クライシス・シンドローム ~幸運値が高すぎるとゲームバランスが壊れるらしい~

テルン

第1話   本体設定の嵐

俺の名前は頼人らいと。普通の高校生のゲーマーだ。


最近ではゲームに入れるフルダイブ?なんてものが流行っているらしいのだが俺の家計は別に裕福というわけではないのでそんな物を買う暇などなかった。


「らーいとっ!」

「うぉわ!」


教室の机でグテッとしていると、いきなり誰かに絡まれる。俺はすぐそいつの顔を見て


「なんだ、愁斗か」


と、安堵の声をもらした。


「なんだとはなんだ」


愁斗はどこかで聞いたことがあるようなセリフを吐く。


「いや、今のが陽キャどもじゃなくて安心したんだよ。」


そうこいつは陽キャではない、かといって陰キャでもないが。


愁斗(しゅうと)は俺の幼馴染であり親友だ。あと一人、俺には女の幼馴染がいるのだがそいつは俺たちとは別の学校に行ってしまった。


「なぁ、頼人」

「ん?なんだ?」

「お前ってさ、あのゲームに入れるあれ。なんだっけ。名前ー。名前が思い出せねー。」


おそらくあれのことだろう。...名前、なんだっけ


「あ!そうだエンターだ!」

「そういえば、そんな名前だったか。」


...エンター。その言葉には『入る・入り込む』という意味がある。なんとも安直な名前だ。


「なんだ頼人も忘れてたのか。」

「...忘れてなかったら答えてたよ。」

「それもそうか」


ハハハハと二人して適当に笑う。


「で、それがどうかしたのか?」

「あぁそれがよなんか新しいゲームが出るらしくてよ」

「そもそもそれ用の機器を持ってないのにその話を聞いて何になるんだ」


そのゲームの存在を知ってたとしてもやれないんじゃ意味がない。


「それがよ、そのゲームどうやらどっかの大手さんが作ってて超期待作RPGなんだとよ。それに準じてそのエンターが安くなるらしいんだ。だからよ一緒に買わねぇか?」


安くなったところで


「そのエンターが安くたってそのゲームが高くちゃ買ってもできない。本末転倒だ。」

「えーそんな固いこと言わずにさぁ。俺もやってみたいんだよー」

「一人でやればいいじゃないか」

「お前とやりたいんだよぉ」


俺は一瞬考えるが


「いや、無理だ。俺には買えない。すまないが一人でやっててくれ」


そう素っ気なく返すのだった。


「そうだよな。ごめん。無理に誘って」


そう言い愁斗は俺の席から離れていった。

少々言い方に棘があっただろうか?

でも実際、俺にはそんなゲームを買うだけの財力など...


