第14話 影森の試練
エルフリックたちは初めて学院の外へ足を踏み出し、静寂に包まれた試練の場所に立った。いつもの活気ある校庭とは打って変わり、前には荒涼とした岩山と鬱蒼とした森が広がっている。これから挑戦する試練の場だと教官から告げられ、冷たい風が吹き抜けるたびに緊張が走る。
「これが学院外か……ずいぶん荒れてるな。」
リオが周囲を見回し、呟いた。その言葉にエルフリックも頷き、気を引き締めた。
「気を抜くなよ。試練の内容はまだ明かされていないけど、油断したら命取りになる。」
カイルが鋭い目つきで前方を見つめる。その視線の先には、鬱蒼と茂る森が広がっていた。
試練の監督役を務める教官が空中から現れ、その声が場を支配した。
「これから与えられるのは、協力してこの森を抜けるという試練だ。ただし、森の奥には魔物や罠が潜んでいる。君たちの魔法や技術を駆使して切り抜けることだ。」
その言葉に、チームの面々は思わず互いの顔を見合わせた。
「よし、俺たちならやれる!」
リオが意気揚々と声を上げるが、カイルが冷静にたしなめた。
「勢いはいいが、慎重に行動しよう。この人数では無理をしたら全滅する。」
森の入り口に足を踏み入れると、濃い霧が周囲を包み込んだ。視界が悪くなる中、リオが先陣を切るように歩き出す。
「おい、待てよ!単独行動は危険だ!」
エルフリックが止める間もなく、リオの前方に突然、大きな魔物が現れた。それは地面から湧き出たかのような「影狼(えいろう)」だった。黒い体毛と赤い眼が光り、牙を剥いて襲いかかってきた。
リオがすぐさま反応し雷魔法を発動したが、焦りから狙いが外れ、影狼を一掃するには至らなかった。
「くそっ、こんなはずじゃ……!」
リオが悔しそうに歯ぎしりする。
「落ち着いて!」
シェルナが後方で仲間を回復させながら声をかけるが、全員を守りきれるほどの余裕はない。エルフリックは影魔法を駆使して周囲の状況を探ろうとしたが、魔物の数が多すぎて混乱を招くだけだった。
「影を通して敵の動きを追うのは限界がある……!」と呟く。
戦闘は長引き、全員が消耗していく中、アランの冷静な指示が状況を打開した。
「まずは1体ずつ確実に仕留めるんだ!広範囲攻撃は罠になる!」
その言葉に仲間たちが連携し、次第に戦況が好転していった。
全ての影狼を倒し終えたとき、メンバーは疲れ果てていたが、誰も脱落することなく試練を続けることを決意する。挫折感を抱きつつも、初めて本物の戦いを経験した彼らの心には、少しずつ「仲間を信じる」意識が芽生え始めていた。
その後、森の奥に進むと、彼らの前に巨大な石壁が立ちはだかった。壁には複雑な紋章が彫られており、それが魔法的な力を持つことを感じ取れる。
「どうする?力で壊すか?」
リオが提案するが、エルフリックが首を振る。
「いや、これは知恵を試される仕掛けだ。紋章を解読して突破する必要がある。」
エルフリックが地球で学んだ知識を頼りに紋章を観察し始めたが、その複雑さに苦戦する。
「こんなに難しいなんて……」
諦めかけたその時、シェルナが小さな声で言った。
「これ、光の魔法で反応するかもしれないわ。」
彼女が力を振り絞って光の魔法を放つと、紋章が輝き始めた。
「やった!これで次に進める!」
石壁を越えた彼らは一旦安全な場所で休息を取ることにした。試練はまだ終わっていないが、この短い休憩の中でエルフリックは仲間たちの顔を見渡し、改めて彼らの存在の大切さを感じた。
「俺たちはまだまだ未熟だ。でも、力を合わせればどんな壁でも乗り越えられる気がする。」
その言葉にリオも笑顔を見せた。
「確かにな。お前たちがいてくれてよかったよ。」
試練はまだ序盤に過ぎないが、彼らは絆を深めながら、目の前の道を進む覚悟を新たにした。そして森の奥へ進むたびに、影森がただの試練の舞台ではないことを彼らは感じ始めていた。木々には奇妙な紋様が刻まれ、道中で見つけた古びた石碑には、かつてこの地に住んでいた人々のものと思われる古代文字が刻まれていた。
「この森、ただの森じゃないな。」
カイルがつぶやくと、エルフリックも頷きながら続けた。
「昔、この場所で何か大きな出来事があったんじゃないか。木々の中に古い符号が隠されている。」
それはただの憶測に過ぎなかったが、エルフリックはその予感に従い、周囲の様子にさらに目を凝らした。どこかで不穏な気配が漂っていた。古びた石碑がいくつも並んでいるのを見つけた時、エルフリックの心が少し重くなった。石碑には、どこかの時代の言語で何かが刻まれているようだったが、それを解読するのは難しい。
「これも紋章の一部か?」
リオが興味深そうに近づくが、エルフリックはその場で立ち止まる。
「触れてはいけない。これには何かしらの仕掛けがある。」
その時、シェルナが足元に落ちた石片に目を留める。何かを感じ取ったように、その小さな石を拾い上げ、両手で握りしめた。
「この石片、どこかで見たことがある気がする。もしかしたら、昔の魔法が残っているのかもしれないわ。」
その言葉を聞いて、エルフリックは少し驚いた。シェルナは回復魔法に優れているだけでなく、直感も鋭いところがあった。彼女が持っていた石片は、古代の魔法の一部かもしれない。その予感を信じて、エルフリックはしばらくその石片をじっと見つめた。
「やはり、これは何かの鍵だ。」
エルフリックはその感覚を頼りに石碑を観察し始めた。おそらく、石碑に刻まれている文字は、何かしらの魔法的な意味を持っているだろう。しかし、その文字はもはや一般的な言語とは異なり、古代の呪文か何かの痕跡に過ぎないことがわかる。
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物語を読んでくださって、ありがとうございます!お楽しみいただけたでしょうか?キャラクターたちが成長していく過程や、絆が深まる瞬間に少しでも共感していただけたなら嬉しいです。これからも続きが気になる展開をお届けできるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!
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