嘘が消えた世界

とことこ

第1話 新世界

「あーだめだめ!嘘をつく奴にまともな人間はいないね!」

注文した生ビールを一気に飲み干しながら上司が口にした言葉は、すぐに居酒屋店内の奥に消えていった。

「そ、そうですよね…。」

適当に相槌を打ちながら共感する。と言っても俺も実はまだ19歳。上司に飲みに誘われ咄嗟に20歳と答えてしまった。

人生で初めてビールを飲むがあまり美味しくない。ていうか額から頬にかけてとても熱い。

「去年入ってきた新人の子が嘘を着くことでさぁ!虚言癖?って言うのかな。参っちゃって…。お、おい!大丈夫か!」

上司は血相を変えて近寄ってくる。あれ、なんだか視界が狭まってきた…。

「おい!店員さん!救急車呼んで!」

救急車…?あれ、体に力が入らなくなってきた。

その後俺は床に倒れ込み救急車に運ばれた。


起きたら病室…なんてことはなく、視界に入ってきたのは町の様子だった。木造建築の建物が大半を占めており、商店街のような活気溢れた町だった。


とりあえず近くを散策してみることにした。

町の地図を見たり、八百屋の店主に話を聞いたりして、なんとかある程度の情報は揃った。

この町には門下生堂という建物があり、町の子どもたちはそこに通うらしい。門下生堂で教育を行っているのは町のお偉い様方に選ばれた博士たちであり、さまざまな教育が行われているらしい。

ふむ、なるほど。

俺は門下生堂というものに興味を持ったので少し様子を見に行ってみたくなった。

「ここから門下生堂まではそんなに遠くないな…」

門下生堂に行くまでの道中、俺は目を丸くして驚いてしまった。


『ウソつきは首ツリ!』

『嘘はあの世への切符だ!』

『生きたきゃ嘘つくな』


このようなポスターが町の至るところに貼られている。随分と思想の強いことだ。


「おい、そこの兄ちゃん!堂は休みか?」

白髪混じりの老人が俺に声をかけてきた。

「堂?あぁ、門下生堂のことですか。俺はそもそも行ってないですよ。」

たぶん門下生堂のことで合ってるはずだが、あいにく俺はついさっきこの世界に来たばかりでね…。

「そりゃあいけねえな!仕事はなにやってんだ?」

仕事…。仕事かぁ。俺は一応この世界では無職だと思うんだが。なんか印象悪いしな。適当なこと言っておくか。

「あぁ、つい先日まで旅に出てて。仕事は今はやってないです!」

そう答えた途端、老人が形相を変えて詰め寄ってきた。

「旅だぁ?この町は外出許可証の発行が必要なんだよ!俺はそこの事務員として働いてるんだわ。お前さんの顔、見たことねえなぁ?

おい、ひとつ忠告しといてやる。この町で嘘をついたら処刑だ。首吊りだ!町のお偉いさん方が決めたんだよ!」

俺は今初めて事の重大さに気づいた。


そうか、この町では嘘は禁止されているんだ。

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