第2話 新たな世界の風に触れて


目の前に広がる景色は、現実の世界では到底見ることのできないものだった。


澄み切った青空には二つの太陽が昇り、柔らかい金色の光が草原を包んでいる。木々は見たこともない形をしており、一本一本が異なる色の葉を揺らしていた。小川の水音が穏やかな風に混じり、耳に心地よく響いている。智紀は目を見張り、目の前の世界をじっと見つめた。


「……夢、だよな?」


足元の草はふかふかで、足を動かすたびに葉がそっと跳ね返してくる。空気は澄んでいて、肺に入るたび体が軽くなるような感覚さえある。全てが現実離れしていたが、どう見ても夢とは思えなかった。


「ふむ、その様子じゃまだ信じられないか」


先ほど智紀に話しかけてきた青年――鋭い目つきを持つその男は、草の上に腰を下ろし、智紀を見上げて微笑む。その目には、どこか余裕と遊び心が感じられた。


「この世界では、目で見たものを疑う必要はない。お前がいる場所はフィアンドル大陸。空に浮かぶあの二つの太陽は、こちらでは日常的な光景だ。ほら、触れてみろよ。お前が感じる全てが『本物』だとわかるだろう」


智紀は恐る恐る地面に手をついた。草の感触、土の柔らかさ、そして小川から吹いてくるひんやりした風――どれも現実そのものだった。


「……本当に、異世界なんだな」


ようやく呟いた智紀の声には、驚きと少しの興奮が混ざっていた。


「さて、転生者には特別な力が与えられるのが常だが、お前はどうだ?何か変わった感覚はないか?」


青年が興味深そうに聞いてくる。智紀は首を傾げ、手のひらをじっと見つめた。


「特に、何も感じないけど……」


「……はあ、そうか」


青年は額に手を当て、大げさに溜息をついた。「これだから素人は困る。転生者の力ってのは、意識しないと使えない場合が多いんだよ。まあいい、まずは簡単なテストをしてみよう。ほら、あの石に手をかざしてみろ」


智紀は指示された通り、近くに転がっていた手頃な大きさの石に手をかざした。心の中で何かが動く気がしたが、それ以上は何も起こらない。


「……何も起きないんだけど」


「いやいや、焦るな。力を使うには心を落ち着ける必要がある。そうだな……とりあえず『燃えろ』って念じてみろ」


「燃えろ、って……いや、それで本当に燃えるのか?」


「異世界ってのはそういうものだ。理屈を考えるな、まずは試してみろ」


智紀は眉をひそめながらも、言われた通りに「燃えろ」と心の中で強く念じた。しかし、石は無反応どころか、ただの石のままだった。


「うーん……やっぱり無理みたいだけど」


「……お前、本当に転生者か?」


青年は智紀をじっと見つめ、半分呆れたように頭をかきながら立ち上がる。


「まあいい、そんな簡単にいくはずがない。とりあえず歩きながら、少しずつこの世界のことを教えてやる」


青年の名前はカイルだと名乗った。彼はこの世界で「案内人」を務める役目を持ち、転生者を導くのが仕事らしい。とはいえ、どこか軽薄で、智紀が思い描いていた「頼れる師匠」とは程遠い印象だった。


「まずは近くの村に行こう。腹も減ってるだろうし、何か食わせてやる」


「え、いいの?……って、ちょっと待って。さっきから足が変な感触なんだけど――」


智紀が下を見て青ざめる。足元には、異様に大きな昆虫――全身が透き通るような光沢を持つ蟲が、いつの間にか這い寄っていた。


「う、うわあっ!」


智紀は慌てて跳び退るが、蟲は素早く動いて彼を追いかけてくる。


「おいおい、そんなに驚くなよ。ただの『ルミナリービートル』だ。あいつらは害虫じゃないから――って、ちょっ、マジで逃げるな!」


「無理だ!あんなでかい虫、見たことない!」


智紀は全速力で走り出したが、蟲はしつこくついてくる。後ろを振り返る余裕もなく、彼はそのまま勢いよく地面につんのめった。


「ぐはっ!」


顔から転び、地面に埋まるような形になった智紀を見て、カイルは腹を抱えて笑った。


「……まあ、最初はそんなもんだよ。これから慣れるさ」


その後、カイルの助けでなんとか蟲を追い払った智紀は、体中に泥をつけながらも歩き続けた。村への道中、彼はこの世界の「当たり前」に触れながら、少しずつ現実を受け入れていく。


「……何が待ってるんだろうな、この先」


遠くに見える小さな村を見ながら、智紀は呟いた。


「さあな。でも、期待しとけよ。退屈だけはしないはずだ」


カイルの言葉に、智紀は不安と期待の入り混じった表情を浮かべた。


異世界での第一歩は、泥と笑い声に包まれて――新たな冒険の幕が上がった。


―――――――――――――――


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

まだまだ未熟な部分もありますが、主人公が異世界でどんな冒険をしていくのか、少しでもワクワクしていただけたら嬉しいです。物語の世界観やキャラクターの成長を楽しみながら、次の話も書いていきたいと思っていますので、ぜひ見守っていただけたら幸いです!

これからも頑張って更新していきますので、よろしくお願いします!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る