悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました
神村結美
第1話
ここ、レスタンクール王国の第一王子であるマクシミリアン殿下が10歳となり、婚約者選定のお茶会が王城の庭園で催され、伯爵家以上の婚約者のいない令嬢が招待された。
金髪碧眼で見目も良く、王子様らしい堂々としたマクシミリアン殿下が庭園に登場すると、着飾った令嬢達はこぞって第一王子の元に駆け寄った。
しかし、一人の令嬢は席から立たず、給仕の使用人を呼び、会場に用意されたお菓子を次々とテーブルに運ばせた。第一王子には一切見向きもせず、幸せそうにお菓子を頬張っている。
そんなお菓子に夢中なアルトー公爵家の令嬢であるクローデットは、大のお菓子好きで、毎日沢山のお菓子を食べていた。その結果、彼女の体型は丸々と太っているが、本人はお菓子を食べることにしか興味がなく、太っていることを気にしていない。本日も公爵令嬢であるが故にお茶会には参加させられているが、彼女の目的は王城で出されるお菓子である。
マクシミリアン殿下はしつこい令嬢達をうまく対処しながら、出来る限り多くの令嬢と言葉を交わすことを心がけた。そして、一人だけ席についている令嬢に気がついた。まだ話していないだろうと思って近づいたところ、若干顔が引きつってしまった。
「や、やぁ……」
クローデットは、話しかけてきた人物がマクシミリアン殿下だと気づき、すぐに席を立ってカーテシーをした。
「はじめまして。マクシミリアン・レスタンクール殿下。アルトー公爵が長女、クローデットと申しますわ。以後お見知りおきを」
「あ、あぁ」
マクシミリアン殿下は、あまりにも他の令嬢と違うクローデットに面食らった。まずは身につけているドレス。このような場では明るい色でフリルやリボンが多いドレスを着用するのだが、彼女は地味な濃紺色のドレスを身につけ、リボンは腰回りに大きく一つ付いているだけ。豪華な宝石もアクセサリーも身につけていない。
つぎに彼女の体型である。まるで豚のように丸々としており、自分の2倍くらいの横幅はあるのではないかと思うほどだ。頬もパンパンに膨らみ、目は周りの肉に圧迫され、瞳の色すらハッキリとはわからない気がする。肌には吹き出物が見える。他の令嬢達が着飾っているため、正反対の彼女は異様に見えた。
ただ、カーテシーはとても綺麗に出来ており、さすが公爵令嬢なだけあって、挨拶もしっかり出来ていた。その矛盾によって、彼女という存在が強く印象づけられた。
マクシミリアン殿下の様子を窺っていた周りの令嬢達はクローデットは
マクシミリアン殿下は彼女が座っていた席のテーブルの上に様々なお菓子が並べられていることに気づき、その場から立ち去る口実を思いついた。
「……たくさんお菓子を食べてくれているようだな。気に入ったようでなによりだ。今日のために新らしく創作されたお菓子もあるから、引き続き楽しんでくれ」
「ありがとうございます」
言葉を残した殿下は、クローデットの元を去っていった。最低限の挨拶も交わして、今日の目的は果たしたので、クローデットは気兼ねなくお茶会の終了時刻まで紅茶を飲みながら、お菓子を楽しんだ。
マクシミリアン殿下は、その日の晩餐で王妃からお茶会について聞かれた。気に入った令嬢がいれば婚約者として検討される。
王妃からの問いかけに、ふと一人の令嬢が頭をよぎった。美しさは全く感じず、むしろ好みで考えると婚約者としては選ぼうとは思わないが、強い印象が残ったあの令嬢だった。
マクシミリアンは、今まであのような令嬢には会ったことがなかった。自分の婚約者選定の場に居たのだ。もしも他の令嬢達のように彼女に迫られたらと考えると、たまったものではなかった。さらに、国の代表となる王妃があのような見た目では、貴族達から受け入れないだろうと考えた。
公爵令嬢であることから無碍にもできない上、万が一、彼女が望んだら婚約者に確定してしまう可能性すらある。本日のお茶会に参加した公爵家の令嬢は2人だけであり、もう一人は従姉妹で、彼女の性格から考えても婚約者を望むこともなく、こちらも婚約者にする気は最初からない。
とても幸運なことにアルトー公爵家の令嬢は王子に見向きもせず、お菓子ばかり食べていた。その事実に心から安堵したが、強烈に印象には残っている。
王妃からの質問には、気に入った令嬢はいなかったが候補にするならと、令嬢達の中でも将来の王妃にも向いていて、自分に何とか釣り合いそうな令嬢の名前を数人あげておいた。
婚約者選定の際には、公爵令嬢2人は候補から外され、マナーや会話の質、家格や美貌等を総合的に判断して、オデット・ロンサール侯爵令嬢が婚約者に選ばれた。
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