第8話 一筋縄では行かない

洞窟の入り口付近に、人が集まっていた。中には武器を構えている人もいたのでモンスターが侵入してきたと思っていたのだろう


光が差し、洞窟に入ってくる探索メンバーに歓声が上がる。中には安心して座り込む人や、涙目になる人までいた。だが、洞窟の奥から鉄の香りがする


「急ぎましょう!無事の人たちはここで森を見ておいてください!」


入り口付近に集まった人たちへ指示を出し、高校生組と影浦は走り出す。


「…俺は残る。門番はいたほうがいいだろう」


「私も残ります、こっちの方が、仕事ができるはずですから…避難者のこと、お願いします!」


走り出した背中に声をかけて森に目を向ける。先ほどの爆音でここから離れたモンスターが戻ってきている。ここに染みついた血の香りに寄って来ているようだ。こちらを睨みつけるモンスターの視線がいくつも突き刺さる


「守り抜きましょう。そして全員で脱出!」


盾を地面に突き刺してからどっしりと構える


「あぁやろうか」


矢の本数を確認しながら森の動きに集中する。ゆっくりと猿のようなモンスターに標準を合わせて射る


「命中。うおっレベルが上がった」


「あと…15レベルですね!」


盾で近づいてきたモンスターの頭を叩き割る。あの様子なら手助けはいらないだろう。ここは俺が遠くから迫ってくるモンスターをやるべきだ


森に潜むモンスターを見つけるために目を凝らす。この崖はかなり高い、もちろん遠回りすれば森から出ずにここにたどり着くことはできるが…その間につぶせばいい


「くそっ流石に弱体化がされた視力だと、顔までは見えねぇな…」


「私には米粒にしか見えないんですけど」


「鍛えてるんでな!命中!」


洋弓を持つとアーチェリーの時の癖が出る。昔はよくうるさいと怒られていたのを思い出した。懐かしい記憶だ、それを守り抜くために俺は戦っているんだ。尚更近づける訳には行かないな。


