プロローグ
微かなアラーム音が、ベッドの隣の小さなテーブルからしつこく鳴り響く。その音に目を覚ました私は、重たく閉じたまぶたを無理やり持ち上げるようにして、ぼんやりと辺りを見回した。カーテンの隙間から差し込む朝の光が目を刺すようで、思わず顔をしかめる。ほんの数分前に目を閉じたばかりのような気がしたが、時計を見ると針は既に6時を指していた。
半ば眠ったままの状態で手を伸ばし、アラームの不快な音を止める。ベッドの端に腰掛け、大きく深呼吸をした。体が重い。まるで見えない鎖でがんじがらめにされているかのような感覚だ。この感覚にはもう慣れっこだ。連日詰め込まれた仕事のせいなのか、それとも毎晩繰り返される悪夢のせいなのか…。理由は分からないが、とにかく今日も始まる。眠気を振り払いながら立ち上がった。
アパートの中を見回す。広くはないが、一人で暮らすには十分なスペースだ。室内は必要最低限の家具だけが置かれ、無駄のないシンプルな作りになっている。角にある木製のワードローブ、ベッドの隣に置かれた小さなテーブル、滅多に使わないテレビの前にポツンと置かれたリクライニングチェア──それらはどれも、ここ数年ずっと変わらず同じ場所にあり続けている。
まずはベッドを整えた。シーツを引き直し、枕の位置を揃える。それだけで部屋全体がすっきりとしたように感じられ、不思議な満足感が胸に広がる。小さなことでも整えておくのは、今や習慣だ。バスルームへ向かい、手早くシャワーを浴びる。冷たい水が体を包み込み、頭にこびりついた重さをようやく追い払った。
シャワーを終えると、カジュアルな服を選んだ。白いノースリーブシャツとショートパンツ。必要以上に着飾る気分ではない。キッチンでシリアルを用意し、コーヒーを淹れる。いつものようにテレビの前に座り、ニュースチャンネルをつけた。
「議会の討論は依然として行き詰まっており、都市の治安強化に関する合意は得られていない模様です…」
いつもと変わらないニュースだ。犯罪率の増加が都市を蝕んでいるというのに、議会は空虚な議論を繰り返すばかり。画面を見つめながらも、頭の中はすでに別のことを考え始めていた。今日の仕事、今日の予定、そして感じる不穏な空気──特8課に長く所属していると、何かが動いているのを自然と察するようになる。
朝食を終えるとワードローブを開け、制服を取り出した。制服の生地に触れるたび、何とも言えない重みを感じる。これはただの布切れではない。この街を守るための責任と誇りを纏うものだ。私は手早く制服に袖を通し、バッジやベルト、磨き上げた黒いブーツを確認する。
アパートを出ると、冷たい朝の空気が肌に触れた。特別な建物ではないが、市の中心部にある標準的なアパートで、前には綺麗に整列した車が並んでいる。自分の黄色いセダンがいつもの場所にあり、私はドアを開けて運転席に腰を下ろした。警察無線から聞き慣れた低いバリトンの声が流れてくる。
「特8課およびレイヴンブルック市警の全メンバーに告げる。こちらは特8課の署長、レオンハルト・ブラクストンだ。本日7時に特8課本部で緊急会議を行う。標的となるギャングの位置が最新情報により確認された。これは特別な作戦である。全員の参加を求む。」
その声を聞き、深く息を吸い込む。ついにこの時が来た。数週間かけて追っていたギャングが致命的なミスを犯し、今が彼らを捕まえる絶好のチャンスだ。シートベルトを締め、エンジンをかけ、道路に出る。
道中、頭の中で思考を整理した。署長が緊急会議を召集したということは、事態は表面上の報告よりも深刻だということだ。この作戦は間違いなく大掛かりなものになるだろう。
無線から再び署長の声が流れる。「奴らを逃がすわけにはいかない。我々にとってこれは大きなチャンスだ。どうすべきかは分かっているだろう。」
私はアクセルを踏み込む。選択肢などない──今日こそ終わらせる日だ。
「今日は、長い一日になりそうだ…」と、私は静かに呟いた。
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