第9話:へぇ~

 実は、今日ららぽーと横浜の平面駐車場で怒鳴ってきたおじいさまが、あまりに気色悪かったのでトラウマになり、しばらく閉じこもっていました。

 でも、そんなことではいけないと母に気持ちを打ち明けました。

 すると……


「車を借金して買う人っているの」

 ピンときました。

 立てた頭髪、染めた黒、いかつい外車、=みえっぱりな性格だ!!!


 そして、

「介護施設にもいるの」

 と母の経験談。


 ある日、職場に行ったらトイレのペーパーが全てなくて、どうしたのか訪ねて回ったら……

「こういう人がいるの」

 と。


 その人は90歳のおじい様。

 女性職員の体に触り放題して「いやーっ」という叫びを聞いて楽しむという厄介な人。

 注意されたにも関わらず、「悦んでいた」と、とんでもない勘違いな発言。


 急遽対策が練られました。

「職員は触られたら『やめてください!』と厳しく言いなさい。『いや~』『やめてえ~』など、抑揚をつけていると悦んでいると勘違いするから『いやです』と平坦に淡々と拒絶して」

 とお達しがあったそうです。


 そしてまだある、問題行動。

 トイレットペーパーを全部手に巻き取って、ポケットに入れて持ち帰る癖があるそうな。

「あの人が泊まりに来たら、ペーパーを全部棚に上げておくの。そして残り少ないペーパーを持たせて『あなたが使っていいのはこれだけ』と言うんです」


 知性的にどうなのかと聞くと、これが意識がしっかりしているらしい。

「頭がいいから、退屈するのねきっと」

 などと母は言うが、知性的に問題ないのにどうしてすることがハムスター並みなの。


 突っこんでみたら、思わぬ方向に話が曲がる。

 その90歳のおじいさまには娘さんがいて、ちょくちょく韓国旅行などするので、その間おじいさまを介護施設に預けられるそうな。

 母のニュアンスでは「きっと寂しいのだろう」と言いたげだが、わたくしはそうは思わない。


「きっと娘さんもひどい目に遭ってるんだ。だから、介護施設に置いていくんだよ」

 というと、母は「今の70歳以上の人は男尊女卑だからねえ」とはっきり言った。

 そして、三割負担で施設にお金を置いていくので、若いころは稼いだのだろう、と。


 世も末だ。

「ああいう変な人が出世する世界だったわけ」

 そんなの納得いきません。


 ああ、嫌われッコ世にはばかる。

 長生きなんて本当に価値があるのかしら? と思いつつ、今日も神棚に『スコちゃんが長生きしますように……』などと祈っています。


 動物からしたら長く生きることに、価値など見出せないわけです。

 でも、人間は脳が懐かしがる性質なので、重みがあります。

 長く長く、一緒に時を過ごした誰かと楽しくいたい、それだけなのです。

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