「ほらほら近づいてきたぞ、盾を構えて!」


「はい!攻撃はお願いします!」


後ろも見ずに任せてくる重友さんに苦笑いがこぼれる。期待には答えないとな…お?噂をすればだ、前に3匹、奥から殺そう


「任せてくださいな…3連命中!」


「さすがです!あと何匹ですか」


「だいたい…20匹かな」


盾を構えたまま口を大きく開けて青ざめていた。分かりやすく絶望を表現していて思わず笑ってしまった


「な、なんで笑うんですか!」


器用にもモンスターを盾で地面に叩きつけながら真っ赤になった顔で叫んできた。クククと堪えきれなかった笑いを漏らしながら次の的をねらう


「なんでもないですよ。早く倒しましょう」


「わ、わかってますよ!」


「命中」


そのまま洞窟の入口を守り抜くこと数十分。最終的には16匹の魔物が追加で来た。残りの4匹は、一撃でやられていく同族に怯えて逃げていったのだろう。


「終わりましたね。他にはもう居ませんか?」


「あぁ、だが一応ここで待機しておこうか」


矢筒は焚き火の跡地の近くに座る。重友はそれに向き合うように座り込んだ。火が消えてからしばらく経ったので温かさは感じない。会話が途切れる。

何も燃えていないここでは、火を眺めることでで気を紛らわせることが出来ない


重友は静寂が耐えきれず焦ったように口を開いた


「…毒はまだまだ抜けないんでしょうか…」


「このダンジョンの主から食らった毒だろうからな。強力なのは間違いない」


「早く解毒出来ればいいですね」


「殆どの人間がサポーターによって覚醒している。それによって体が強くなっているだろうから大丈夫さ。2人も解毒出来るやつが入れば大丈夫だろう」


洞窟を背後に座っていた矢筒がニヤリと笑う


「噂をすればなんとやらだ。そろそろ出発するだろうから、森の中の駆除を少しやってくる」


「え、ちょっと矢筒さん?」


「重友さんはここの護りをよろしく。俺は狩りを楽しんでくるよ」


そう言い残し、弓を持ったまま、森へ消えて行った。その速さは強化された身体能力でも捉えきれないスピードだった


「確かに向こうも強化されてるし、元々の身体能力も違うけど…あそこまで差ができるものなの…?」


一方その頃洞窟内では、想像以上の患者の数に四苦八苦していた


「足りない、どうしようこのままじゃ全員直せない」


「なんで?何でも出来んじゃねぇの?お前の職業」


椅子に座りる黒崎は白野の杖を支えながら首を傾げる。それに対して苦笑いで応えた


「なんでも出来るけど…MPには限度がある。もし僕のMPが満タンだったなら行けたかもしれないけど…」


どうしようかと頭を抱える二人にスミスは看病をしていた手を止め、2人に近づいた。


「何二人で悩んでいるのよ。もっと多くの人を使いなさい」


そう言って影浦に質問した。正確には影浦が持っているカメラにだが


「だってそうでしょう?今の私たちには数え切れない人が味方になっているの。使わなきゃもったいないわ」


影浦さんもこっちに座って、今の私たちの状況を整理しましょうと4人で机を囲んで座った。


「僕の残りMPは180。あ、レベルは4だよ!主を倒したことでいっぱい経験値が貰えたみたい」


「私はレベル3で残りMPは150、これは最大値よ。あなたたち怪我しないから使ってないし」


「みんなに配ってる水は?さっき空中から出てたじゃん」


白野は洞窟に入ってすぐの光景を思い出した。

その時彼女は中で呻き声をあげる人々へ駆け寄った。そして水の精霊を呼び出し毒に侵され、上手く動けない人達に水を空中から出して全員に配っていた。動ける人には空中に水を漂わせたまま渡し、寝たきりになった人は体を起こして水を与えていた

その繊細なコントロールに感心したのを覚えている。


洞窟の半分を占める程の中毒者に水を配っていたのだからそれ相応のMPを消費したのではないだろうか。それとも回復スキルを持っているからMP

がすぐ溜まるのだろうか


スミスは白野の問いに首を横に振って答えた


「いいえ、あれは精霊が出してくれたのよ」


だからMPを消費しないのと言いながら指を振って水を召喚した。黒崎と白野は宙に浮く水をつつきながらおぉ〜という声を上げるはそれを微笑みながら眺めていた影浦はお!と感嘆の声を漏らす。そしてスマホをいじりながらコメント欄を見えるようにホログラムで広げた


""

すげぇつかめる水じゃん

真面目に考えてポーションとか作れないの?

何日か待って少しづつ解毒でいいじゃん

あの中には家族がいるんです。先に治してください

出してる水に解毒作用を付与したら数は作れそうじゃね

何日か待ったら死ぬレベルがうじゃうじゃいんだろ

解毒水作る発想はあまりにも天才すぎる

それ上手くいくの?薄そう

""


「スミスさんの精霊に水を出してもらって、それに解毒作用を付与してみてはどうかというものですね。これなら一回の付与魔法のみで済むのでMPの節約になるのでは無いでしょうか」


付与魔法…この人数の量を補う解毒水の作成はMPの消費量は重くなるだろうけど、一人一人を解毒するよりマシだろう。足りなかったら追加でかければいいだけだろう。試してみる価値はあるな


白野は立ち上がり、杖を構えた。そしてニコニコと新しい魔法が試せることへのワクワクを隠さないまま灯に声をかけた


「灯、早速試してみよう!早く水出して!」


「あのねぇ。この人数全員に配れる量なんてすぐ出せるわけないじゃない。大人しく座って待ってなさい」


スミスに窘められたあとでも笑顔のまま変わらない白野にため息を飲み込む。ご機嫌の白野にため息を見せても、自分のせいと気づいていない白野から、見当違いの心配をされるだけだというのはわかっているからだ

心の中で聖霊に謝りつつ水を出してもらう。出来上がったのは直径5mを超える巨大な水だった


「すごーい!!こんなに大きいとMP足りるか不安だな…大丈夫かな…」


予想以上に巨大な水の塊に杖を握りしめたまま動けなくなってしまった。黒崎はその様子を少し観察したあと、白野にゆっくりと近づいた


「やってみるしかねぇだろ。無理そうだったら少しずつ作ってMPギリギリを攻めればいい」


ほらやってみろと黒崎は白野の背中を押した。その顔は不安など少しも感じておらず、ただ白野を笑って見守っていた。白野は黒崎の顔をぼんやりと見つめやがてにっこりと笑った


「そーだね!やってから考えよう!」


杖を巨大な水玉に向ける。上手く行けばいいが……いや上手くやるんだ!


