傲慢の玉座

神河アサヒ

魔王

「くらえ! 聖なる光ホーリーライト!」


「グハッ! もはやこれまでか……。なかなかやるではないか! 勇者エンデ!」


「よくぞ俺を打ち負かした。きっと国中の民が貴様を讃え、祝福するだろう!」


「フフフ……フハハハハ!」


「何がおかしい! 大魔王グリーゼ!」


「いい眼だ。自信に満ちあふれている……」


「お前は、俺なんだよ。じきに貴様も、この“傲慢の玉座”に座らんとするのであろうな!」


「ふざけるな! 私は、力に溺れ、悪逆の限りを尽くした、貴様のようにはならぬ!」


「ほう、まあ気長に待ってるぞ。地獄の底で、な」


 そう言い残して、魔王は塵と化して消えた。




 **********



 

「ありがとう!」

「ようやく、平和な時代がやってくるのね!」

「これでのびのび農業ができるよ!」

 フィエナ王国に凱旋した私は、民からおおいに祝福を受けた。


 傲慢の魔王は、30年ほど前からこの地に現れた外道だ。

 最初は脅威に見られていなかったものの、みるみる内に大帝国を築き上げ、数々の国を蹂躙してきた。

 彼自身も巨大な力を持ち、この大陸には並び立つ者なし、というほどだった。


 そんな怪物を、私はたったひとりで打ち倒したのだ。少しくらい褒め讃えられてもいいだろう。


 街道を歩きながら考えごとをしていると――――。


 痛ッ!


「うわあああん」


 足元を見下ろすと、五つほどの少年が転んで泣いていた。


「ちょっとぼく? 気を付けてね」


「うわあああああああああん!」


「チッ、るっせえな。おいガキ、俺は勇者だぞ? 分かったらどけ!」


 そう言って私は少年を蹴飛ばした。

 私は勇者で彼はただの子ども、そこに上下関係があるのは当然。

 それに私はこれから王へ謁見するのだ。平民風情に衣服を汚されては困る。


 蹴飛ばした少年のことも少し心配ではあるが、時間もないしここは無視して先を急ごう。




 **********




「勇者よ、まずは魔王討伐、大変ご苦労であった。褒めて遣わす」


「ありがたき幸せ」


 おいこら! 様をつけろよ、様を!

 お前なんて玉座にふんぞり返ってただけで、なんにもしてねえじゃねえか。


「それで、なにか褒美などはございますでしょうか」


「ああ、心配せずともたくさんあるぞ。ほれ、ジルダ。“あれ”を持って来い」


「仰せのままに」


 ああ、一体どれほど豪華な褒美が待っているのだろうか?

 なにせ私は魔王をたった単騎で倒した勇者様だからな。どれだけケチな王様でも、旅立ちの時銅の剣と銀貨15枚しかくれなかった王でも、金貨100枚くらいはくれるんじゃ――――――――


「ほれ、褒美じゃ。銅貨三枚。ありがたく受け取りたまえ」


 ありがたき幸せ。


「はあ?! いくらなんでもおかしいだろ! 銅貨三枚って、旅立ちの時よりランクダウンしてるじゃねえか!」


「まあまあ、最近物価じゃからのお~って、なんじゃ、その口の利き方は!」


「俺より弱いくせに、命令口調で話しかけてくんな! ケチ! カス! デブ!」


 はあ、ほんとムカつく。ってあれ?


 もしかして、心の声、出ちゃってた?


 「総員、かかれ!」

 

 マズイマズイマズイ!


 ……いや? マズくない!


 俺、勇者じゃん。魔王倒したじゃん。

 たかが王の兵隊くらい、余裕じゃね?


「かかってこい! 俺は勇者だぞ!」


チェーン


「おら、聖なるホーリー……」


 あれ? 魔法が放てない。体も動かない。

 慌てて周囲を見回せば、ジルダという使用人が私を見てほくそ笑んでいる。

 もしや捕まった? この俺が? 魔王を倒した勇者様が?


「引っ捕らえたぞ!」


「やったあああ!」

「よくやった!」

「ジルダさまかっこいい!」

 私を捕らえたジルダに向けて、あたりからは大歓声が上がる。

 

 私はそのまま、王城の地下牢へと投獄された。




 **********




「……腹へったなあ」


 地下牢へと投獄されて一週間、喉の乾きは部屋の隅に溜まっていた泥水でなんとか潤せたが、空腹度は限界に達していた。


「おい、そこの男よ。私と契約しようではないか」


 ああ、ついには幻覚まで見えはじめてしまったようだ。

 髪の毛が生えていない赤色の肌の男が、私に向かって話しかけてくる。

 

 やがて、その輪郭がハッキリとしてきた。

 どこかで聞いたことのある外見。涼しい頭に、血のように赤黒い肌。

 

 …………!


「もしや貴様、悪魔ディオルドスだな」


「うむ、いかにも」


 会話ができる……ということは、夢じゃない!


「私と契約しよう! 勇者、いや元勇者エンデ!」


「契約って、魂を差し出せ的なアレだろ! お前らの悪名は世界中に轟いているんだからな!」


「私たちについてなにか誤解をしているようだが、少なくとも私は魂を要求しないぞ」


「私がするのは死に方の要求だけ」


「お前に力を与える。ただし、死んだら塵になってもらう」


「! それだけか? それだけでいいのか!?」


「ああ。悪魔は嘘を吐かない」


「契約しよう! 今すぐに!」


「はい、じゃあ取引成立ってことで」


 突然、全身に力がみなぎってくる。

 今ならなんでもできそうな気がしてきた。


大爆発グランド・エクスプロージョン!」


 突然の大爆発によって、王都は粉々になった。


「さて、ムカつく奴は吹き飛ばすことができたけど、これじゃあ雨風を凌げないな」


「勇者よ、それなら良い場所を知っているぞ」


「本当か!? じゃあ、ついでにそこら辺から必要なものをぶんどりつつ行くか」




 **********




「くらえ! 聖なる光ホーリーライト!」


「グハッ! もはやこれまでか……。なかなかやるではないか! 勇者ペルシア!」


「よくぞ俺を打ち負かした。きっと国中の民が貴様を讃え、祝福するだろう!」


「フフフ……フハハハハ!」


「何がおかしい! 大魔王エンデ!」


「いい眼だ。自信に満ちあふれている……」


「お前は、俺なんだよ。じきに貴様も、この“傲慢の玉座”に座らんとするのであろうな!」


「ふざけるな! 私は、力に溺れ、悪逆の限りを尽くした、貴様のようにはならぬ!」


「ほう、まあ気長に待ってるぞ。地獄の底で、な」


 そう言い残して、魔王は塵と化して消えた。

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傲慢の玉座 神河アサヒ @A-Kamikawa

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