て魔王を倒して参れ!」
王城。その玉座にふんぞり返る一人の王、スティン王は、目の前で畏まっている少年にそう命じました。
そう――今日、世界に一人の勇者が任命されました。少年の名は、キンケツ。これから魔王を倒す為に過酷な旅に出ることとなる“勇者キンケツ”です。
「任命は終わった。では次。
――持って来るのじゃ。旅立つ勇者への餞別を」
王様は傍で立っている側近に、頑張る勇者への『餞別』を用意する様伝えました。
餞別とは、もちろんお金です。先立つものは金、という諺がある通り、お金がなければ装備も買えず、薬草といったアイテムも買えません。世の中は世知辛いのです。
勇者キンケツは、餞別を用意しようとする王様の側近を食い入るように見つめました。その姿は、お正月の朝にお年玉が渡されるのを今か今かと待ちわびる一人の子供のようでした。
勇者キンケツは期待します。
勇者として任命され、魔王という化け物を倒すという重要な旅。その餞別は、勇者キンケツが今までに見たことのない程の大金を渡されることになるに違いないと。
国で一番高い武器に、防具。勇者キンケツは、今から何を買おうかと、渡される前から心を弾ませます。
そして――――その時は訪れました。
側近が持ってきた袋を、王様は受け取ると、言葉と共にキンケツへと手渡しましたのです。
「勇者キンケツ、儂からの餞別である。これを使って装備を整えると良い」
勇者キンケツは首を傾げました。
――渡された袋は、“とてもとても”小さかったのです。キンケツは震える手で、受け取りました。
実際に手に取るとキンケツは唖然としました。
――軽い。なんて軽さだ!これでは親からのお小遣いを入れた袋の方が、まだ重かったぞ!
勇者キンケツは疑念を払うように首を横に何度も振りました。
そうです。中にあるお金が大きなお金ばかりである可能性もあるのです。
勇者キンケツは、袋を開くと。そっと中を覗き――膝から崩れ落ちました。
50マネー。
中にあったのは、50マネーでした。
『マネー』とは勇者キンケツ達がいる世界のお金の単位。
異なる世界のお金の単位である『円』と『マネー』は同じ価値でした。つまりは、50円です。
それが勇者キンケツへの王様からの餞別でした。
勇者キンケツは、餞別の袋の中身を何度も確かめました。ですが、裏返しにしてみたりと工夫しても、結果は同じです。
「あの……王様。何かの間違いでしょうか? この餞別の袋……50マネーしか入っておりません……!」
勇者キンケツは、王様に何かの間違いではないか? と思い、尋ねました。
「そうじゃ、餞別は50マネー。間違いでは無いぞ」
「そ、そんな!? これでは……何も買えません! 何故ですか!?」
王様からの返答で、キンケツは現実だと理解し、絶望。そんなキンケツに王様はトドメの一言を伝えました。
「若い内から苦労しなければ、立派な大人になれぬという話がある。魔王討伐も同じである。勇者も最初から苦労することで強き勇者となるのだ。――――期待しておるぞ」
「………………わァ…ぁ…」
勇者キンケツは涙を流し、泣いてしまいました。
餞別を渡される前までは、自分の住む国の王様ということで、敬意があった勇者キンケツの心も今はもう……。
王様は涙を流す勇者キンケツを見てみぬ振りをして、告げます。
「その餞別のお金
理由は先程話した通り。用意が済んだら、再び王城に来るのじゃ。仲間を一人紹介しよう」
勇者キンケツは、“仲間”という言葉に反応して王様の方を向きました。仲間が例えば、強い騎士であれば、キンケツ自身は何もしなくてもなんとかなると希望を見いだしたからです。
しかし、それも王様の後ろで、王様の二人いる子供の内の一人である王子が装備を着用して立っていたことで、スンっと心が静まりました。
勇者キンケツは何となく悟りました。仲間とは、王子だということを。王子はやたら嫌そうな顔をして、王様とキンケツを見ています。
王子様は頭がキレることで有名ですが、運動音痴という話も同じぐらい有名です。戦力としては期待出来ないでしょう。
これではキンケツはもちろん、王子も二人とも不幸です。
勇者キンケツは、意を決して王様に発言しました。
「王様。仲間は自由に選べるのでしょうか?」
「……ふむ。……どうしても連れて行きたい者でもいるのか? 王子を付けようと考えていたのだがな……良かろう。ただし王子以外なら、装備は50マネーで二人分を用意せよ。
儂が許可しよう。この王国内であれば騎士や兵士以外であれば、連れて行くと良い。勇者からの指名じゃ拒否は
王子を選ばなければ、武器。防具。アイテムを二人分用意しなければならなくなったことに勇者キンケツは悩みましたが……良い案も思い浮かんだので心を無理矢理納得させました。
「……分かりました。では、仲間については王城に戻った時に。僕は街で旅の準備をしてきます」
勇者キンケツは退室した後、王子を探し。
キンケツがまず向かった先は、武器屋です。
店内には温かい光が溢れ、壁には様々な武器や防具が所狭しと並んでいます。
キンケツは、安そうな商品を手にとってまわり、値札を確認していきましたが、まともな武器はどれも50マネーを越えていました。
木の棒なら10マネーで手に入れることが出来ますが、明らかに子供達が遊ぶ用のオモチャに過ぎない木の棒で何が出来るというのでしょう?
こんなものを買うぐらいなら、森で太い木の枝でも拾ってくれば代用出来ます。
勇者キンケツは肩を落とし、武器屋を後にしました。
勇者キンケツ。又の名を
――――――――――――――――――――――
武器屋を後にした勇者キンケツは一時間後、街の片隅で胡座をかいて座っていました。
手に持っているのは道具屋で10ゴールドで購入したロープです。
50ゴールドから10ゴールドを引き、残りは40ゴールド。5分の1を使った計算になります。
勇者キンケツは、悩んだ末に武器ではなく、ロープを購入したのでした。
勇者キンケツは、買えないのなら、作れば良いという結論に至ったのでした。作ったことは無いですが、木の棒よりかはマシな武器の筈です。
勇者キンケツは目の前に、二つの武器の部品となる物を置きました。
一つ目は、拳二個分程の大きさの石を拾いました。見つけるのには少し時間が掛かりましたが、キンケツも納得のいく、良い石です。
二つ目は、王城に植えられていた頑丈そうな木の枝。太い木でしたが、勇者としてのポテンシャルを遺憾なく発揮してへし折りました。
ロープの役目はまだ少し後です。
深呼吸をし、勇者キンケツは心を落ち着けると、厳選した石を他の石で打ちつけ始めました。
ガン、ガン、ガン。
ガリ。ガリ。ガリ。
石の形はどんどん変形していきます。
さて――勇者キンケツは一体何を作ろうとしているのでしょうか?
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