深呼吸してから呪文を唱える。白色の光が杖の先から現れ、水を包み込んだ。

数秒後光が消え、水は白濁していた。それを確認したら安心したのか力が抜けて崩れ落ちる。床にぶつかる前に黒崎が支えることが出来たため白野に怪我は無い。しかしMPが0になり動けなくなってしまった。


「うん、この濃度だったら行けるかもしれないわ!みんな水を飲む準備はいいかしら?!鼻から飲みたくなかったら大きく口を開けなさい!」


「ハハッそりゃ横暴だぜ、灯。動けねぇ奴らばっかりだってのに」


「この人数相手に配慮する暇は無いわ!MPは使ってなくても集中しないと維持出来ないのよ!」


「ファイト~」


気楽に言っちゃって!後で働いてもらうからね!そう叫ぶ灯の顔には汗が滲んでいた。約20人の口元に水を持っていくのはかなりの気力が必要らしい。最悪、2人を背負ってここから脱出しよう。荒い呼吸の拓魔の背をさすりながらそう決心した。


「…ぉお」


少しずつ回復していく人たちから声が漏れる。良かったこの調子なら大丈夫そうだ。回復できた人たちが立ち上がって喜びを分かちあっている。そんな中、いくら水を注いでも、動かない人が数名現れた。水を全て使い切った後、スミスが追加で浄化や回復をかけても動くことは無かった。


動かない人の前で項垂れる灯に誰の声をかけることは出来ない。とはいえ洞窟内の人は覚悟していたんだろう。動けない人…亡くなった人の殆どが1箇所に集められていた。いつの間にか眠っていた拓魔の代わりに手を合わせる。その横を影浦さんがカメラを下に向けながら通り過ぎた


影浦がゆっくり近づきスミスの肩を叩く。それでも反応がないスミスのとなりに声をかけた


「……貴方は、いえあなたたちは最善を尽くしました。生前を尽くした上で出てしまった犠牲です」


スミスは項垂れたまま、影浦の言葉を聞いていた


「仕方が無いと割り切りましょう」


その言葉を聞くまでは

彼女は先程まで項垂れ動けなかった人とは思えないほど、素早い動きで影浦の胸ぐらを掴み上げた。影浦は突然の息苦しさに小さな悲鳴を漏らす


仕方が無い、その言葉に感情が抑えきれなかった。気づいたら影浦さんの胸ぐらをつかみあげ彼を睨みつけていた。能力が覚醒して上がった身体能力は自分より体格のいい成人男性をいとも容易く持ち上げることが出来た


「どういうこと?人の命を諦めろってこと?あの人達はこんなことにならなければ死ななかった人たちよ!あの人の人生を奪ったのは…!」


「貴方では無いでしょう。悪いのはこのダンジョンの主です。…私たちは今動ける人を連れて、このダンジョンから早急に抜け出さなければなりません。今生きている人の怪我の治療を優先してください」


「そんな…この人たちは…」


「私が遺品を回収します。この配信を見ている皆さん。黙祷をお願いします」


私は影浦さんの言葉をゆっくりと噛み砕き、洞窟内を見渡した。

こちらを見たまま動けなくなっている人、唇をかみ締めながら目を背けるもの、自分の体をさすりながら安堵のため息を着くもの…様々な人がいた。私にはまだやらねばならないことがある。助けられる人に手をさしのべなければならない。だって彼らはまだ生きているのだから


カノジョは涙を脱ぐって立ち上がった。彼女に悩む時間も悔やむ時間も残されていない。この場所に長く居続けるということは死を意味するからだ


彼女はゲートまでの道と生存者の状況を比べながら己のすべきことを考えていた。その様子をぼんやりと眺めながら黒崎は白野を背負った。そして入り口の方から聞こえてくる足音に剣を向けるが、走り込んで来た人物を確認し警戒を解いた


