幼馴染の戦処女神

「な、なんと言う破廉恥な真似を!!」

「俺らでさえ肌に触れる事すら許されんのに!!」

「うらやま…いやけしからんッ!指導だ!!」


怒りの形相を浮かべる四葩八仙花よひらはっせんかの武装人器たち。

股を抑えて顔面を赤くする彼女は、彼らを制止する様な事を口には出さなかった。


ころされちまう…)


刻は心の中で断言した。

このまま、男子生徒に破壊され尽くされると。

しかし、その様な状況になる事は無かった。


「なにしてんの?」


刻は聞き覚えの声が耳に入った。

反対側の廊下から聴こえた為に、顔を其方へ向ける。

そして其処には、灰色の髪を二つに結んだ女子生徒が立っていた。


「あ…」


名前を口から出そうとした。

しかし刻は途中で遮った。

それは彼女とは知り合いである事を隠す為の行為である。

慣れ親しんだ口調で喋れば、彼女との関係性が露見してしまう。

そうすれば、自分はまだしも、彼女の品性が疑われてしまう。

だから、初対面のふりをするのだが。


「刻ちゃん、なにしてんのって、あたしが聞いてんだけど?」


不愉快そうに顔を歪ませながら、彼女…折紙千代姫おりがみちよひめが言う。

知り合いであるかの言い回しに刻は折角、他人のふりをしていたのに台無しだと頭を悩ませる。


「おい、こっちは知らんフリをしてるって言うのに…」


折紙千代姫は歩きながら、複数の男子生徒を連れていた。

そして、騒ぎの元凶である相手…四葩八仙花よひらはっせんかを睨み付ける。

学生服を着崩して着込む折紙千代姫は、高貴なお嬢様である四葩八仙花よひらはっせんかとは正反対な性格をしていた。


「で、なに?刻ちゃんに何しようとしてたん?言ってみなよ、四葩八仙花よひらはっせんか


目と鼻の先にまで近づく。

先程まで顔を赤くしていた四葩八仙花よひらはっせんかは咳払いをすると、真剣な顔を浮かべた。

折紙千代姫は鋭い視線を向けるが、高飛車な性格をしている四葩八仙花よひらはっせんかも負けじと近づく。

両者の視線が絡み合い、肥大化した胸部が押し潰されてしまう。


「貴方には関係のない事でしてよ?折紙千代姫さん、返答次第では、彼を買って上げても良いと思ってただけですもの」


「なに勝手に決めてんの?刻ちゃんはあたしの、なんだけど?」


(お前のモノじゃねぇよ…)


刻は脳内でうんざりとしながら呟く。

折紙千代姫は昔から、刻にべったりだった。

幼馴染として、大人になったら結婚をしようと約束する程に高感度が高く、その好感度が学生になった今でも維持されていた。

武装人器として、戦処女神として覚醒した後は、二人は別々の道を歩き始め、擦れ違い、避ける様になっていたのだが、最近は、折紙千代姫が近づいて来ていた。


「ならば契約をすれば良いではありませんか、なのにしないのは何故なのでしょう?」


痛い所を衝かれてしまい、折紙千代姫は声を詰まらせる。


「そんなの…あんたには関係ない、契約なんてしなくても、あたしと刻ちゃんは繋がってんの!」


だから、四葩八仙花よひらはっせんかが付け入る隙など無い。

自分達の関係の邪魔をするなと、折紙千代姫は後ろを振り向く。


「ねえ、そうだよね刻ちゃん、本当は、あたしに使われたいんでしょ!?」


そう言うが。

しかし、視線の先には誰も居ない。

二人が白熱している間に、刻はその場から消え失せていた。


「…あぁ、また逃げられた…んもぉッ!!」


苛立ち、声を荒げる折紙千代姫。

四葩八仙花よひらはっせんかも刻が居ない事に気が付くと、不毛な争いは止める様に踵を返す。


「兎に角…契約をしていないのならば、私が吟味をしても問題無いでしょう?口出しをするのならば、手が出る事を想定しておきなさいまし」


男子生徒が壁となり、すぐさま四葩八仙花よひらはっせんかの姿が消える。


「黙れ、あんたなんか、お呼びじゃない、刻ちゃんはずっと、私だけのものなんだから」


そう言って、刻を探す様に歩き出す。

四葩八仙花よひらはっせんかは、平然とした様子だったが。

刻から受けた歯車の振動を思い出し、湿り気の様なものを感じていた。


(あ、あんなもの…初めての経験でしてよ、むずむずして、仕方ありませんわ)


武器としては使えないが。

それでも、道具として使える可能性を考える四葩八仙花よひらはっせんかだった。

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