「...調べてはみるか」

__________________________


「こ、これのことか?」


俺は家に帰ってからパソコンで調べ物をしていた。

学校で教えてもらったゲームについて調べてみると、確かにエンターも安くなっていることが分かった。だが、それに比べそのゲーム自体の値段はとても高かった。

そりゃあ期待作と言われてるだけあって金もかけている。それゆえにどうしても高くなってしまうのだろう。


だが、色々調べていると、


「本体とゲーム、セットで2万2千円引き...!?」


ゲーム機本体がざっと4万。そしてゲームが9千。


「ほぼ半額じゃ...。」


だが詐欺とかそうものではなく、ちゃんとした公式の値段なのだ。


「これは愁斗が言うのも納得か。」


これは悪いことをしてしまった。

そう思いながら自然と予約というボタンにマウスのカーソルが重なる。

そして、『カチッ』と、マウスが鳴る。

そして画面には予約が完了しましたの文字...。


「ああぁぁぁあぁ!!?」


つい押してしまった。


「普通、確認画面出るもんじゃないのか...?」


メアドとかもいつ入れたっけ。

だが、


「どっちにしろ買ってただろうなぁ」



___そして時間は過ぎる。


「おーい愁斗ー」


次の日、俺は愁斗に昨日のことを話そうと思い声をかけていた。


「エンターのことなんだが」


そう言って話を切り出そうとすると


「あ!昨日はごめん。そんな無理して買うものじゃないからな。昨日のことは忘れてくれ」


そうして愁斗は申し訳なさそうにその場を去った。


「...逆なんだけどなぁ」


それからのこと、そのゲームについて話そうとすると愁斗はいつも話を逸らし、ゲームについての話は何一つできなかった。


そして土曜、そのゲームの発売日となった。俺は事前に予約し、なおかつ、すでに俺はコンビニ払いで支払いを済ませてあるためその日に手に入れることができる。


「うー、そわそわするー。」


リビングで待ってると、


「お兄ちゃんどうしたのー?」


と、現在中学2年生の妹”舞”が話しかけてくる。


「いや、今日ちょっと荷物が届くんでな」

「ふーん。お兄ちゃんなんか頼んでたんだ。珍しー」


たしかに家計的にも性格的にも珍しいことかもしれない。


「まぁ、舞が気にすることじゃない。」

「ん-。そうだね、お兄ちゃんが変なことしないなら気にしないよ。」


変なこと、ねぇ。果たして俺がそんなことをする奴に見えるのか。


「で、なにが届くの?」

「気にしなくていいって言ったばっかりだろ。」

「えー気にするなって言われたら余計に気になっちゃうよー」

「確かにそうかもしれないが舞。」


俺の手には5000円札が握られていて。


「これでどうか見逃してくれ」


そのお金は俺が一生懸命バイトをして貯めた物の一部である。


「見逃してってなんのことかさっぱりだけどお金がもらえるなら、後は知ーらない。」

「あぁ、...」


そうして妹の舞はテレビをつけソファに寝転がるのだった。


『ピンポーン』

現在昼過ぎ。俺たちの家のインターホンが鳴った。

...来たか。


「はーい。今行きまーす。」


そして俺は忘れずにハンコを持ち玄関へと向かった。


「こちらお荷物ですねー。こちらに印鑑を押していただいて」


その宅配の人が示した紙に、俺はインクをつけたハンコを押しあてる。


「はい、確認しました。それでは」


そして玄関には俺とちょっとでかい段ボールが残るのだった。

俺は自室にそれを運ぶ。

そして俺は”それ”を箱の中から取り出す。


「おぉぉ、エンター。思ったよりでけぇ。」


例えるならプレ〇テ5くらいの大きさだ。

さらについでと言わんばかりにゴークルのようなものも一緒だった。

そしてもう一つの大本命。

俺はその箱の底のほうにある一回り小さい箱をとる。

俺はそれを開け


「来たか。クライシス・シンドローム」


そう言葉を漏らすのだった。




クライシス・シンドローム(Crisis Syndrome)


それがこのゲームの名前だ。略してクラームとかCSと呼ばれているらしい。

直訳すれば『危機症候群』

まぁ、危機は常にあるぞみたいな意味だろう。

エンターに続いてこれも安直なネーミングである。

これぐらい安直すぎるほうが逆に売れるのか?

俺はそんなことを考えるが、


「まぁ、単純に大手だからだよなぁ」


そうとしか考えられなかった。


「...もうできるのか?」


説明書を見る限りゴーグルのようなものを頭にはめてゲーム機本体かゴーグルの横にいついている"startボタン"を押せばフルダイブとかいうやつができるらしい。


ちなみにPCに接続すればそっちでもできるらしいのだがフルダイブができなくなり、操作もちょっと悪くなるらしい。

操作が悪くなるのはおそらくゴーグルが脳波を直接読み取ってゲームを動かしているからなのだろう。


「うーむ。今日土曜だしな~。ちょっとぐらいいいだろ」


そうして俺はエンターの電源を入れ、ゴーグルを用意した。


「えーと、『フルダイブ中はログアウトするまで体を動かせなくなりますので楽な姿勢でお遊びください』?」


俺は辺りを見渡し、


「ベッドでいいか」


そして俺はベッドに寝転び、ゴーグルをつけ


「ゲームスタートだ」


そう言って横のボタンを押すのだった。



『ようこそ。ゲームの世界へ』

そんなアナウンスが突然流れる。


「今は音声で案内してくれるのか。」


俺は何世代か前のゲームしか持っていなかったため少しばかし感動した。


『エンターのアカウントを作成してください』


本体アカウントというやつか。

すると目の前にさまざまな色やアイコンの形が表示されているタブが飛んできた。


「これで勝手に作れ、と。」


だが、こんなものただのアカウントだ。

そのため、

「青単色でいいだろ」

こういうことになってしまうのだ。


「完成っと」


すると次の案内が来て、


『アカウント名を設定してください』

そう言われた。


「アカウント名っつったってフレンドとか作らなきゃ誰も見ないんだし本名でいいな。...ちょっとだけいじっとこう」

本名にするのが怖くなったため、俺は、


「ライト...light...光?電気?いや、太陽?照らす...晴れ?日?」

と、このようにいろいろと考えるが


「いいのが思いつかん...」


まさかこんなところでつまずくことになるとは思いにもよらなかった。


「光...ヒカリ?...『ヒカリ』!」


なぜかいきなり名前がポンと思いついた。女っぽい?今の時代その言葉はタブーだぜ。

そして俺は決定ボタンを触る。


『これでよろしいですか?』

「はい!」


そうしてアカウント設定が終わったのだった。

...そう今終わったのはアカウント設定だ。

その後は

『明るさを調節してください』

『音量を設定してください』

『現在時刻を入力してください』

『外部アプリと接続させますか?』

『現在楽な姿勢になっていますか?』

『その他のアカウントは...』


そうお待ちかね本体設定である。


「多すぎだろ!!あ!?ほかのアカウントだぁ!?んなもん今いらねぇよ!あとからでも十分だ・ろ・う・が!」


細かい設定まで聞いてくれるのはありがたいがその数が多すぎる。

タブの下に現在の進行度が載っているのわけなのだが

『現在完了20%』

え?あと80%なにあるの?思いつかないんですけど。なに家族構成でも聞かれるの?


それから1時間弱ずっと機械音声を聞き続けるのだった。



「やっと終わった。」


結果50個ほどの項目があった。

いやアホだろ。一応途中で中断することもできるがそれでもやることには変わりない。


「はぁ、これがまだ本体設定なんだもんなぁ」


次はゲームの設定か。

「...いったん終わろう。疲れた。」


現実のご飯の支度とかもしないとだしな


「えーと、ログアウトするには確か左手でキツネみたいなのを作って振り下ろすんだっけか。」


振り下ろしてみるとメニューとかかれたタブが出て、それの一番左下にログアウトの表記があった。


「ほんとに今日は疲れたな。...また明日だ。」


そうして俺はログアウトと書いてあるところを押すのだった。



「ふぅ」


なんで俺はゲームをやってこんなに疲れてるんだ。

「ゲームやったって言うのか?あれは。」


時計を見ると午後6時を回っていた。


「ご飯の支度始めなきゃな」

そうして俺は自室から出るのだった。

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