告白

「お前なんか薄くなってないか?」


「人の頭見ながら薄いっていうのやめてくださいよ!? ユウマさん!」


「いや、髪の毛の先っぽのほうがちょっと薄くなってるって。お前、タイムパラドクスを起こしたんじゃないのか?」


「いえいえ。まさかそんな……」


「じゃあ言え。タイムパラドクスが起きるとどうなるか言え!」


「わかりません。言われてないので」


「何かあったらどうするんだよお前!?」


「多分消えるだけなので心配なさらなくても……」


「お前は本当に……」


「それよりミサキさんとの仲を進展させなくては! 今のままではいつくっつくかわかったものじゃないですからね?」


「まあ未来については気をつけてくれよ? 心配なんだって」


「そ、そんな真剣な顔で見られるとちょっと恥ずかしいです……」


「キャラじゃねーこと言うなよ。変だぞ? この前から」


「そ、それはユウマさんが……」


 俺がなんだというのか。最近のおかしさは初期よりひどくなっている気がする。


「と、とにかく! そういった優しさはミサキさんに向けてください!」


「わかってるよ。俺と美咲がくっつかないとお前が来た意味がなくなるってことか……? 

 とはいえこれ以上何かって言ってもなぁ」


「そこは私がサポートします! 私が帰るまでもうあと1週間! お二人がくっつくまでサポートしますよぉ!」


「そういえばもう1ヶ月たちそうなんだよな。早いなぁ」


「ええ! 早速ミサキさんを誘ってきますから! 逃げないでくださいよ~ユウマさ~ん!」


 そう言い残して美咲の席に向かっていくユリア。なにやら話しているが聞こえない。



「というわけでまた今日もお二人に付き合っていただきたいんですよ! カップル向けのイベントでして……」


「それならユリアちゃんが悠真君と一緒に行けば良いんじゃない?」


「いえいえ! 私は撮影係。お二人のような仲の良い様子をしっかり自分で撮りたいので! ねぇ良いですよね? あと1週間なんですよ!」


 と、泣き落としにかかっていた。


「そ、それならまあ? 仕方ないかな? 悠真くんは大丈夫?」


「あ、ああ。平気だよ。美咲がいいなら……俺は文句ない」


「それじゃあ放課後楽しみにしていますね?」


 そう言って去っていってしまった。



「よーし! ユウマさんとミサキさんのセッティング完了! これで……あの……あれ? 好きなイベントだったはずなのになんで思い出せないんだろう?」




 その日の夜、俺と美咲とユリアは近所のイルミネーションにやってきた。

 夏イルミというものがあるらしい。漠然と冬のイメージだったが。


「ほらほらお二人共! こっちです!」


「わかったって。今行くから待ってろ?」


「ふふっ」


「どうしたんだよ美咲。なんで今笑った?」


「いや、今の悠真君父親みたいだったよ。いいお父さんになれるね」


「父親って……相手もいないのにか?」


「そこはまあ……ユリアさんがいるじゃない?」


「だから俺とユリアはそうじゃないって! 推しって恋愛感情とは別らしいぜ?」


「そうかなぁ。私から見たらそうは思わないんだけど……わかるんだ。どういう目で見てるのか。君のことずっと見てたから」


「そ、そうか……」


「お二人共~! こっちですこっち! はやく~!」


「おう! じゃあ美咲、ちょっと早く行ったほうが良いな」


「うん! ってちょっとまってよ早いってぇ!」


「追いつけるだろ? 現役が元に負けちゃだめだぜ?」


「今日はかかと高いから走れないのに~もう!」


 そして駅前のイルミネーションに到着する。が、ユリアはもっと先に行ってしまった。


「あいつせっかくのイルミネーションなのにさっさと行っちゃうなよなぁ」


「ほんとお父さんみたい。でもそうだね。どこ行ったんだろう」


「あっちいたぞ! なんかステージみたいなところの近く!」


「あ~本当だぁ! よく見つけられるね? 愛の賜物ってやつかな?」


「美咲ぃ、お前ちょっとその弄り楽しんでるだろ?」


「わかった? わかっちゃったかぁ鋭いなぁ悠真くんは」


「お前のことなら何でもお見通しなんだよ昔から!」


「う~そ! ぜんぜん鋭くないんだから!」


「お前っと、そろそろ行こうぜ? 転ぶなよ?」


「あ……手、握ってくれるの? ありがと」


「転びそうだったからな、さっき」


「う、うん。ありがと」


「どういたしまして。ほら、行こうぜ」


「うん!」


「お二人共遅いです~! って手を繋いでるのは……」


「こ、これは……その……」


「いえいえ! なるほどわかりました! 転ばないようにですね? もうユウマさんってばホント紳士ですねぇ!」