洞窟の入口から走り込んできたのは重友と矢筒だったのだ。彼らは息を落ち着ける時間も惜しいと息を切らしながら話し始めた


「この森が崩れ始めてる!いや正確にはこの空間自体が、だ」


「私たちが降りた地点付近から亀裂が入って大きなひび割れが出来たんです!そして、周囲のもの全てが飲み込まれました」


「急がねぇとここも飲み込まれる。子供と年寄りを中心に移動を…犠牲者か」


矢筒は、ほとんどの人が逃げる準備を進める中、寝たまま動かない人。そしてその人たちにカメラを向けアクセサリーを回収している影浦をみてそう呟いた


「そんな…間に合わなかったんですね…」


「悪いが亡骸を連れて避難すると俺たちが危ねぇ。ここら辺のモンスターは狩り尽くしたはずだが、亀裂から嫌な予感がする。さっさと抜け出すしかねぇよ」


「そうで…すね。白野くんは大丈夫ですか?」


「MPを使い切って眠くなったらしいです。俺が背負って行くんで大丈夫っスよ」


影浦から遺品の回収が済んだという声を合図に出発した。洞窟に帰ってきて数時間の経っていないのにも関わらず、洞窟の外は大きく変わっていた。青い空が見えていたはずなのに空にヒビが入ったように宇宙のような景色が見える隙間があった。洞窟がある崖から見えるヒビ割れはレア度の低い職業でも分かるほど大きくなっていた


「まずいな…走れ、とは言わねぇが少し急ごう」


出口のゲートへ少しづつ進んでいく、幸い生存者の数名は通った事のある道だったので想定よりもスムーズに動けた


影浦さんがゲートの前に立つ


「私は先に入ります。この遺品は確実に届けます。皆さんは生存者が安全に帰還できるようにしてください」


生存者が影浦さんの後に続きゲートに飛び込んでいく。その様子を4人で眺めていたら、黒崎に背負われている白野が目を覚ました


「ん〜あれ?ゲート…?みんな治せたの?」


その言葉に沈黙が訪れる。その沈黙で状況を察した白野は静かに涙を流す


「そっか~無理だったか…出来たら助けたかったな…もっと早く来れたら良かったのに…」


「そんなこと言ってる暇はねぇぞ。俺たちは日本初、もしかしたら世界初のダンジョン制圧を配信したパーティなんだ。まだまだ行方不明者がいるであろうダンジョンがある。ここからでたら次の所に送られるかもな」


「うへぇ休ませて欲しいーてか他にも出てきてる人いるでしょ。巻き込まれてないけど覚醒してる人なんていっぱいいるんだから」


「そうね、さてこれで全員通ったみたい。私たちも行きましょ」


「おいおい、俺の感は当たっちまうんだよないつもいつも!!」


「急にどうしたんですか?…ぇなにあれ」


矢筒の呆れと怒りが混ざった声と、重友の唖然とした声に引かれて後ろ振り向く。そこには…


このダンジョンの主の5倍はありそうな巨体が居た。ここに来るまで歩いて20分は掛かったのに、この遠さでもその動きがわかるほどあのモンスターは大きかった


ここから見えるのは上半身だけだが鍛え上げられた体に、頭には牛のような角が生えており首輪が嵌められていた。その首輪につながっている鎖は空のひび割れから垂れていた


「見つかる前にさっさと出ましょう」


「あれなに、ダンジョンの主が居なくなってゲートができてからしばらくたったからこの空間は要りませんってこと…?」


「それを考えるのはあとよ!急ぎましょう!!」


5人はゲートを急いで潜った



角の生えた巨体のモンスターはその方向を呆然と眺めたあと、洞窟の中を漁るように腕を入れた。そして何かを掴み口元へ近づけた



終わりに

久しぶりの更新ですね。執筆していたパソコンが壊れたのでなかなかモチベが上がりませんでした。これから少しづつ設定を思い出していこうと思います






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