「そこはラブコメを進めるようなセリフじゃないのか……」


「それで、えっとはい! こちらです!」


「『愛してるコンテスト』!? これってまさか……」


「はい! 愛してるって理由と一緒に大声で叫ぶイベントです! ささ、どうぞ。もう申し込みしておきましたから」


「お前バカかっ! こんな駅前なんて誰が通るかわからない場所で……こんなこと……」


「いいじゃないですかぁ。感謝でもいいそうなので。さ、どうぞ」


 そう言って抵抗してる間に順番が来てしまった。ここは俺が恥ずかしい思いをして終わらせるべきだろう。


「はい。ではお次の方は……」


「佐藤悠真です! よろしくお願いします!」


「はい! 佐藤悠真さん! それでは愛してるのあとになにか一言告白をお願いします!」


「えっと、美咲! あ、愛してる! 昔から俺のこといつも1番に考えてくれて、俺はいつでもお前に助けられてた! 最近また元の仲が良い関係に戻れて嬉しい! ありがとう!」


「と、いうわけですが、美咲さん? ここに美咲さんはいらっしゃいますか!」


 と、うながされて美咲は恥ずかしそうに手を上げている。これはまずい。


「美咲さんですね? それではお返事をどうぞ!」


 ほーら絶対こうなるって思った! ユリアは……キャーキャー言いながらカメラ回してる。

 あいつ後でぜってぇシメる。


「ゆ、悠真くん! 愛してる! 昔から、幼稚園の頃からずっと好き! 愛してる! 好きなの! どうしようもなくて別れちゃったのが心残りで……私……好き!」


 会場がどよめく。おれもびっくりしてしまった。美咲の方はもういっぱいいっぱいな感じでおそらく何を言っているのかわかってない気がする。

 会場の雰囲気に気がついたのか美咲は周りを見渡して、自分の言った言葉を反芻して、そしてへたり込んでしまった。

 なんとかこの場をごまかさないと! 俺も気が動転していて変なテンションになっていた。


「え~と美咲さんありがとうございます! ではユウマさん! 何か他に伝えておきたいことがありますか?」


「えっと、それじゃあもうひとり伝えたい人がいるので、良いですか?」


「はい! 構いませんよ!」


「えっと、それじゃあ。ユリア!」


「はいいいいい!?」


「愛してる! お前が来てくれなかったらこんな事にならなかった! 毎日が楽しいって思えるのはお前がいてくれたからでもあるんだ! 未来永劫愛してる!」


「あわわわわわわわわわわ」


 ざまあみろ。こんな事言われると思ってないだろ。一泡吹かせられてスッキリしたぜ。


「え~とユリアさん? あなたですか? なにか返事はありますか?」


「ええええとあのののの」


「なにか一言! お願いします!」


「ええええええあのあの! 私も愛しています! 推しとかじゃなくユウマさんのことが好き! なんですぅ好きになっちゃったんですぅぅぅぅぅぅぅ!」


 って待って何だそれ! あいつもテンパりすぎて変なこと言っちゃってる! 


「はい! というわけでモテモテのユウマさん! ありがとうございましたぁ!  粗品がありますから受け取ってくださいね?」


「は、はい! し、失礼しますぅぅぅぅぅ!」


 いそいそと粗品をもらいに裏に引っ込む。粗品は地元の名産を使ったサイダーとかだった。


 外に出ると、まずおれは一番重症っぽいユリアの方に向かった。


「おいユリア! さっきのはどういうことだ!?」


「ええええとあの、そ、そうです友情! のライクです! 間違えましたぁ」


「お前は俺と美咲の推しだろ!? 大丈夫か!? 熱出てるんじゃないか?」


「うひゃあい! ああああのユウマさん首抑えないでくだひゃい!」


「更に熱持ってるぞ!? ってお前これ……」


 どうしよう。これは完全に風邪引いてるときの温度だ。自覚がなかったらしい。


「ええい! 帰るぞ! そんで今日は俺の家に泊まりなさい!」


「えええええ! 美咲さんはどうするんですかぁ?」


「美咲には俺が連絡いれる! バカが熱出してるから連れて帰って看病するってな! 勘違いする仲じゃあるまい! 初日に家に上がったことを忘れたか?」


「あああのあのころとは色々ちがうというか……下着とか持っていってもいいですか?」


「あとで母さんに頼むから! いいから早く帰るぞ! 美咲、そういうわけだからユリアは家で預かるぞ?」


「え、えっと。うん! 気をつけてねユリアさん」


「ああああああ! 私は推しの間に挟まる悪いオタクですぅぅぅぅぅ!」



 そうして俺はユリアを家につれて帰ったのだった。



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